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第161話 異世界人の味覚②
しおりを挟む部屋に呼び付けられた2人。
あっくんが私のそばにきたら絢音はあっくんの方に移動した。
「如何いたしましたか?」
「座って。」
私達は全員ソファの反対側に立っている。
「いえ、私達は仕事中ですから!」
「いいから座って!ちょっと試してほしいことがあるの。」
ラルフとハンスは顔を見合わせ、おずおずと並んでソファに座った。
2人の前にスイートポテトモドキを置く。
困惑しまくる2人。
「これ食べた感想が知りたいの。嘘も偽りも無し。本心のみで教えてほしい。」
「ですが…………」
「これ、さっきここにいる全員で食べたから毒は入ってないけど、なんならそれ私が半分食べてみせようか?」
「いえ!そのようなことを心配しているわけでは……これは紫愛様がお作りされた物ですよね?」
「そうだよ?さっき調理場について来てくれたからわかってるかもしれないけど…」
ラルフは顔をかなり引き攣らせて
「あの……これには、その…て何が入っているのでしょうか?」
何が?
材料が知りたいってこと??
「芋と油とシロップと卵。」
「化粧品の原料などは入っていませんか?」
「化粧品の原料!?え、なに?どういうこと?何の心配をしてるの?」
「しーちゃん、多分ラルフが言ってるのは石灰のことだよ。」
「石灰が何で化粧品になるの?」
「ガングロメイクの白部分に使ってんじゃない?」
「あーーー!なるほど!で、それが入ってるかどうかってことだよね?シロップは入ってるけど、石灰はシロップの中には残ってないよ?」
「ですが……」
ラルフは顔の引き攣りが直らないまま。
「よしっ!わかった!これまだあるから、みんなでラルフとハンスともう1回食べよう!」
きっと食べられるのかどうか、不安材料があり過ぎるんだよね!
「まぁ!いいのっ!?また食べられるなんて幸せだわ!」
カオリンは喜んでいる。
みんなに配り終え、地球のみんなはすぐに食べだす。
「はぁー、やっぱり美味しいわぁ。」
「うん、美味しい。」
「ほら、ね?食べられるよ!」
みんなが食べたのを見せられたら、食べるしかないだろう。
先に動き出したのはハンスだった。
「では、ありがたくいただきます。」
それを見守るラルフと地球のみんな。
「おぅえっっっ!」
ハンスは口に入れた瞬間吐き出した。
「ちょっと!大丈夫?そんなに不味かった?」
「すっ!すみませんっ!!!」
「気にしてない。それより大丈夫??とりあえず水飲んで!」
「はいっ!すみませんっ!」
「吐くほど不味かった?」
「ぁ………ぇ…………………と…」
「気は使わないで。本当の気持ちが知りたい。不味いと思ったんなら2度と食べさせるようなことしないから。」
「……では………正直、覚悟をしていたのです。あの石灰を混ぜて作ったシロップ?なのですが、あれは家畜の餌にするほど渋くて苦い野菜なのです。それを大量に使い濃縮するようなことをしておりましたし、石灰も入っていて……人の食べられる物だと思えませんでした。しかし、地球の皆様は美味しいと言って食しておられますので、地球ではその様に食べるのかと思っておりました。それほどに美味であるのかと興味はあっても、口にしたいとは思えず。実際口にしてみたら、食感もなく、感じたこともない味で……腐っているのかと………」
スイートポテトモドキは柔らかい。
言われてみればここには柔らかい食べ物と言えばスープに入ってる煮込まれた野菜のみ。
サツマイモっぽい野菜を蒸した時1口食べてみたけれど、甘みもなくモサモサしたような食感だった。
もしかして甘味のみを感じられる物が、そもそもない?
いや、砂糖はあるって言ってた……
あ!高級品扱いだったっけ!
じゃあそれを口にする機会なんてないかも。
ドライフルーツも酸味が凄かった。
「おい!蜂蜜ねぇのか!?口にしたことくらいあるだろ?」
あっくんは苛つきながらラルフに問いかける。
「蜂蜜はありますが、あれは薬として使う物です。」
「蜂蜜単体で口にしたことは?」
「ありません。ハーブと混ぜて薬にします。そもそもとても量が少なく貴重なのです。どうしてもという時以外は薬としてもなかなか口にすることはありません。」
「では砂糖は?高級品だって言ってたが、それも口にしたことはないか?」
「あれは蜂蜜がない時の代用品です。」
ここでカオリンが口を挟む。
「ねぇ、ちょっと良いかしら?貴族なんだし、オヤツとして食べられている物はあるはずよね?まさか、私達に出されたあの堅いクッキーみたいな物と、酸っぱ過ぎる緑のゼリーのような物しかオヤツはないの?」
「緑のゼリー?は、他の果物でも作られています。」
「味に違いはあるの?」
「いえ、そこまでの違いはありません。酸味の強い弱い程度でしょうか?酸味は強いほど良いとされておりますので、あれが運ばれたんだと思います。あの堅いパンは普通です。それ以外に菓子と呼ばれるような物は……あまりないと思います。」
「では、甘さだけを感じるお菓子は無いのね?」
「甘さ………ですか?」
「無いのね。では、貴方達は普段の食事を美味しいと思っている?」
「美味しいも不味いも、食事はああいった物が普通です。」
ハンスとのやり取りを終えたカオリンは諦めた様子で考察を語る。
「紫愛ちゃん、これは駄目だわ。ここには純粋な甘味はないのではないかしら?食事に美味しさも、多分求めていない。求めていないというよりは、美味しいということを知らない。あるとすれば見た目の華やかさと、必要摂取量かしら?苦味は感じているはずだから、食べられる工夫はしていても、苦味が強過ぎてどうにもならないといった感じ?甘味のみの食べ物はない。例え甘味があっても苦味でかき消される。今食べろと言ったスイートポテトは、甘味を感じたことのないこちらの世界の人にとって、いきなりガムシロップを直飲みさせたような感じなのではないかしら?感じたことのない強烈な何かの味。おまけにとても柔らかい。衝撃で吐き出しても仕方ないわ。」
「ガムシロ直飲み…」
金谷さんがそう呟き、顔を背けた。
でもその肩は震えている。
「ごめんね。そんなに衝撃的な味に感じたと思わなかったの。」
私は再度ハンスに謝った。
「いいえ、紫愛様達が美味しいと言って食べている貴重な物を吐き出すような真似をしてしまって……私こそ申し訳ありませんでした。」
「ねぇカオリン。甘味のない食事みたいな物だったら食べられると思う?」
「それは多分大丈夫だと思うわ。普段の食事を食べていてまともな調味料がある様子もないから、突飛な味付けもないと思うし。」
「塩だけなら食べられそうだよね?絢音に小麦粉でガレットモドキを作った時に、美味しいって食べてくれたの。どんな物なら美味しく感じるのか試してみたいし、このまま地球人が食べている物はとんでもない物だと思われるのも、なんか嫌。」
「作るのは紫愛ちゃんだから、紫愛ちゃんが良いなら良いけれど、ラルフさんとハンスさんが食べてくれるかが問題ではなぁい?」
私は2人に向き合う。
「甘くない食事を2人に作ってみようと思うんだけど、2人は食べてくれる?」
「それは私共のことを考えた上で紫愛様が手作りしてくださるということですか!?」
ハンスは吐き出してしまうような物を食べさせられたのに何故か嬉しそう。
「うん。不味い物だけ食べさせられてお終いは、お互いにとって良くないと思う。」
関係性の悪化にも繋がりかねない。
食べ物の恨みは怖いのだ!!!
「紫愛様が私共のために時間を使っても良いと仰ってくださるならば食べてみたいです!」
「ハンス!図々しいだろ!!」
ラルフはハンスを叱っているけど
「ラルフはどう?食べるの嫌だったらハンスにしか作らないから安心して。」
「しかし!紫愛様のお時間を使わせるなど!」
「私が良いって言ってるんだから問題ないよ。」
「………では、私も食べさせていただきます。」
「ここに持ってくるのも手間だし、材料に何使ってるかも気になるでしょ?作ってるの見てれば何を使って作ってるかわかるから安心して食べられるよね?調理場で作ってそのまま食べない?」
「紫愛様にお任せいたします。」
ハンスが返してくれたから今度はみんなに確認する。
「みんなもそれでいい?」
「しーちゃんがそれでいいなら。」
「私も!紫愛ちゃんの手際も見てみたいわ!」
麗と金谷さんは頷くのみ。
「あっくんは絢音よろしくね。」
「任せて。」
そうしてまた調理場へ移動した。
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