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第146話 ピアノの配置
しおりを挟む「まぁ!貴方部屋から出てこられたの?それにこれは……貴方ピアノが弾けるの?」
カオリンが話しかけてきてくれた!
これはチャンスなのでは!?
絢音はカオリンをじっと見つめている。
絢音は座ったままで私にしがみついている状態だ。
私はそっと絢音の背中に手を回し、ポンポンとしながら「絢音、聞かれてるよ?」と言った。
絢音は私にしがみつく手を離し、カオリンに向かって頷いた。
喋るのはまだハードル高いかな?
そう思っていると
「君、あやねって言うの!?俺優汰!よろしくね!」
と、優汰が大声で割り込んできた。
折角絢音が勇気出して頷いてくれたのに!
優汰の大声で絢音はまた私にしがみついてしまった。
優汰の方には視線すらやらない。
「えっ!?あれ??何で隠れちゃうの!?俺は駄目??あっ!女の人じゃないと駄目なの!?」
捲し立ててくる優汰にイライラする。
怯えてるの見えないの!?
「アヤネくん?私は麗って言うの。よろしくね!」
なんと麗まで参入してきた。
絢音は麗のことも拒否。
俯いていた顔が私の身体に押し付けられ、顔すら隠してしまった。
「え!?私も駄目なの!?何で優汰と同じ扱いなの!?」
「まぁまぁ、麗ちゃんちょっと落ち着いて。優汰君もいきなりそんなに大声で話しては駄目よ。折角出てきてくれたんだもの。ビックリしちゃうわよ。ね?あやねくん?」
カオリンはいつもの優しい声色。
絢音はその優しい声に、私に押し付けていた顔を少し離してカオリンをじっと見つめている。
もしかして、カオリンの顔、見えてる?
確かにカオリンは操作があと少しというところまできている。
絢音にこっそり小声で「顔見える?」と聞くと、絢音は頷いた。
「他の人はどう?」これには絢音はフルフルと首を横に振る。
やっぱり見えるんだ!!
絢音が見えているのは魔力で確定だ。
少しだけ間違っている可能性も考えていたけど、一安心。
顔が見えさえすれば表情がわかる。
顔が見えないことに不安に拍車がかかっているだけなら、これから顔が見えるようになれば問題ない。
みんな魔法を使えるように魔力制御に必死なんだから時間の問題だよね!
「言葉が通じたのね?安心したわ。紫愛ちゃんがキッカケを作ってくれたのね。最初から紫愛ちゃんの声には反応していたものね。あやねくんはピアノがすきなの?」
カオリンの顔を見つめ頷く絢音。
「女の人じゃなきゃ駄目ってことないかぁ。川端さんにも懐いてたもんね!麗は俺と一緒で無視されてるしな!」
「うっさいわね!優汰と一緒にしないでくれる!?今に仲良くなってみせるんだから!」
カオリンは優しいし、優汰と麗は相変わらずだけど、そのやり取りはどこか和むものがあるいつもの光景。
絢音はまだ2人の方は見ないけど、顔が見えるようになれば明るい2人とはすぐに仲良くなれそうな気がするなぁ。
金谷さんは相変わらず言葉は発せず見守る姿勢を崩さないし、絢音が警戒しないままいつの間にか自然にそこに居ても大丈夫になりそう。
などと、思考を巡らせていると
「しーちゃん、体調はどう?大丈夫なら明日から訓練再開しよう。その間だけしーちゃん借りるからよろしくな。」
地を這うような低く響くあっくんの不機嫌全開の声に、一瞬で場の空気が凍りついた。
あっくんのその声に絢音は大きくビクッとし、自分の部屋に駆け込んでしまった。
今のあっくんの声は私でも怖いんですけど!
「わかった!明日から訓練行くからよろしく!」
とだけ言い、慌てて絢音を追いかける。
「絢音?大丈夫だから出ておいで~。」
小さくノックをしながら優しく声をかける。
けれど絢音からの応答は一切なし。
暫く粘ったけれど、部屋から出てくるどころか物音一つしない。
はぁーーー。
私が慌てすぎたかもしれない。
絢音に怖い思いをさせてしまった。
諦めて振り向くと、そこにあっくんはいない。
私が絢音の部屋に呼びかけ続けている間にあっくんは自分の部屋へ入るのが視界の端に入っていた。
あっくんは私が休んでいる間も1人で頑張ってくれている。私が向けられる嫌な視線も訓練も、魔法で何ができるか考えるのも、全て引き受けてくれている。
そんなあっくんに“苛つくな”なんてとても言えない。
カオリン達は私が困っているのを見て、待っていてくれた。
「カオリン、ごめんね。絢音はまだうまく話せなくて…」
「紫愛ちゃん、私達は何も気にしてないわ。言葉が通じるのがわかっただけでも大きな収穫なんだもの。意思疎通が可能なのはとても大切だわ。ゆっくりいきましょう。」
「うん。ありがとう。」
コンコン
「失礼いたします。このクラヴィチェンバロ コル ピアノ エ フォルテはこの場にこのまま置いておいてもよろしいのでしょうか?」
この場に置く許可を得て戻ってきたラルフにそう聞かれた。
「えっ!?ここに置くの!?ここでジャンジャン弾かれたらうるさくて集中できない!」
「麗ちゃんの言う通り、かなり部屋にも音が聞こえてきたのよ。多分部屋の中に入れてもそこまで音の大きさは変わらないわ。制御に集中できなければ魔法は習得できない。あやね君のためという紫愛ちゃんの気持ちはわかるけれど、あやね君1人のためにみんなが集中できなくなってしまうのは違うと思うのよ。」
カオリンの言う通りだ。
私は絢音のことしか考えてなかった。
みんなが集中できないのは大問題だ。
「ラルフ、何か音が遮断できるような道具ない?」
「皇帝陛下とお話しした際に使われた魔法具が音の遮断をする物ですが……あの魔法具はかなり希少で、おいそれとお貸しできるような物ではございません。」
「私が皇帝に直接頼みに行っても駄目かな。」
ここでラルフの隣に居たハンスが声を上げた。
「紫愛様、今から皇帝陛下が皆様に会いにこちらに参ります。その時にお伺いしてみては如何でしょうか?」
皇帝がここに来るの!?
……そういえば私達の安全の確保のためにランダムで来るって言ってたの忘れてたわ。
「わかった。直接聞く。」
それから5分と経たないうちに皇帝はギュンターと共にやってきた。
「すぐに訪れられず済まない。少し立て込んでおったのだ。こちらの部屋は如何か?何か不自由があれば申すが良い。」
「音を遮断する道具が欲しい。」
「使用目的をお伺いしてもよろしいですか?」
ギュンターが皇帝の代わりに聞いてくる。
「ピアノ使いたいんだけど、音が漏れると他の人が集中できない。」
私は指でピアノを差しながら言う。
「半径5m程の範囲の狭い物でしたらばあるいは……陛下、如何いたしますか?」
「貸し与えよ。紫愛殿、魔法具は魔法陣と同じで壊れてしまえばそれまでなのだ。壊さないように使用してほしい。」
「わかった。」
「紫愛ちゃん、私は魔法が使えるようになったら、いずれロビーで研究をしたいの。部屋に資料を運び込んでしまったら、必要な資料のために部屋の行き来が生じてしまうわ。時間のロスを減らすためにもここでやりたいの。資料を沢山置けるようになるべく余計な物はロビーに増やしてほしくはないわ。」
そうだった。
研究の邪魔になるなんて本末転倒。
でも……じゃあどこに置こう。
周りを見渡すと、ふと昇降機が目に入った。
あるのは知ってたけどわざわざ見にも行っていなかったそこ。
近寄って見てみる。
遠くから見ていたら小さく正方形に見えていたその場所は、思っていたよりも大きく、奥に長い長方形だった。
1m四方くらいだと思っていたけど、1.5m×2.5mはありそう。
少し考えれば広くて当たり前だ。広くなければ上の部屋には少しの大きな物も運べなくなってしまう。
「ギュンター!ここに置きたい!」
ピアノ斜めに置けばなんとか入りそうだし、奥側に絢音に座ってもらえば危なくもなさそう。
弾く時に上にあげてしまえば誰かが来てもすぐに逃げられる見通しも確保できる。
「畏まりました。」
ギュンターはピアノを少し斜めに置くように指示を出す。
これなら絢音が椅子に座っても窮屈じゃないね。
「ありがとう。」
「とんでもございません。音の魔法具は釦を押すだけで遮音が可能でございます。使わない時は釦を押し、切ってください。設置された魔石がすぐに空になってしまいますから。」
「わかった。」
「紫愛殿、川端殿はどこにおるのだ?少々話したいことがあってな。」
「私も皇帝に話したいことがある。みんなはカオリンと部屋に戻ってて。」
「わかったわ。」
そしてロビーに残ったのは私、ギュンター、皇帝、護衛騎士達のみ。
「あっくんの所に行く前に話したい。すぐ終わるから私の部屋に来て。ハンスとラルフも一緒にね。」
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