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第155話 side麗 鬱憤②
しおりを挟むオヤツを食べ終わって暫くしたら、外から楽器の音が聞こえてきた。
部屋の中の全員が何だ何だと騒ついた。
特に優汰は煩かった。
みんなで外に出て、凄く驚いた。
閉じこもっていたはずの、紫愛が美青年君と呼んでいた綺麗な彼が外に出ていたから。
美青年君は紫愛にしがみついて隠れた。
最初から紫愛と川端さんには少し反応を見せていたし、説明を受ける時には川端さんのデカい図体に隠れていたし、2人以外には怯えた様子を隠してなかったから、私達の姿を見て隠れるのは納得。
紫愛の性格を考えたら、何とかしようと接触してそれが成功したんだろう。
川端さんはロビーの入り口付近に立って見守っているような状況。
相変わらず不機嫌そうだけど、香織さんが美青年君に話しかけたからそっちに目が行く。
最初怯えて隠れていた美青年君は、紫愛にアヤネと呼ばれ宥められると、紫愛から離れて香織さんに頷いた。
なによ!言葉通じてんの!?
だったらそう言いなさいよ!
優汰はいつもの通り空気を読まず、香織さんとアヤネの会話に割り込む。
馬鹿みたいに大声で1人で捲し立ててアヤネを怯えさせた。
優汰が女の人ならって言うから、私だって香織さんと一緒の反応が返ってくるもんだと思って話しかけたら顔を隠された!
何で優汰と扱いが同じなのよっ!!!
紫愛だって私と同じくらいの見た目じゃない!
香織さんは騒ぐ私と優汰を優しく黙らせ、アヤネに話しかけている。
紫愛が作ったチャンスなんだから、香織さんが無駄にする訳ないよね!
なんとか歩み寄りたいという空気が香織さんからヒシヒシと伝わってくる。
私も邪魔しないように黙っていた。
それなのに!!!
川端さんは今まで聞いたこともないような低い声で紫愛に話しかけた。
違うでしょ!!
そこはアヤネに優しく話しかけるところ!
みんなで場を取り持とうとしてんのに何してんのよ!
アヤネは川端さんの声に飛び上がって部屋に逃げ込んでしまった。
紫愛は慌てて追いかけてるし、香織さんも困っている。
川端さんは自分が空気壊した癖に部屋に戻った。
ふざけんなよ!!
最初は紫愛と一緒にアヤネを守ろうとしてたじゃない!
何であんなに冷たい態度なの!?
何で話しかけないの!?
空気壊しといて逃げてんじゃねーよ!
お前の機嫌なんて知らねーよ!!!
私が怒りに震えていたのを香織さんが気付き
「まぁまぁ、落ち着いて。これから時間はいくらでもあるんだからきっと仲良くなれるわ。言葉が通じているのがわかっただけでも紫愛ちゃんに感謝しなくちゃ。慌てても良いことはないわよ。」
と宥められた。
違う!!!
私はアヤネのことを怒ってんじゃなくて!
川端さんの態度に怒ってるんだ!
でもここで怒っても肝心の川端さんはいないし、香織さんを困らせるだけだから我慢するしかなかった。
夕食にアヤネは来なかった。
香織さんがアヤネのことを聞くと
あの後部屋から出てくる様子もなく、反応もないと紫愛が言う。
紫愛の分のオヤツも食べていたと聞いて、川端さんはわかりやすく顔を顰めた。
私の食事の席は川端さんの真向かい。
嫌でも目に入る。
最初から不機嫌だったけど、なんで今その表情??
意味わかんない。
紫愛がオヤツを自分の分まであげたのが気に入らないってこと?
この人そんなに食い意地張ってたっけ??
もしかして私より甘い物が好き?
優汰が、俺がさっき川端さんの分も食べたと言えば優汰を睨みつけた。
紫愛も後から別のお菓子を持っていくと言ってる。
やっぱり私よりも甘い物が好きなんだ。
まさか紫愛が部屋から出て来ない間お菓子が食べれなかったから不貞腐れてたの?
コイツ!そんなことでこんなに不機嫌なわけ?
まじで許さん!
次の日の朝食、アヤネは紫愛と一緒にいた。
相変わらず紫愛の腕にしがみついている。
でも…なんか雰囲気おかしくない?
昨日は川端さんに腹が立ちすぎてて気が付かなかったけど、いくら怖がっててもこんなに女の人にくっつくものなの?
紫愛だって嫌がってない…っていうより、自ら近寄ってない?
すっごい優しく笑ってるし話しかけてる。
私だったら絶対嫌!!
優汰にも川端さんにも腕にしがみつくことさえ嫌!
豪は……無害すぎてよくわかんないけど。
え?まさか2人って付き合ってんの?
この距離感絶対おかしいよね!?
確かにアヤネは人間かと思うくらい綺麗!
紫愛の気持ちもわからなくもないけどさ!
そんな余裕あるわけ!?
今度は紫愛にも腹が立ってきた。
男女の付き合いに口出すつもりはないけど!
好きにしてくれたらいいんだけど!
でも、今じゃなくない!!??
もしかして川端さんもこれに腹が立ってたわけ?
お菓子じゃなくて紫愛達が遊んでるから?
でも紫愛だって今まで頑張ってた。
それもわかるから怒るに怒れなかったってこと?
うーーーん…
確かに息抜きは必要だよね…
紫愛だって、実際部屋から全く出て来なかったのなんてたったの2日。
私は経験ないけど、人を好きになる気持ちは止められないって聞くし…
後でまた香織さんに聞こう!
朝食はほぼ無言。
ただでさえ不味いご飯を寝起きで食べなきゃいけないことに機嫌が悪くなるのが自分でもわかる。
でも食べないわけにはいかない。
これしか食べる物ないんだから…
紫愛は甲斐甲斐しくアヤネの世話を焼いていた。
付き合ってるとわかっちゃえば納得。
納得すれば、目の前でイチャイチャしているようにしか見えない。
見せつけんなよ!!
部屋でやれ!!!
そりゃ2人がカレカノだってわかってたんなら川端さんも私と同じ気持ちだろう。
川端さんは5分もこの場に居なかった。
朝食が終わり、みんなで席を立つ。
紫愛とアヤネは手を繋いで同じ部屋に入って行った。
香織さんと豪と部屋に戻り
「ねぇ!あれなに!?2人は付き合ってんの?香織さん知ってた!?」
香織さんはわかりやすく眉を下げ困った様子で
「いいえ、私も知らなかったわ。でも、付き合っていると決めつけるのは早計ではないかしら?まだアヤネ君のこと何もわかっていないわ。」
「でも!手繋いでた!!あんなに寄り添って!距離感おかしすぎるでしょ!?」
「例え2人がそういう仲になっていたとしても、それは2人の自由ではないかしら?」
「それはそうだけど!目の前であんなにイチャイチャされたらみんなの空気が悪くなる!川端さんも遊んでる2人に気ぃ悪くしてたんじゃないの?」
「それは、まぁ…………」
香織さんは言葉を濁した。
ハッキリ言えばいいのに!
「そうでしょ!川端さんがあのままなのは耐えられない!ただでさえムカついてんのに、紫愛はこれわかってないでしょ!?」
「まぁまぁ、これ以上酷くならないように何かしらの手は考えなければならないかもしれないけれど、今はもう少し様子をみましょう。」
「香織さんは優しすぎる!」
「そんなことはないわよ。みんな何かしら我慢しているんだから。心の拠り所が見つかったのならそれはとても良いことだわ。そこにすぐに水を差すべきではないと思うだけよ。邪魔をされたら反発したくなるものだもの。」
香織さんの言葉はいつも説得力がある。
確かに邪魔して更にイチャつかれたら最悪!
「香織さんがそう言うなら。」
もう暫くは我慢するしかない。
きっと、今より状況が悪くなったら…
香織さんが良い案を出してくれるだろう。
だけど、我慢できないことが起こってしまった。
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