157 / 346
第157話 答え合わせ
しおりを挟む絢音が頑張ってくれた。
まさか恋人だと思われていたなんて…
でも、言われてみれば見た目は大人と大人。
私と手を繋ぎ、くっ付き合い、食事の時は口元まで拭いていた。
口調は子供に向けたモノでも、その言葉が向かう先は大人の絢音だ。
恋人と思ってるならイチャコラしてるだけに見えるかもしれない。
大学時代を思い出す。
……………うん。恋人に見えるかも。
全てが子供に向けたモノだったから気付いてなかった。私だけが子供だと知っているのはわかっていたのに、周りからの目まで考えていなかった。私の配慮不足だ。
「しーちゃん、何でそれ教えてくれなかったの?」
みんなが驚いていたのはわかってる。
声すら誰からも出なかった。
それくらいの衝撃だったんだろう。
でも、絢音に9歳と言われたらみんな気付いたはず。
前に、繭の中に長時間居れば居るほど年齢の誤差が広がってること、繭の中の人がこれだけ目覚めなくては死んでるかもしれないって話はしたし。
特にあっくんは1番年齢がズレているんだから絢音の歳がこれだけズレていても納得してくれるだろう。
今のあっくんは不機嫌も低い声もどこかに飛んでいってしまっている。
まだ驚きが隠せていない。
「絢音は私を信頼して話してくれたの。それを私が勝手にベラベラ喋ったら、絢音はどう思うの?信じられる人がどこにも居ないって思ったら?もう2度と話してくれないよ?」
誰からも言葉は返ってこない。
私は続ける。これからの未来を。
「それに、みんなに絢音と仲良くしてほしかった。私はずっとここには居られない。私が居ない間、みんなに絢音を守ってほしかった。絢音にもみんなを信頼して、好きになってほしかった。絢音の口から聞かないと信頼はされないし、何より絢音のためにならない。そう思ったの。」
それに返してくれたのは、やっぱりカオリンだった。
「そう。そう、だったのね。絢音君は、1人で頑張っていたのね。それを紫愛ちゃんが見つけてくれたのね。絢音君?私は香織って言うの。私のことは怖くないかしら?」
「……うん。かおちゃんこわくない。」
私は見たよ!!!
カオリンの心が射抜かれた瞬間を!
私がカオリンて呼ぶのも喜んでくれているみたいだし、あだ名で呼ばれるのが嬉しいんだろうな。
「まぁぁぁ!なんて可愛らしいのかしら!」
「絢音君!私、麗!私は?私も怖くないよ!」
麗が近寄りながら話しかけてくるけど、絢音は私にしがみついて俯いてしまった。
「なんでっ!?私の何が駄目なの!?」
大声で言う麗に腹が立つ。
「麗、大声出すのやめて。絢音が怖がってるのに逆効果だよ。」
麗はぐっと言葉に詰まるけど、すぐに
「だって私も仲良くしたいのに!」
麗はむくれている。
私はカオリンに目配せした。
私から言うのは簡単。
でもそれじゃあ駄目。
カオリン達から聞きたいことを聞いてもらわないと。
カオリンはちゃんと理解してくれていた。
「絢音君は、私は大丈夫なのよね?」
「……うん。」
絢音は顔を上げようとはしない。
「麗ちゃん、ちょっと下がっててちょうだい。」
「香織さん!なんで!?」
「なにか理由があるのよ。それを聞きたくても、怖いと思う人が近くにいたら話せないままだわ。」
麗はカオリンの言葉にショックを受け、そのままそこから5歩は下がった。
「絢音君、怖い人は遠くに行ったわ。私も、もう少し絢音君の近くに行ってもいいかしら?」
絢音は私の顔を見つめる。
どうしていいのかわからないのかな?
「絢音はどう?カオリンが近くに来ても怖くないなら来てもらう?」
「……かおちゃんだけ?」
「うん、近くに来るのはカオリンだけだよ。」
頷く絢音。来てもいいってことかな?
「カオリン、いいって。」
私の言葉を聞き、カオリンは近くの椅子を持って私達の座っているソファから、椅子1脚分開けたところに椅子を置いて座った。
「絢音君、これ以上近づかないから安心してね。絢音君に聞きたいことがあるのだけれど、いいかしら?」
絢音はやっと顔を上げて頷いた。
「絢音君はさっきのお姉ちゃんの何が怖いのかしら?教えてくれる?」
「………おかお、みえないから…」
「え?顔が見えない…?」
カオリンは困って私の顔を見る。
私はカオリンに向かって頷く。
「どういうふうに見えないの?」
カオリンは続けて質問するけど、絢音には伝わらない。
首を傾げてしまった。
「私の顔は見えるかしら?」
「うん。」
「紫愛ちゃんのお顔は見えてる?わよね?」
「しあちゃん??」
また首を傾げる絢音。
「絢音、私のことだよ。」
いつもみーちゃんと呼ぶ絢音は私が紫愛と呼ばれていることを忘れているようだった。
私に言われて思い出したみたい。
「みーちゃんのおかお、みえる。」
絢音はかなり舌足らずな喋り方だ。
多分何て呼んでるか理解していないと
“みーちゃん”ではなく“いーちゃん”と聞こえる。
カオリンは頷きながら
「じゃあ、私と紫愛ちゃんの他にお顔が見える人はいる?」
「おっきなひとも、みえる。」
「川端君のことね。お顔が見えると怖くないかしら?」
「うん。」
「見えないと怖い?」
「うん。」
「……そうよね。1番初めに、私が絢音君に色々な言葉で話しかけたのは覚えているかしら?」
「ぼくおぼえてる。」
「私のお顔が見えるなら、あの時はどうして私を見てくれなかったのかしら?」
「あのときかおちゃんのおかおみえなかった。」
「見えなかった?……見えるようになったの?」
「うん。」
「お顔が見えなかったのなら、どうして沢山の言葉で話しかけたのが私だとわかるのかしら?声を覚えていてくれたの?」
「こえもおぼえてる。」
「も?」
「いろおなじ。」
「いろ?」
「うん。かおちゃんこいみどりなの。みんないろちがう。こえもいろもおんなじ。だからかおちゃんなの。」
「どういうこと?色??オーラみたいなモノが見えてるのかしら?……もしかして4色色覚??絢音君、顔が見えなかった時の私と今の私と、見える色は同じなのかしら?」
「うん。おんなじなの。」
「前にお顔が見えなかった時は、どんな風に色が見えていたの?」
「いろだけ。」
「じゃあ今はどう?」
「いまはかおちゃん、これくらいみえる。」
私に説明した通り親指と人差し指で1cmくらいの隙間を作った絢音。
「色は同じ濃い緑なのね?」
「うん。」
「じゃあ紫愛ちゃんは何色なのかしら?」
「みーちゃんはみずいろなの。」
「じゃあ川端君は?」
首を傾げる絢音。
「絢音、川端君はあっくんのことだよ。」
「あーくんははんぶんあかで、あとはきいろとみどりなの。」
ここであっくんが口を開いた。
「ちょっと待ってくれ!それ、まさか因子の色か?麗、金谷さん、香織さんより後ろについてくれ。」
あっくんが麗と金谷さんを呼ぶ。
「絢音、香織さんより右の人は何色に見える?」
あっくんの言葉に絢音は俯いてしまった。
多分、右と左が曖昧なんだ。
絢音はピアノを弾くし、フォークも決まった手で持っていない。
「絢音、右は今みーちゃんと手を繋いでる方だよ。」
絢音は顔を上げ麗の方をチラッと見る。
「きみどり。」
「じゃあ左の人は?」
「きいろ。」
「因子の色なら香織さんと麗は風。金谷さんは土の因子だ。見えてる色が因子の色なら香織さんの顔が見えるようになったのは、多分魔力制御ができるようになったからだ。麗と金谷さんは漏れ出る魔力で塗り潰されて顔が見えないんだと思う。」
「じゃあ早く魔力制御できるようにならないといつまで経っても怖がられたままってこと?」
「多分な。」
「絶対魔力制御できるようになるわ!」
麗は意気込む。
「絢音君、体調はどう?どこか変わったところや違和感……違うわね。痛いところや、おかしいと思うことはないかしら?」
「どこもいたくない。ここ、けがある。あと、め。」
絢音は私に話したのと同じように顎をさすりながら髭のこと、目の色のことを話す。
「目?目が違う??もしかして目の色?そう言われてみれば絢音君の魔力は目から漏れているわね。どんなふうに変わったの?」
「あかいろだった。」
「何言ってんの?赤色の目の人間なんているはずないじゃない!」
と麗は言うが、すかさずあっくんが
「まさかアルビノだったのか?絢音、今そこから俺の顔ちゃんと見えてるか?」
「あーくんのおかおみえる。」
あっくんの口調と声色が前に戻ったせいか、絢音もあまり怖がっていない。
「俺は近づいても平気か?」
「うん。」
「香織さんの所まで近づく。香織さんの横に行くまで俺の顔をずっと見ていてくれ。」
あっくんは絢音を見ながらゆっくりカオリンの横まで来た。
「絢音、俺がここに来るまで見え方が変わったりしたか?」
「おんなじ。」
「そうか……」
と、ホッとするあっくん。
「どういうこと!?」
と麗があっくんに聞く。
「アルビノってのはな、遺伝子異常だ。俺達の髪や瞳が黒いのも、日焼けしたら肌が黒くなるのもメラニン色素によってだ。身体を紫外線から守ろうとする機能だ。そのメラニン色素が産まれつき少ない、またはない。程度にもよるが、大抵は茶色かグレーか青みがかった色がほとんどだ。最も酷い症状なのは赤色の瞳だ。人間で赤い瞳のアルビノはかなり稀なはずだ。赤色は毛細血管の色。つまり血液の色がそのまま透けて見えている。多分絢音はメラニン色素がほぼ無かったんだろう。あまり知られていないがアルビノは弱視だ。それを治す方法もない。アルビノだったとするなら、瞳の赤も正しく認識できていたかどうか怪しい。それくらい視力が弱かったんだろう。」
あっくんは絢音に向き直り、絢音に問い掛ける。
「絢音は地球にいた時、ハッキリと物が見える距離はどれくらいだった?」
絢音は顔の目の前に手の平を近づけて
「これくらい。」
と言った。
その距離僅か20cm足らず。
「やっぱりか…」
「あっくん、これ、絶対バレないようにしたいの。私達が気付いてないだけで、隠れた病気も治ってる可能性がある。年齢以上にバレたらまずい。」
「しーちゃんの言う通りだ。こっちの世界では医療技術も知識もほぼ無いと言っていいだろう。手術はおろか麻酔さえない。病気が治ったなんて知れたら俺達は絶対モルモットだ。」
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる