144 / 345
第144話 恐怖
しおりを挟むその日の夜は、絢音がお腹いっぱいで食べられないと言ったので夜ご飯は食べなかった。
久々にお腹いっぱいに食べて胃がビックリしたのかもしれない。
明日から地球のみんなと一緒にご飯を食べて、少しずつ仲良くなろうと言ったけれど、絢音が「もうちょっとみーちゃんといっしょにいたい」と、可愛いことを言うので、じゃあ明後日からにしようとなった。
ラルフに楽器はあるのか聞いたらあるとのこと。ピアノはあるか聞いたけど、いつもの如く通じない。
仕方なく絵で鍵盤のような物を描き見せたら、何種類か見たことがあると言う。
絢音に選ばせたいけど、外に出るのは無理。
守りながら戦えるか不安が残るのに外に出せない。
明日、ここに持ってこれるピアノ全て持ってきてと頼んだ。
私からみんなに絢音のことを話そうかとも考えたけれど、絢音の口から聞かなければみんな納得はしないだろう。みんなからの信用も得ることはできない。
それでは絢音のためにならない。
それに、私が絢音のことを勝手に話すのは違うと思う。
絢音は私だから色々話してくれたのだ。
それを私の判断で勝手に絢音のためと理由付けをして話していいわけがない。
みんなと食事を共にするならみんなと同じご飯を食べないといけないこと。絢音だけを特別扱いしたら反感を買ってしまうこと。全員が我慢してご飯を食べていることを言ったら、僕も頑張って食べると言ってくれた。
どうしても無理だったら私が作ることも伝えた。
9歳の子にこんな我慢をさせるなんて、本当ならまだ全然必要なことじゃない。
まだ遊び回って美味しい物を食べて、少しの勉強をして寝るのが普通だ。
絢音のことを色々考えていたら、かなり不安になった。
それは、地球に戻った時のこと。
もし、地球に戻ったら……歳は戻るのか、アルビノの絢音はまた視力を失うのではないか、もし歳が戻らなかった場合、私やあっくんはまだ、なんとでも誤魔化しがきくと思う。整形したんだとか、いくらでも嘘がつける。
でも、絢音は?
子供から大人になってしまった身体。
例え両親だって自分の子だとは認めてくれないだろう。アルビノですらなくなっているんだ。下手をすれば両親よりも歳をとってしまっているかもしれない。
そうなったら、絢音の戸籍は?
あの見た目で9歳なんて誤魔化しがきくわけがない。
外人さんの見た目年齢に自信はないけど、30歳は超えているだろう。
唯一の救いと言えば、目がほとんど見えていなかったための見た目の齟齬への拒否感と嫌悪感がないことだけ。
もし最悪を仮定するならば、歳は戻らず病気だけが復活してしまうこと。
家族もいない中で、目が見えず、戸籍すらない。
一体どうやって生きていくの?
絢音にとって、本当に地球に戻ることが正しいのかわからない。
でも、絢音だけ残していくなんて……ここに残ったって利用されるか殺される未来しか見えない。
一体どうすればいいのか……
誰にも相談できない。
例え相談できたとしても、私達の年齢の齟齬の理由なんてわからないんだから解決策が見つかる訳もない。
絢音と一緒のベッドに入り、頭を撫でながら1人で答えの出ない問題に泣きたくなる。
どうしたら絢音が幸せになれるのか…
1人で悶々としていた「みーちゃん」と呼ばれた。
「どうしたの?まだ眠れない?」
「あのね、ぼく……みーちゃんにおねがいがあるの。」
「なぁに?」
絢音はモジモジしている。
何か言いづらいお願いなのかな?
可愛いなぁー。
また頭を撫でる。
「言ってくれないとわからないよ?」
「ぼく…………おやすみのちゅーしてほしい。」
なんですとっ!?
あーー絢音はママ似だからママが外人さんの可能性高いよね。
スウェーデンにいたって言ってたし。
それならしてもらってたかもしれない。
私も愛流と紫流にお休みのちゅーはしてたけど、それはほっぺとかオデコだった。
口にしてと言われたらハードル高いな…
でも、頼まれるということは信頼してくれてるということ。
「お休みのちゅーはママにしてもらってたの?」
「うん。」
……聞かねばなるまい。
絢音ママがどこにちゅーをしていたのかを。
「ママは絢音のどこにちゅーしてくれてたの?」
「ここと、ここと、ここ。」
絢音は指で両方のほっぺとオデコに触れた。
セーフ!!!
焦ったよ本当に!
オバさんドキドキしちゃったよ!?
「いいよ。お休みのちゅーしようね。」
絢音の両の頬とオデコに軽くちゅっとする。
「これでいいかな?」
「ぼくも、する。」
「絢音もお休みのちゅーしてくれるの?」
「うん。」
「ありがとう。じゃあお願いね。」
絢音はわたしの両の頬にキスをしてくれた。
「おうたも……うたってほしい。」
絢音の言葉の端々から、絢音への愛を感じる。
絢音のママは絢音が大好きだったんだな
ぁ。
「ママは何を歌ってくれてたの?私が知ってる曲なら良いんだけど…」
「ママはいつもちがうおうただった。」
「決まってなかったの?」
「うん。」
「じゃあ、何でもいいの?」
「うん。」
それはそれで困ったな…
何でもいいと言われても、そもそもレパートリーなんてそんなにない。
今から寝ることも考えると静かで優しい曲がいいよね。
「私が子供達に歌ってた歌でもいい?」
「ぼく、それききたい!」
「良いよぉ。」
私が歌ったのは、愛の曲。
不思議と私が感情を込めてこの曲を歌うと、愛流も紫流もどれだけ愚図っていてもすぐに寝てくれた。
絢音も、安心して眠れるように気持ちを込めて静かに歌う。
歌い出してすぐ「みーちゃん、おうたすごくじょうず。みーちゃんのこえひかってる」と褒めてくれた。
持ち上げるのが上手だなぁ。
「ありがとう。」
お礼を言い、絢音のオデコにもう1度キスをしてまた歌い出す。
今度は頭を撫でながら。
この歌は私にとって特別だ。
私の気持ちはとても歪。
その自覚があるから、その歪な感情を子供に向けてしまって良いのか、とても悩んでいた時期があった。
だけど、この歌に出会い、私は私のままで良いのだと教えられた気がした。
誰1人同じ人がいないように、愛にも色んな形があるのだと教わった。
世の中に愛の歌は沢山あるけれど、そのほとんどが恋人へ向けたモノ。
この歌も、もしかしたら恋人への歌なのかもしれない。
でも私は、私の愛を認めてくれる歌だと感じた。
私はこの歌に出会ってから、何かを大切だと思える気持ちは、全て愛なんじゃないかと考えるようになった。
異性への特別は、今もわからない。
でも、男女関係なく、人としての好きはわかる。
その最たる先に居るのはマッキーと親方だ。
友愛と親愛。
2人が居てくれなかったら今の私はいない。
子供が産まれても、多分愛せなかった。
大切だとすら思えなかっただろう。
2人は当たり前を教えてくれた。
人を大切だと想うことを教えてくれた。
人を愛するということを教えてくれた。
移ろい行くモノばかりの世の中で、この想いが不変だと私が感じる唯一が子供達。
そうだと、思っていた。
例えこの世界の人間を皆殺しにしたって、この世界を滅ぼしたって、子供達のために地球に帰りたいと思っていた。
だけど…
私は絢音を見捨てて子供達の元へ向かえるのだろうか…
子供達に会うために絢音を見殺しにしなければいけないとなった時、本当にそれができるのか…
もしそれが本当にできたとして、愛流と紫流に心の底から会えて良かったと言えるのか…
考えだしてしまえば、それは絢音だけでなく地球のみんなにも当てはまってしまう。
みんなを見捨てて私だけ地球に帰る選択肢があった場合、私は迷わず帰れるのだろうか…
駄目だ!!!
こんなこと考えちゃ駄目!
全員で帰るんだ!!!
なかったら別の帰る方法を探せばいい!
自分の中に生まれた恐怖を抑えつけ、いつの間にか眠ってしまった絢音を抱きしめ私も眠った。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる