水と言霊と

みぃうめ

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第153話    side亜門 葛藤③

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 今回は残酷回です。
 苦手な方はそっと閉じてください。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「「はぁ!?」」

 おーおー息ピッタリだな。

「なんだ?なんか文句あんのか?」
「ないっ!ないがっ!!それをすれば……死んでしまうであろう!?」
「死なねぇようにプジーがいるんだろ?切り落としてそのまま焼けば尿道が塞がり尿が出なくなる。そうしたら死ぬだろうな。だから切り落とす前にプジー刺して尿道確保してから切り落とす。その後傷口を焼けば問題ない。」
「その…………睾丸ではいけないのですか?睾丸を取り去れば、子は望めませんよ?」

 ギュンターは顔を引き攣らせている。
 それくらいはわかってんだな?

「お前達は本当に甘いな。足よりむしろこっちが本命だ。不貞をした罰則なんだ。当たり前だろう?俺はな、子ができなくなればそれで良いとは思ってねぇんだよ。睾丸の除去なら女は変わらず抱ける。逆を言えば、子ができないから好き放題できるってことだ。腐っても貴族。そうだろ?楽しむ方法なんていくらでもある。そんな余地与えるつもりは更々ねぇな。」

 子供作れないくらいなんだよ。2度と女を抱けないようにしてこそだろうに。

「そして足だ。子はできなくても現場に復帰して武勲を立てられるのも我慢ならねぇ。男はどっちかで役に立てば認められるだろ?罰則なら両方の可能性を潰さなくてどうする?“貴族としての価値の否定”それが何よりの罰則だと俺は思うがな?それに何より、これは見せしめの始まりだ。これでもヌルいくらいだと俺は思うね。お前達は確かに俺がやることに口は出さねぇだろう。だが、腹ん中ではやり過ぎだと思ってねぇか?そう思ったんなら、もう皇帝やめろ。お前には無理だ。血の粛清なんてできねぇよ。」

 このチャンスすら活かせない奴に俺が協力する意味も価値も無い。

「いいや。死んでしまわないか不安だったのだ。不貞ののち殺されたとなれば、私を排除する力が働きすぎてしまうのでな。川端殿は死なないようにする手段を持っているのであろう?」

 皇帝の態度は毅然としたもの。
 出てきた言葉も……まぁこれなら及第点か。

「手段っつーか、まぁこれくらいじゃ人は死なねぇよ。壮絶な痛みは伴うがな。まあ俺は1人か2人くらい死んでくれねぇかなとは思ってるな。」
「何故だ?」
「それくらい酷い罰則ができたと知らしめるためだ。罰則による死亡は大して問題じゃねぇ。罰則は法を破ったという正当な理由がある、されて当然の事なんだからな。実際目にしないと貴族は信じねーかもなぁ。怪我治ったら全裸で貴族のパーティにでも放り込むか?」
「それは……どうかと……」

 ギュンターは困っているな。
 そんなこと本当にやるわけがない。
 が、面白そうだ。少し揶揄ってやるか。

「俺が連れてきゃいいだけだろ?皇帝に言われて俺が刑を執行した。お前らもこうなりたくなかったら自重しろとでも言って、マントで隠してた裸を晒す。みたいな感じか?」
「おお!それは良いな!」
「陛下っ!!!」
「はっはっは!冗談だ。」

 いやいや、目が本気だったじゃねぇか!
 でもそこまで思えるなら問題ねぇか?

「川端殿と紫愛殿は、相変わらず良い関係なのだな。」

 いきなり皇帝が俺達の仲に焦点を当てる。

「何故そう思う?」
「紫愛殿は川端殿に甘えるなと怒っておった。私を腰抜けだと、粛正ができぬなら皇帝をやめろとも言っておったな。まるで同じ事を言われておる。言っている意味は粛正と粛清で違えども、根本は同じであろう。心底川端殿を心配している様子であった。」
「……そうか。」

 しーちゃんは、変わらず俺のことも心配してくれているのか……それなのに俺は…

 割り切れなくてごめん。
 すぐには無理そうだけど、必ず応援できる俺になるから…

「では明後日、昼食を終えた辺りで迎えを寄越す。」

 そう言って出て行った。


 集中力が切れて、しーちゃんのことを考えてしまう。
 もう夕食の時間だ。
 アイツは来るのだろうか…
 はぁー。キッツイな…


 だが、アイツは夕食に来なかった。
 しーちゃんにオヤツを食べていないのがバレて、後で持っていくと言われた。
 断ったつもりだったのに、夕食後、わざわざしーちゃんが部屋のお菓子を持ってきてくれた。
 お菓子のお礼と、女々しくも明日の訓練に本当に行けるか確認をしてしまった。
 しーちゃんはちゃんと行くといい、訓練を休んだことを謝ってくれた。

 一緒に行けることにホッとした。

 お休みを言い扉が閉まる寸前、しーちゃんは俺の右側に歩いて行った。そっちはアイツの部屋だ…

 しーちゃんのアイツを心配する声。
 聞きたくないのに、ほんの少しの扉の隙間が閉められない。
 しーちゃんの声が急に小さくなった。
 アイツが出てきたんだろう。
 何を話しているのかは聞こえない。

 何を盗み聞きしているんだか…
 自分の間抜けさに、ふっと笑いが漏れる。
 扉を閉めようとドアノブに手をかけた「うおっ!」という驚いたようなしーちゃんの声と、啜り泣くよう音。

 今度は泣き落としか!?
 と怒りが蘇ってきた瞬間一一一
 しーちゃんの優しい声が聞こえてきた。
 そのあまりの優しく労る声に、心臓が痛くなる。

 そんな声、俺は聞いたことがない。

 俺はドアノブにかけた手を捻り、音が出ないように扉を閉めるしかなかった。
 そのしーちゃんの声が俺に向けられたことはない。
 その事実に打ちのめされた。
 俺には最初からチャンスなんてなかったんだ…



 翌朝、朝食の時間になりロビーに出ると、アイツはしーちゃんの腕に絡みついていた。
 さっさと食べてすぐにここを立ち去りたい。
 幸い、朝食はいつもほとんど無言だ。
 みんな寝起きで不味い飯を食わなければならないことに朝からストレスを感じている。
 不味い朝食をかき込み、ご馳走さんと呟いて部屋に逃げ帰った。
 部屋に入り、昼食まで無心で魔力制御をする。

 昼食は別々だ。
 魔力制御に区切りをつけ、昼食もさっさと食べ終わりロビーへと向かう。

 しーちゃんはアイツと一緒にピアノがある3階にいた。
 俺がロビーに出てからすぐにしーちゃんも1階に降りてきた。

「お待たせ!じゃあ行こっか!」

 と、こちらに両手を上げ差し伸べられる。
 思わず驚きの声と共に1歩下がってしまった。
 しーちゃんは戸惑った様子だが、それは俺だよ!
 抱っこして行くのは確かに俺が言い出したことだけど、もうそれは叶わないことだと思っていた。
 好きな男ができたのに、他の男に抱っこされるなんて嫌に決まってる。
 そう思っていた。
 2度も本当に良いのか確認し、歩けと言うならそれでも構わないと言われ、直様しーちゃんを抱き上げた。
 相変わらず小さくて軽くて暖かくて可愛い。
 しーちゃんが良いって言ってるなら抱っこしたいに決まってる!

 でも、何でしーちゃんは平気なんだ??
 しーちゃんの性格を考えたら、恋人ができたなら他の男との接触は極力避けるはずだ。
 悶々としていたら、表情に出ていたんだろう。
 我慢してるならやめてもいいと言われてしまった。
 自分からしーちゃんとの触れ合いを減らすなんて無理だ!
 さっさと歩き出し、我慢なんてしていないと伝えた。

 俺は触れ合いたいのを我慢してるんだよ!!


 練習場に向かう道中に、騎士団連中の視線の変化にすぐに気がついた。
 しーちゃんを舐めるように見ている。
 それも、身体を…
 それに俺に向かってくる視線に、畏怖の他に紛れ込む視線。
 それは、哀れみの類だった。

 何故哀れまれているんだ?

 そんな理由どこにもない!
 何よりしーちゃんに向かう視線が許せない!!!
 明らかに性的欲求が向けられている。
 何故だ!?
 たった数日でここまで変化する訳がない!
 考えろっ!!
 絶対理由があるはずだ!

 考えに考えて…

 予測の域を出ないが、メイドか護衛かが、しーちゃんとアイツの閉じ籠り生活の情報を流した可能性に至った。

 訓練場に来なかった数日、しーちゃんが抱き潰されて動けなかったんだと思っていたら?
 それをしたのが俺ではないとわかっていたら?

 俺は毎日変わらず訓練場に来ていたんだ。
 寝不足の様子も何もなく、しーちゃんだけが来ない事実。だとすれば同じ地球人の別の男に取られたと考えるだろう。
 だから哀れみの目で見られている。
 取られた上で、俺にも抱っこされている…

 マズイ!!!
 恋人か、遊びか、それはわからなくとも!
 しーちゃんは少なくとも男2人と遊んでいるように見られているんだ!
 それならしーちゃんへのこの異常なまでに向けられている性的欲求の視線にも説明がつく!
 遊んでいるなら俺達もイケるかもと思っているんだ!

 コイツら全員の目玉をくり抜いてやりたい!

 俺が絶対守る!!!


 道中はほぼ無言だった。
 俺は視線の変化への考察をしながら辺りを警戒し、なんとか訓練場に辿り着き2人でホッと息をつく。
 しーちゃんも視線の変化に気がついていた。
 これ以上しーちゃんを不安にさせてはいけないと、火魔法の話題を振る。
 俺が火が出せたことに喜んで褒めてくれた。
 火魔法の話題になるが、2人して手詰まりだった。
 しーちゃんもみんなの意見を聞いた方が良いと言う。
 そうだね。と話を切り上げ、しーちゃんはできることの復習をさらりとやり、部屋へ帰ろうとしーちゃんを抱っこをする。

 これは俺の権利だ!
 誰にも何も言わせないし譲らない!

 訓練場を出ると、今まで見たことのない数の騎士団員がいた。
 もう我慢できないし、するつもりもない!
 全員を壁に寄せ跪かせ、濃密な魔力で包み込み視界を奪う。
 しーちゃんは驚き目を見開いた。
 しーちゃんからの尊敬と申し訳なさが混じった眼差しを向けられる。
 俺はしーちゃんを必ず守るからね。
 寝ている時もできるようになってみせるから!


 ロビーに辿り着きしーちゃんを下ろすと、お礼を言った後すぐに昇降機へ向かうしーちゃんを見て、今までしーちゃんを抱っこしていた腕が軽くなったことに寂しさを覚える。
 行かないでくれと叫びたいのを堪える。
 昇降機に乗り込んだしーちゃんを見て、これ以上は見たくないと、そのまま部屋に戻り魔法の文献を漁るが、やはり良い答えは載っていない。

 香織さんの所へ行くか…


 コンコン

「香織さん、俺です。入ります。」

 そう言い部屋に入る。
 部屋には香織さん、麗、金谷さんがいた。
 俺は椅子に座る。

「お疲れ様。どうしたの?」
「火魔法で火が出るようにはなったんですが、それを活かせる魔法が思いつかなくて…」
「火が出せるようになったのね!おめでとう。火の魔法ね?うーーーーーーん……」

 考え込んだ香織さんに、さっさと部屋に戻りたい俺は思わず重い溜息が出る。

「はあぁぁぁぁーーーー。」
「ちょっと!あんたいい加減にしなさいよっ!!!」

 怒鳴ってきたのは麗だった。















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