水と言霊と

みぃうめ

文字の大きさ
上 下
163 / 346

第163話    異世界人の味覚④

しおりを挟む



「じゃあ優汰の分だけシェフに作ってもらおう。」

 あっくんがそう言った。

「いいの?優汰の分も作るよ?」
「それ、冷めたら美味しくないでしょ?優汰は1人で魔力制御やってるから作ってすぐに持ってっても声かけるわけにはいかないし、何よりここにいない方が悪い!しーちゃんは気を使わなくていいよ。」
「そっかぁ。そう言われるとそんな気もする。じゃあ作るのやめた。」

 フッと誰かの鼻で笑うような声が聞こえ右を向くと、金谷さんが俯きまた肩を震わせていた。
 最近よく笑うようになったなぁ。

「紫愛ちゃん!早く食べたいわぁ!」
「あ!早く作り始めないと遅くなっちゃうね!よーし!頑張るぞ!」

 みんなどれくらいお代わりするかどうかもわからないもんね!

「まずは絢音の分から作るからね!」

 絢音はあっくんの後ろに隠れて嬉しそうに頷く。

 1食分が短時間でできるとはいえ私の分を入れても7人分。
 あっくんは食べるの早そうだし、先に出してみんなの分を作り終わるくらいでまたお代わりがきそうなペースだよね?

「お代わりペースを考えて順番決めるから文句言わないでね!」
「ふふっ、誰も文句なんて言わないわ。紫愛ちゃんの美味しいご飯が待っているんですもの!」
「カオリーン!ハードル上げないでよ!そんな大した物じゃないし、シンプルだから物足りないかもしれないのに!」
「いいえっ!ここの食材であんな素晴らしいお菓子が作れるんですもの!そのガレットに胡椒があれば!!ワインが飲みたいわ!!!」
「お酒ないのかな?シェフに聞いてみる?」
「聞きたいわ!飲みたい!!!」

 珍しい。カオリンが意気込んでいる。
 お酒好きだったんだなぁ。

「絢音、できたよー!次はあっくんだからね。」
「わかった。絢音は俺の隣な。」

 頷く絢音。
 その隣でカオリンが大声で

「シェフさーーーん!お酒はあるの!?」

 と聞いている。

 それにもビックリだ。いつもおっとり優しいカオリンの大声なんて聞いたことない。

 シェフは走ってきた。

「お呼びでしょうか?」
「お酒が欲しいのよ!あるの?」
「ワインならございますが…」
「あるのね!出してちょうだい!」

 私は無言であっくんにガレットを渡す。
 みんな話の行方が気になっている。

「申し訳ありませんがワインは貴重な物ですので、皇帝陛下が出席する様な御祝い事の特別な時しか出せないのです。」
「そんなっ!!!」

 悲壮感を漂わせるカオリン。

「シェフ!俺は明日皇帝に会う。その時俺から皇帝に言うから出してくれ。」
「ですが!」
「いいから。シェフに被害が及ばない様に配慮すると約束する。もし何か被害があったら俺に言ってくれ。必ず俺がなんとかするから。」
「畏まりました。ですが、数自体が少ないので、御用意できる量は少ないと思います。」
「1杯でもいいんだ。香織さんだってそれくらい理解してくれる。」
「無理を言ってごめんなさいね。」
「いいえ、とんでもございません。」

 私は金谷さんに手招きをしてガレットを渡す。

「シェフ、割り込んでごめんね。あのさ、胡椒ってない?」
「……胡椒は、ワインよりも貴重ですからここにはございません。」
「わかった。ありがとう。」

 シェフを困らせるつもりはない。
 これ以上食い下がるのは良くない。
 私達はただでさえ仕事の邪魔をしているんだから。

「カオリンの分はワインきてから作るからね。麗の分できたよ。ラルフとハンスはお代わりいいの?」
「私は欲しいです!!」
「おい!ハンスやめろ!!」
「ラルフ、ハンスを叱らないで。私が欲しいか聞いたんだし、ここまでくれば何人分作ったって大して変わらないんだからさ、遠慮される方が嫌。美味しいと思ってくれてるんなら満足するまで食べさせてあげたいし。」
「紫愛様がそう仰るなら…」
「で?ラルフはお代わりいいの?」
「……私も欲しいです。」
「はぁーい。あ!あっくん!!オーブン見てきて!」
「了解!絢音も見に行くか?」

 丁度2人は食べ終わったところ。
 頷く絢音を連れてオーブンを見に行ってくれた。

「熱いから触るなよ。俺がオーブンから出すからな。」

 と言っているのが聞こえる。

 奥からシェフがワインを持って戻ってきた。
 ワインは陶器のコップに入っている。
 ワイングラスもないのか……
 ハンスにお代わりを渡す。

「シェフさん!ありがとう!」

 ニコニコのカオリン。

「とんでもございません。あの……紫愛様、お手が空きましたら、その作り方を教えていただけませんか?」
「いいけど、食べたこともないのに作るの?シェフの分も作るから食べてみる?それから作るか決めたらどう?」
「そんな!とんでもございません!」
「カオリン、1回待って。今作ってるのシェフに渡すから。」
「勿論よ。私はいつまでも待てるわ!」
「私は結構でございますから!他のお方に渡して差し上げてください!」

 何回も同じようなやり取りは疲れる。
 結局食べる事になるんならこのやり取りは時間の無駄。
 まだまだ量を作らないといけないんだから断れないような言い方をしよう。

「私が作った物は怪しくて食べれない?」
「いいえっ!ですが地球の方にその様なことはさせられません!」
「いいからいいから。いつも仕事の邪魔してる迷惑料だとでも思ってくれたらいいよ。はい、どうぞ。熱いうちに食べた方が美味しいよ。冷めると硬くなるし。それに、シェフの感想も聞かせてくれたら嬉しい。」

 シェフに差し出しても受け取ってくれない。
 私の言い方では効果は無かった。

「ほら、ラルフさんとハンスさんも食べているんだからシェフさんも食べて大丈夫よ。」

 カオリンがシェフを後押ししてくれる。
 後ろからスイートポテトを持ちながらあっくんと絢音が戻ってきて

「おい!しーちゃんの手作り拒否するなんてことしねぇよな?」

 と圧力をかける。
 シェフは折れるしかない。

「では、お言葉に甘えまして…」

 やっと受け取ってくれたよ。
 このやり取りはもう十分だ。
 すぐにカオリンの分を作りだす。

「あっくん、スイートポテト焼けてた?」
「うん。バッチリだよ。」
「2人にあげてくれる?まだ熱すぎて火傷しちゃうから、お代わりのガレット食べ終わってから食べてね!」
「「はい!」」

 2人の返事を聞きながらカオリンの分を渡す。次はラルフの分だ。

「あっくんと絢音はお代わりいる?」
「俺は欲しい。絢音は?」

 絢音は首を横に振った。

「ラルフの分を作ったらあっくんの分を作るから、絢音にジュースあげてくれる?」
「わかった。絢音、向こうに行こう。」

 あっくんが絢音を連れて行こうと歩き出したら

「なんですかこれは!!」

 とシェフの声が響き渡る。

「何って、ガレット。モドキだけどね。」
「一体何を使ったらこんなに美味しい物が!?」
「いやいや、シェフが材料用意してくれたでしょ?それしか使ってないよ。」
「あれだけの材料で?これを??」
「そう。今忙しいから後で作り方教える。とりあえずそれ食べちゃいなよ。」

 言いながらラルフにお代わりを渡す。

 すると今度はカオリンが盛大に咽せた。
 作る手は止められない。

「カオリン大丈夫!!??」
「ゴッ、ゴッホォ!なん、これはなに!?」
「あっくん!!」
「わかった!香織さんどうしましたか?」

 あっくんはカオリンに近寄る。

「川端君!貴方はお酒飲めるの!?」
「はい。」
「これ!飲んでみて!!」
「ですが、これは香織さんが口をつけて「いいから!」

 強い圧であっくんにお酒を飲むよう強要するカオリン。
 仕方なくあっくんが1口。
 辛うじて吐き出さなかったけれど、咽せたのはカオリンと一緒。

「ゴフッ、ン゛ン゛~!なんっじゃこりゃ!!」
「でしょう!!?」

 多分……不味かったんだろう。
 でも無理言って持って来させたそれを不味いなんて言えるはずない。
 撃沈するカオリン。

「カオリン!ガレット食べて元気出して!」
「そうよね……頂くわ。こうなったら自分で作るしかないわね。」

 カオリンは何やら呟いている。

「あっくんも!お代わりできたよ!」
「ありがとう!!」
「2人はスイートポテト食べてみて!」

 あっという間にお代わりのガレットを食べ終わっている2人に声をかける。
 
 今度こそ!!














しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...