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第145話 ピアノ
しおりを挟む翌朝、みんなが食べているメニューと同じご飯を絢音と2人で一緒に食べる。
絢音が明日からみんなと同じご飯が食べられるのか確認したかった。
絢音は、あれだけ苦いと思って食べなかった野菜を全て食べた。
逆に、半分も食べられなかったのは肉。
「お野菜苦いのに全部食べられたね!凄いけど、無理してない?大丈夫?」
「だいじょぶ。」
と返事が返ってくる。
きっと、我慢はしている。
でも本人が頑張ると言っているのに食べなくても良いとは言えないし、食べられるなら食べてほしいことに変わりはない。
「お肉は、食べられそうにない?」
「おにくは……もうたべれない。」
「お肉の何が嫌だった?」
「……におい。」
なるほど。
獣臭いのが我慢できないんだ。
苦いのは飲み込めばなんとかなっても、臭いのは我慢して食べたら胃からもニオイが上がってきて吐いてしまうかもしれない。
「お肉は、無理して食べなくても大丈夫。気持ち悪くなったら大変だから、少し食べてくれたらもう十分だよ。大豆、あるかなぁ…」
肉に変わるタンパク質が摂れればいいんだけど。
「パンは平気?」
「ぱんはだいじょぶ。」
「ジュースに浸して食べてもいいかもね!そうだ!今日はパンプディングをオヤツにしようか?」
「それなぁに?」
「えっとねー、パンと卵とシロップで作るんだけど、甘くて柔らかくて美味しいんだよ!ご飯が美味しくないから、頑張って食べたご褒美のオヤツが欲しいよね?」
「ぼくそれたべたい!」
「じゃあそれを3時のオヤツにしようね。」
「うん!」
「もうすぐピアノが来ると思うんだけど、何種類かあるみたいだから全部持ってきてくれるんだって!絢音が弾くものだから、試しに弾いてみて選びたいよね?」
「うん!」
「でもね、多分だけど、グランドピアノはないと思うの。絵を描いて説明したんだけど、こんな大きな物はありませんって言われたの。絢音が思ってるピアノと違うかも……」
期待してガッカリするのは悲しいよね。
覚悟だけしておいてもらわないと!
「だいじょぶ。ぼくおもちゃのぴあのでもあそんでた!おとなればいい!」
えっ!?
ガッカリどころか、音が鳴ればいいの!?
「玩具のピアノって、机の上に置けるような小さなやつのことを言ってる?」
「うん!2おくたーぶしかないやつ!」
嘘でしょ…そんなのでもいいの?
それなら家にもあったよ。
鍵盤バンバン叩いてただけだったけど紫流のお気に入りだった。
「2オクターブしかなくて曲弾けるの?」
「ひけるのいっぱいある!」
いっぱい!?
それは、絢音が沢山の曲を知っているということ。
「絢音って、どれくらいピアノが弾けるの?」
「どれくらい???」
あぁ、これは私の聞き方が良くなかった。
「えーーーーーっとねぇ……みーちゃんクラシック詳しくないんだよぉ……難しい曲難しい曲……あっ!リストのラ・カンパネラは弾ける?」
これは難しいって有名だったし、私が好きな曲だ。
「まえはかんたんだったけど……ずっとひいてないからてがうごくかわかんない。」
絢音は暗い表情になってしまった。
「じゃあまた弾けるように練習すればいいよ!みーちゃんラ・カンパネラ大好きなんだ!絢音のピアノ楽しみにしてるね!」
というか、9歳でラ・カンパネラが簡単って……
もしかして絢音ってば天才!?
神童と騒がれててもおかしくない。
「ぼく、みーちゃんのためにがんばる!」
ズッキューーーーーーーーーン!!
もう!
もう!!
もうっ!!!
絢音が可愛すぎる!
射抜かれましたよ私!
絢音を抱きしめて「楽しみにしてるね!」と言い、微笑み合った。
しかし、お昼を過ぎてもピアノが来ない。
部屋の外に出てもラルフはいない。
どうなっているのかとハンスを呼ぶ。
「ラルフに頼み事したんだけど、ラルフどこに行ったか知らない?」
「先程戻って参りましたが、調律に時間がかかっていると伝えて慌てて出て行きました。」
「わかった。ありがとう。」
ピアノだから調律がいるよね。
そこまで考えてなかった。
部屋に戻り絢音に報告。
「ピアノの調律に時間がかかってるんだって。いつ来るかわからないから、先にオヤツ食べちゃおうか?」
「うん!」
「作ってくるから待っててね。」
私は全員分のパンプディング を作り部屋に戻る。
カオリンの部屋に行きオヤツを差し入れしてから絢音の所に戻って一緒に食べた。
あっくんはまだ訓練場から戻っていなかった。
絢音は「おいしい!!これすき!」と夢中で食べてくれたから私の分も半分あげた。
丁度オヤツを食べ終わったところに
コンコン
とノック音がした。
「紫愛様、お待たせいたしました。今から運び込ませていただきます。」
と、ラルフ。
はぁーいと返事をし
「絢音、ピアノ来るって!見に行こう!」
と言ったが、絢音は部屋を出ようとしない。
顔が強張っている。
きっと、顔が見えないと言った地球人のみんなが怖いんだ…
「絢音?みーちゃんも一緒に行くから大丈夫だよ。手を繋いで行こうか?怖くなったら私の後ろに隠れてもいいよ。折角ピアノが来たんだもん。見に行こうよ!」
手を差し出し、絢音を促す。
「………うん。」
絢音と手を繋ぎロビーに出ると、ピアノらしき物が3台並べられていた。
絢音は目を輝かせてピアノを見つめている。
喜んでくれて良かった。
そこにあっくんが訓練場から戻ってきた。
あっくんは不機嫌全開。
きっとまた騎士団連中に絡まれたんだろう。
「あっくんお疲れ様!カオリンの部屋にオヤツ置いてあるから食べてね!」
「………ありがとう。」
お礼を言われたけど、声が低い。
オヤツ食べて機嫌が直るといいな。
絢音はあっくんの低い声を聞いて、私の手をぎゅっと力強く握りしめ腕にしがみついてきた。
目が見えなかった分、声色にかなり敏感な絢音。
あっくんの不機嫌さを感じ取ってしまい怖かったんだろう。
「大丈夫だよ。絢音に怒ってるわけじゃないからね。」
と、絢音を宥める。
「ピアノ試しに弾いてみようか?」
と聞くと、頷く。
絢音にくっつかれたままピアノに近づくと
「大変お待たせいたしました。調律に予想以上に時間がかかってしまい遅くなりました。」
とラルフに謝られた。
「昨日いきなり言ったのに用意してくれてありがとう。」
「とんでもございません。右からクラヴィコード、ハープシコード、クラヴィチェンバロ コル ピアノ エ フォルテとなっております。」
とんでもない名前が沢山出てきた…
聞いたこともない!
最後のやつにピアノが入ってたけど、もはやピアノと最後のフォルテしか覚えてない。
名前なんかなんでもいっか!と開き直る。
要は弾ければ良いんだから。
「絢音、弾いてみる?」
絢音は私の言葉に頷き、右のピアノの前に座って鍵盤を両手で弾く。
無言で次のピアノへ行き、同じことをして、また次のピアノで同じことをする。
正直、思っていた音色と違い過ぎて戸惑った。
まるでギターのような音なのだ。
これがピアノ!?
しかも1番最初に弾いたのは音もちっさい!
最後のピアノの前に座っている絢音の隣に行き「どう?」と聞く。
絢音は私に「これがいい」と耳打ちしてくる。
絢音が耳打ちしてくるのでつられて私も絢音に耳打ちする。
「他のは駄目だった?」
「さいしょのやつひきにくい。つぎのやつおとのおおきさおなじ。」
「これが1番弾きやすい?」
頷く絢音。
絢音が弾くんだからこれが良いだろう。
「ラルフ、これここに置いてほしいんだけど良い?」
「とても貴重な物なので、全てを置いておくわけにはいかないとのことです。」
「これだけでいいの。」
「でしたら可能かと。一応最終確認をして参ります。」
「よろしくね。」
そんなやり取りをしていたら部屋からカオリン達が出てきた。
咄嗟に私にしがみつく絢音。
カオリン達は絢音を見て目を丸くしている。
あっくんはさっき話した場所から一歩も動いていなかった。
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