水と言霊と

みぃうめ

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第157話    答え合わせ

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 絢音が頑張ってくれた。

 まさか恋人だと思われていたなんて…
 でも、言われてみれば見た目は大人と大人。
 私と手を繋ぎ、くっ付き合い、食事の時は口元まで拭いていた。
 口調は子供に向けたモノでも、その言葉が向かう先は大人の絢音だ。
 恋人と思ってるならイチャコラしてるだけに見えるかもしれない。
 大学時代を思い出す。

 ……………うん。恋人に見えるかも。

 全てが子供に向けたモノだったから気付いてなかった。私だけが子供だと知っているのはわかっていたのに、周りからの目まで考えていなかった。私の配慮不足だ。


「しーちゃん、何でそれ教えてくれなかったの?」

 みんなが驚いていたのはわかってる。
 声すら誰からも出なかった。
 それくらいの衝撃だったんだろう。
 でも、絢音に9歳と言われたらみんな気付いたはず。
 前に、繭の中に長時間居れば居るほど年齢の誤差が広がってること、繭の中の人がこれだけ目覚めなくては死んでるかもしれないって話はしたし。
 特にあっくんは1番年齢がズレているんだから絢音の歳がこれだけズレていても納得してくれるだろう。
 今のあっくんは不機嫌も低い声もどこかに飛んでいってしまっている。
 まだ驚きが隠せていない。

「絢音は私を信頼して話してくれたの。それを私が勝手にベラベラ喋ったら、絢音はどう思うの?信じられる人がどこにも居ないって思ったら?もう2度と話してくれないよ?」

 誰からも言葉は返ってこない。
 私は続ける。これからの未来を。

「それに、みんなに絢音と仲良くしてほしかった。私はずっとここには居られない。私が居ない間、みんなに絢音を守ってほしかった。絢音にもみんなを信頼して、好きになってほしかった。絢音の口から聞かないと信頼はされないし、何より絢音のためにならない。そう思ったの。」

 それに返してくれたのは、やっぱりカオリンだった。

「そう。そう、だったのね。絢音君は、1人で頑張っていたのね。それを紫愛ちゃんが見つけてくれたのね。絢音君?私は香織って言うの。私のことは怖くないかしら?」
「……うん。かおちゃんこわくない。」

 私は見たよ!!!
 カオリンの心が射抜かれた瞬間を!
 私がカオリンて呼ぶのも喜んでくれているみたいだし、あだ名で呼ばれるのが嬉しいんだろうな。

「まぁぁぁ!なんて可愛らしいのかしら!」
「絢音君!私、麗!私は?私も怖くないよ!」

 麗が近寄りながら話しかけてくるけど、絢音は私にしがみついて俯いてしまった。

「なんでっ!?私の何が駄目なの!?」

 大声で言う麗に腹が立つ。

「麗、大声出すのやめて。絢音が怖がってるのに逆効果だよ。」

 麗はぐっと言葉に詰まるけど、すぐに

「だって私も仲良くしたいのに!」

 麗はむくれている。

 私はカオリンに目配せした。
 私から言うのは簡単。
 でもそれじゃあ駄目。
 カオリン達から聞きたいことを聞いてもらわないと。
 カオリンはちゃんと理解してくれていた。

「絢音君は、私は大丈夫なのよね?」
「……うん。」

 絢音は顔を上げようとはしない。

「麗ちゃん、ちょっと下がっててちょうだい。」
「香織さん!なんで!?」
「なにか理由があるのよ。それを聞きたくても、怖いと思う人が近くにいたら話せないままだわ。」

 麗はカオリンの言葉にショックを受け、そのままそこから5歩は下がった。

「絢音君、怖い人は遠くに行ったわ。私も、もう少し絢音君の近くに行ってもいいかしら?」

 絢音は私の顔を見つめる。
 どうしていいのかわからないのかな?

「絢音はどう?カオリンが近くに来ても怖くないなら来てもらう?」
「……かおちゃんだけ?」
「うん、近くに来るのはカオリンだけだよ。」

 頷く絢音。来てもいいってことかな?

「カオリン、いいって。」

 私の言葉を聞き、カオリンは近くの椅子を持って私達の座っているソファから、椅子1脚分開けたところに椅子を置いて座った。

「絢音君、これ以上近づかないから安心してね。絢音君に聞きたいことがあるのだけれど、いいかしら?」

 絢音はやっと顔を上げて頷いた。

「絢音君はさっきのお姉ちゃんの何が怖いのかしら?教えてくれる?」
「………おかお、みえないから…」
「え?顔が見えない…?」

 カオリンは困って私の顔を見る。
 私はカオリンに向かって頷く。

「どういうふうに見えないの?」

 カオリンは続けて質問するけど、絢音には伝わらない。
 首を傾げてしまった。

「私の顔は見えるかしら?」
「うん。」
「紫愛ちゃんのお顔は見えてる?わよね?」
「しあちゃん??」

 また首を傾げる絢音。

「絢音、私のことだよ。」

 いつもみーちゃんと呼ぶ絢音は私が紫愛と呼ばれていることを忘れているようだった。
 私に言われて思い出したみたい。

「みーちゃんのおかお、みえる。」

 絢音はかなり舌足らずな喋り方だ。
 多分何て呼んでるか理解していないと
 “みーちゃん”ではなく“いーちゃん”と聞こえる。

 カオリンは頷きながら

「じゃあ、私と紫愛ちゃんの他にお顔が見える人はいる?」
「おっきなひとも、みえる。」
「川端君のことね。お顔が見えると怖くないかしら?」
「うん。」
「見えないと怖い?」
「うん。」
「……そうよね。1番初めに、私が絢音君に色々な言葉で話しかけたのは覚えているかしら?」
「ぼくおぼえてる。」
「私のお顔が見えるなら、あの時はどうして私を見てくれなかったのかしら?」
「あのときかおちゃんのおかおみえなかった。」
「見えなかった?……見えるようになったの?」
「うん。」
「お顔が見えなかったのなら、どうして沢山の言葉で話しかけたのが私だとわかるのかしら?声を覚えていてくれたの?」
「こえもおぼえてる。」
「も?」
「いろおなじ。」
「いろ?」
「うん。かおちゃんこいみどりなの。みんないろちがう。こえもいろもおんなじ。だからかおちゃんなの。」
「どういうこと?色??オーラみたいなモノが見えてるのかしら?……もしかして4色色覚??絢音君、顔が見えなかった時の私と今の私と、見える色は同じなのかしら?」
「うん。おんなじなの。」
「前にお顔が見えなかった時は、どんな風に色が見えていたの?」
「いろだけ。」
「じゃあ今はどう?」
「いまはかおちゃん、これくらいみえる。」

 私に説明した通り親指と人差し指で1cmくらいの隙間を作った絢音。

「色は同じ濃い緑なのね?」
「うん。」
「じゃあ紫愛ちゃんは何色なのかしら?」
「みーちゃんはみずいろなの。」
「じゃあ川端君は?」

 首を傾げる絢音。

「絢音、川端君はあっくんのことだよ。」
「あーくんははんぶんあかで、あとはきいろとみどりなの。」

 ここであっくんが口を開いた。

「ちょっと待ってくれ!それ、まさか因子の色か?麗、金谷さん、香織さんより後ろについてくれ。」

 あっくんが麗と金谷さんを呼ぶ。

「絢音、香織さんより右の人は何色に見える?」

 あっくんの言葉に絢音は俯いてしまった。

 多分、右と左が曖昧なんだ。
 絢音はピアノを弾くし、フォークも決まった手で持っていない。

「絢音、右は今みーちゃんと手を繋いでる方だよ。」

 絢音は顔を上げ麗の方をチラッと見る。

「きみどり。」
「じゃあ左の人は?」
「きいろ。」
「因子の色なら香織さんと麗は風。金谷さんは土の因子だ。見えてる色が因子の色なら香織さんの顔が見えるようになったのは、多分魔力制御ができるようになったからだ。麗と金谷さんは漏れ出る魔力で塗り潰されて顔が見えないんだと思う。」
「じゃあ早く魔力制御できるようにならないといつまで経っても怖がられたままってこと?」
「多分な。」
「絶対魔力制御できるようになるわ!」

 麗は意気込む。

「絢音君、体調はどう?どこか変わったところや違和感……違うわね。痛いところや、おかしいと思うことはないかしら?」
「どこもいたくない。ここ、けがある。あと、め。」

 絢音は私に話したのと同じように顎をさすりながら髭のこと、目の色のことを話す。

「目?目が違う??もしかして目の色?そう言われてみれば絢音君の魔力は目から漏れているわね。どんなふうに変わったの?」
「あかいろだった。」
「何言ってんの?赤色の目の人間なんているはずないじゃない!」

 と麗は言うが、すかさずあっくんが

「まさかアルビノだったのか?絢音、今そこから俺の顔ちゃんと見えてるか?」
「あーくんのおかおみえる。」

 あっくんの口調と声色が前に戻ったせいか、絢音もあまり怖がっていない。

「俺は近づいても平気か?」
「うん。」
「香織さんの所まで近づく。香織さんの横に行くまで俺の顔をずっと見ていてくれ。」

 あっくんは絢音を見ながらゆっくりカオリンの横まで来た。

「絢音、俺がここに来るまで見え方が変わったりしたか?」
「おんなじ。」
「そうか……」

 と、ホッとするあっくん。

「どういうこと!?」

 と麗があっくんに聞く。

「アルビノってのはな、遺伝子異常だ。俺達の髪や瞳が黒いのも、日焼けしたら肌が黒くなるのもメラニン色素によってだ。身体を紫外線から守ろうとする機能だ。そのメラニン色素が産まれつき少ない、またはない。程度にもよるが、大抵は茶色かグレーか青みがかった色がほとんどだ。最も酷い症状なのは赤色の瞳だ。人間で赤い瞳のアルビノはかなり稀なはずだ。赤色は毛細血管の色。つまり血液の色がそのまま透けて見えている。多分絢音はメラニン色素がほぼ無かったんだろう。あまり知られていないがアルビノは弱視だ。それを治す方法もない。アルビノだったとするなら、瞳の赤も正しく認識できていたかどうか怪しい。それくらい視力が弱かったんだろう。」

 あっくんは絢音に向き直り、絢音に問い掛ける。

「絢音は地球にいた時、ハッキリと物が見える距離はどれくらいだった?」

 絢音は顔の目の前に手の平を近づけて

「これくらい。」

 と言った。
 その距離僅か20cm足らず。

「やっぱりか…」
「あっくん、これ、絶対バレないようにしたいの。私達が気付いてないだけで、隠れた病気も治ってる可能性がある。年齢以上にバレたらまずい。」
「しーちゃんの言う通りだ。こっちの世界では医療技術も知識もほぼ無いと言っていいだろう。手術はおろか麻酔さえない。病気が治ったなんて知れたら俺達は絶対モルモットだ。」














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