水と言霊と

みぃうめ

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第159話    ショック

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「あっくんは何か理由があってやめた方がいいって言ったんだよね?」
「あ…うん……多分なんだけど……ここに出入りしてるメイドか誰かが、ここの情報漏らしてると思うんだよね。」
「えっ!?何でわかったの!!??」
「なんていうか……さっき訓練場に行った時さ、騎士達の視線が今までにないくらいヤバかったでしょ?俺にもしーちゃんにも、向ける視線の種類が更にエゲツない感じにさ。今日、急にあんな風に変わったんだよ。情報が漏れてなければ、しーちゃんが数日ぶりに出てきただけでここまでの変化は有り得ない。」

 あっくんの説明を聞き、カオリンが椅子から立ち上がり私とあっくんの顔を交互に見る。

「ちょっと!2人とも大丈夫だったの!?」
「はい。俺が魔力で視界遮ったんで、それは大丈夫です。でも、情報が漏れているとしたら……絢音としーちゃんが一緒に寝てること。食事が不味いって文句言ってること。もしかしたら誰がどこの部屋にいるのか。何もかも筒抜けかもしれない。俺は極力不安材料になることは排除したい。」

 あっくんは私に向き直り、言い辛そうに口を開いた。

「絢音としーちゃんが、もしもこっちの奴等に恋人同士だと認識されたら……しーちゃんが強いのは一目瞭然。俺は……しーちゃんのウィークポイントとして絢音が狙われるかもしれないと思ってる。とりあえず俺は漏洩を探る。絢音、このまましーちゃんと一緒に寝ていたら、絢音が危ないかもしれないんだ。1人で寝られるか?」

 私のせいで絢音が……狙われるの?
 そんな……そんなことって…

「みーちゃん、ぼくひとりでねれる。ママも、ねるときにちゅーしておうたうたったらバイバイしてたの。」

 絢音に気を使わせてしまった…
 泣きそうなのをぐっと堪える。
 これ以上心配かけちゃ駄目。

「じゃあみーちゃんが、寝る前に絢音の部屋に少しだけ行って、ちゅーとお歌を歌ってからお休みにしようかっ!」
「うん!」
「みんなお腹空かない?私甘い物食べたくなっちゃった!」

 無理矢理話題を変える。

「ぼくも!」
「じゃあ、絢音はカオリン達とここで待てる?」
「……かおちゃんいる?」
「私はここにいるわよ。一緒に紫愛ちゃんが戻ってくるまで待ちましょうか?」
「……かおちゃんいるなら。」
「まぁ!ふふふっ、ずっとここにいてもいいのよ?」
「カオリン、絢音をよろしくね!」
「任されたわ。」
「しーちゃん!今1人で外に出たら駄目だ!護衛だけじゃ無理かもしれない。俺も行くから!香織さん!俺かしーちゃん以外、誰がここに来ても開けないでください!」
「わかったわ。」
「絢音行ってくるね!お菓子楽しみにしてて!」
「うん!」


 そう言って部屋を出た。
 堰を切ったように涙が溢れる。
 私はあの場から逃げ出した。
 絢音の前で2度も泣けなかった。
 あっくんは棒立ちの私をその体勢のまま抱き上げて歩き出す。

「しーちゃん、よく泣くの我慢したね。落ち着くまで俺の部屋行こう。ね?」

 なんと、あっくんにはバレていた。

「な、んで…」
「しーちゃんが無理してる時くらいわかる。俺が余計なこと言ったせいで考えなくて良いことまで考えさせた。ごめん。」
「あっくんのせ、じゃっ……な、いよ」

 あっくんの部屋に着いて、抱っこされたまま部屋に入る。
 あっくんは縦抱きの私を横抱きに抱き変え、ソファに座った。
 私はそのままあっくんの膝の上に下ろされる。

「何かあってから聞かされても後悔が残るだけだから今聞いて良かったって言いたいんでしょ?俺もそれは思った。でも、言い方が良くなかった。」
「わ、たし……あやね、守っ…れな……」

 絶望感と自分への失望感で涙が止まらない私に、あっくんは強い口調で否定を口にする。

「それは違う。しーちゃんはちゃんと守ってたよ。全身全霊で。こっちの奴等がどう出てくるかなんてわかりっこない。きっと何をしたって裏目に出るんだ。絢音はしーちゃんに気付いてもらって安心してしーちゃんを信頼してる。それって絢音にとって何よりの救いじゃない?気が付けたんなら対策できるってことだ。しーちゃんが自分を責めたら、絢音が1番ショックだよ。僕と仲良くしたからしーちゃんが苦しいんだと思っちゃう。しーちゃんと距離を置くようになるかもしれない。」

 絢音から距離を置かれるなんて絶対嫌だ!
「うぅっ」とうめくように泣く私に更に言葉を続けるあっくん。

「さっきのやり取りで、あそこにいたみんな、しーちゃんがどんなに子供の絢音を大切に思って守りたいかわかったはずだ。香織さんのあの感じからすると、かなり絢音を気に入ってる。金谷さんも、今までお願いしたことに協力してくれなかったことはない。実際、香織さん達と一緒に居てくれてるし。麗はなぁ、まだ若いし、高校生だったんなら社会にも出てない。圧倒的な経験不足と知識の無さ。それと……多分香織さんを絢音に取られるとでも思ってんじゃないかと思う。あの捻くれた性格を思えば絶対認めないと思うけどな。」

 みんなの事まで考慮を語ってくれるあっくん。

「私……ちゃんと、絢音守れてる?」
「しーちゃんは1人でよく頑張ったと思う。絢音のあの懐き方を見れば、どれだけしーちゃんを信頼してるかわかるよ。絢音のことを勝手に話せないっていうのも、絢音にとってはとても大切だったと思う。知らないうちに周りの知らない人が自分の事全部知ってたら……絢音のあの怯え方見てたら、多分信頼関係もなくなってただろう。しーちゃんはできること全部やったんだ。ちゃんと守れてるよ。」
「ゔぅーーっ!私のせいで!絢音、狙われたらどうしよう!!」
「しーちゃんが絢音のこと気付いてくれたから守れるんだ。大丈夫。これから考えていけばいい。」

 そう言って私を強く抱きしめる。
 不安で不安で涙が止まらない。
 絢音を守ると言ったのに!!
 愛流と紫流も守ると誓って守れなかった。
 私は無力だ……意味のない存在だ…
 そんな感情に呑まれそうになった時

「俺もしーちゃんにキスしてもいい?」

 そんなあっくんの声が聞こえてきた。

「なん!でっヒック!そんなこと言っヒック」
「えーだって絢音にキスされたら涙止まってたもん。俺もキスしたら涙止まるのかなぁ?って。何回したら止まるか実験してみる??」

 あっくんの腕の力が緩まり、私はバッと顔を上げてあっくんを見上げた。
 あっくんはニヤつきながら私を見ていた。

 わざとからかい混じりにそんなことを言って涙を止めようとしてくれてるんだ。

 効果絶大ですよ!
 ニヤつくあっくん見たらビックリして涙止まったわ!!!

 あっくんはまだニヤニヤしている。

「どう?キスする??」
「しないっ!!!あっくんのその顔見たら涙止まった!」
「なぁーーーんだ!残念。」
「そんなにニヤつきながら残念とか言われても説得力のカケラもないからね!」
「あっ、バレた?」
「態とやってるくせに!」
「あははは!ほら、とりあえず今やれることやりに行かないと!絢音がしーちゃんの美味しいお菓子を待ってるんじゃないの?」

 それを聞いてお菓子作りの口実を作って出てきた事を思い出した。

「そうだった!早く行かないと遅いって怒られるっ!あっくん何が食べたい?」

 部屋を出て歩きながら話す。

「何って言われてもなぁー俺お菓子の種類あんまり知らないんだよ。しーちゃんが作ってくれるのはどれも美味しいから何でも大丈夫。」
「あ!そうだ!お菓子作りと一緒に大豆も欲しかったの!」
「大豆?それもお菓子に使うの?」
「ミルクの代わりに豆乳って手があるかなと思ってね。あと、絢音がお肉を食べられないの。獣臭いのが無理みたいで……肉は駄目。魚もほぼ出てこないでしょ?出てきてもとんでもなく臭い。多分絢音は肉より駄目だと思うの。乳製品は壊滅。タンパク質を多く摂れる他の物が卵と大豆くらいしか思いつかなくて……卵ばっかりじゃ、それはそれで良くないと思うし、大豆があればきな粉も作れるからお菓子でも使えるなと思って。」
「きな粉って大豆なの!!??」
「あれ?知らなかった?」
「うん。和菓子自体あまり食べたこともない。きな粉餅くらいなら食べたことあるけど、俺は餅は醤油で食べるのが好きなんだ。ばぁちゃんが正月に餅ついてくれてさ、俺が醤油以外で食べないから、きな粉餅も最初の1回食べたきり。」

 いるよね、好きな物ばかり繰り返し食べる人。

「あっくんて、浮気しない派?」
「は?浮気!?しないよ!!何で突然そんなこと聞いてくるの!?」
「いやさ、女の人って新製品とか期間限定に弱くてつい買っちゃったりするでしょ?あっくんはそういうことしない派なんだなって思って。」

 あっくんは暫く口をパクパクさせた後

「……しーちゃん、主語がないよ!」

 と叫んだ。

「へ?」
「食べ物の浮気はしないの?って聞いてくれないと!いきなり何聞かれたのかと思って焦ったよ!」
「何で焦るの?恋人ができても浮気するから?」
「いや!それもしないけど!!!話が飛び過ぎて焦るし理解が及ばないってことだよ!」
「あはは!ごめんごめん!」
 

 そんな会話をしながら調理場に着いた。















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