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第137話 シロップ作り
しおりを挟む「さて、シェフさん?食材を見せてほしいんだけど、いい?」
「私のことはシェフで構いません。食材は食糧庫です。ご案内いたします。」
食糧庫に着くまでに調理中の食材や机の上で刻まれた野菜が目に入る。
「優汰、あれら何かわかる?」
「あんだけ切り刻まれてたらわかんないよ。普段スープに入ってる野菜も匂いと味が全然結びつかないし。てかひたすら苦いだけなんだもん。」
「あの…普段のお食事はお口に合いませんでしたでしょうか?」
「もしかして、私達のご飯作ってくれてるのってシェフ?」
「はい。僭越ながら私がお作りさせていただいております。」
「いつもありがとう。」
「い、いえ…勿体無いお言葉でございます。」
「なぁ、俺達に出されてる食事はこっちでは普通なのか?」
「いいえ。皇帝陛下にお出ししている物と同じ物をお出しさせていただいております。」
嘘でしょ!?
皇帝と同じなの!?
そりゃあ、豪華だわ。
それに文句をつける私達……
とんでもなくワガママに見えてるんだろうなぁ。
なんか落ち込む。
「しーちゃん、気にすることない。俺達のせいじゃないんだから。」
「そうだよ!!全ては野菜が不味いせいだ!」
「…………うん。」
「紫愛ちゃーん、俺お菓子食いたいよ!作ってぇ!」
優汰は気を使ってくれたんだろう、話をわざとらしく逸らした。
「優汰ありがと!そうだね!麗も待っててくれてるもん!とりあえず作れるか見てみよう!」
食糧庫に到着して、目の前には野菜や備蓄用の袋に入れられた物などが沢山置かれていた。
「うおぉぉぉぉぉ!!!!すっげぇぇぇぇぇ!!原種ばっかり!宝の山だぁぁ!」
優汰は到着するなり野菜を見て歓喜の雄叫びをあげた。
1つずつ齧っては「クソ不味い!!」と言いながらニコニコしている。
シェフの顔は引き攣っていた。
「シェフ、小麦はどこにあるの?」
「こちらでございます。」
そこには袋に詰められた小麦が山になって積まれている。
「優汰!この小麦見てどう思う?」
優汰は袋を覗き込み、一摘み小麦を手の平に出し匂いを嗅いだ後、指先についた粉をペロリと一舐め。
「うーん、悪くないんじゃない?」
「そうなの?」
「ただ、香りが強い。多分1種類の小麦のみでブレンドとかはしてない。これで全ての物を作ってるんなら合う合わないは割と出てくるよね。」
「優汰って凄いんだね。少し見ただけでそんなに色々わかっちゃうなんて!」
「俺プロだもん!」
「優汰から見てお菓子は作れそうだと思う?」
「うーーーん。何を作るかによるけど、ここってパンがあれでしょ?酵母菌とか、発酵云々ないんじゃないの?それにミルクも吐くほど不味かった。多分バターもチーズもヨーグルトも何もない。当然生クリームなんて夢のまた夢。そんな何もない状態で小麦からお菓子って作れるの?」
「そっか…ミルクがあれなんだもん、それ系は壊滅だよね。パウンドケーキか、堅めのクッキーか………あ!シェフ!砂糖とか蜂蜜とか、果物はある?」
そもそも砂糖がなければお菓子なんて作れるわけなかった!
「果物はござますが…砂糖は高級品で、厳重に保管されておりますのでここにはございません。蜂蜜は薬なので、蜂蜜もここにはございません。」
「じゃあドライフルーツとかは?」
「それならば少しはございますが…その…そちらもかなりの高級品でございます。」
「何か1つ食べさせて!」
出されたドライフルーツを齧る。
うん…ドライフルーツでこの甘味の無さ。
「あっくん、これ食べてみて。」
と、私の齧りかけのドライフルーツをあっくんの口に運ぶ。
「えっ…えっ!!!???」
あっくんが口を開けた隙に放り込む。
高級品て言われたからね。
味見のために新たに齧るのは気が引けるよ。
「どう?私は甘味あんまり感じないんだけど。」
「う…うん……酸味ばっかりで、甘味はほんの少ししか感じない。」
もしかして味覚障害再発した訳じゃない?
こっちの世界の物自体がこういう物ってこと?
はぁーー。詰みです。
甘さがなきゃ麗はお菓子とは認めてくれないだろう。
「あっくん、無理かも…お菓子作れない。」
「シェフ。とりあえず果物はあるんだろ?それ見せてくれ。」
「はい。果物はこちらです。」
果物はあった。
あるけど…目の前にあるのは酢橘くらいの大きさの柑橘っぽい物が籠1杯。
蜜柑だと思おう。
しかもその全てが真緑。
あとは棚に少しの野葡萄の様な物と、スモモのような形の物。でも表面はツルツルしているし、かなり小さい。
置いてある量を考えたら、多分蜜柑以外は高級品なんだと思う。
溜息が止まらない。
部屋の隅に目がいく。
すると、小さな籠に黄色になった蜜柑を発見した。
「ねぇ、これは何で避けてあるの?」
「それは色が変色したので廃棄するために避けてあるのです。」
緑の蜜柑を剥いて少し齧る。
すっっっぱ!
これさっき出てきたゼリーみたいなやつだ!
今度は廃棄扱いの黄色になった蜜柑を剥いてみる。
中も黄色になっている。
齧ろうと口に運ぼうとしたら止められた。
「おやめください!!これは廃棄する物です!お腹が痛くなってしまいます!」
「いいの!シェフに責任はない。ギュンターにもそう言うから!」
と言って齧る。
美味しい!!!甘酸っぱい!
「あっくん!これ食べてみて!美味しいと思うんだけど、これ甘さ遠い?」
あっくんは私の差し出した黄色の蜜柑を受け取り齧る。
「確かに甘さは若干遠いけど、美味いよ!蜜柑みたいだね!」
やった!
これ煮詰めたら酸味はある程度飛ぶはず!
「シェフ!これ貰う!」
「いけませんっ!廃棄する様な物をお渡しするなどできません!」
「いいんだよ。俺達はこれが欲しいんだ。しーちゃんが言った通り、ギュンターには俺達から言うからシェフに責任を取らせる様なことは絶対ない。」
「ですが!」
「俺達がいいって言ってんだ。引け。」
シェフは黙り込んでしまった。
「しーちゃん、これどうやって使うの?」
「とりあえず煮詰めて酸味飛ばしたいの。皮剥くの手伝ってくれる?」
「了解。」
廃棄蜜柑を片手に調理場へ向かおうとしていたら「紫愛ちゃん!!俺良い物見つけた!」そう言う優汰が片手に野菜を握りしめている。
見た目は丸い蕪の様なそれ。
「それ……なに?」
「わかんない?知りたい?知りたいよね!?」
「おい優汰!それが何かさっさと教えろ!」
あっくんは青筋をたてている。
「川端さんこっわー!少しくらいいいじゃんか!あのねぇー…これは!甜菜ですっ!!!」
「えっ!?本当に!!??」
「しーちゃん、テンサイって何?」
「砂糖みたいな甘さが取れる野菜だよ!お菓子作れるかも!あ、でも甜菜から砂糖作る方法知らない…」
なんとかなるかと思いきや作り方知らなかったよ。
「紫愛ちゃん!俺!俺が知ってるよ!」
「優汰知ってるの!?じゃあ砂糖作れる?」
「材料あれば甜菜シロップ作れるよ!30kgくらいはありそうだったから、それなりの量が作れるはず!石灰ないかな!?」
「あっくん!石灰だって!!あるかな?」
「シェフ!石灰はあるか!?」
「石灰…でございますか?それは、化粧品の?」
「灰でもいい!いいから持ってこい!大量にだぞ!」
「はい!!!」
「それと、俺ナッツも見つけた!生のまんまだったけど。」
「優汰凄いよっ!シロップ作れるならナッツの飴がけも作れるよ!」
「よし!しーちゃんはナッツと廃棄蜜柑持って行って!優汰は俺と甜菜持ってくぞ!」
そして手分けして調理場へ。
1番大きな寸胴を貸してもらい水を半分入れて火をつける。
「その鍋の中に甜菜の身の部分刻んで入れて!70度くらいになったら身は取り出すから!」
「しーちゃん、俺に任せて!」
あっくんは葉っぱ部分を切り落とし、身を細かく賽の目に切り刻んで鍋に放り込む。
全て風魔法で一瞬。
優汰は口をあんぐり。
「なんだよそれ!!川端さんそれチートじゃね!?俺だってそれやりたい!!!」
あっくんは優汰を無視したまま全ての甜菜を切り刻んであっという間に鍋は一杯になった。
調理場の人達はみんな固唾を呑んで見守っている。
「すいません!このナッツ剥くの手伝ってください!」
見ているだけなら手伝ってもらおう!
「「「「「「はい!」」」」」」
みんな素直に手伝ってくれる。
みんなでナッツの外側の皮を剥いていたら「紫愛ちゃん!そろそろ甜菜取り出して!」と優汰から合図がくる。
「俺に任せて。」
あっくんは風魔法で寸胴を持ち上げ、ザルみたいな物を設置したもう一つの寸胴に移し替える。
何度もザルに溜まった甜菜を捨てながら移し替えが終わり、優汰がそこにシェフが持ってきてくれた石灰をガンガン投入していく。
ナッツの皮を剥いていた異世界人達は悲鳴を上げた。
「ひぃっ!」
「何をっ!?」
と口々に言っているが無視だ無視。
「これ、沈殿させた後に上澄み煮れば完成だよ!」
「ねぇ、これ沈殿するのかなりかかる?」
「そうだね。」
「じゃ私が分離させる!」
先程煮ていた空になった寸胴に水分だけを水魔法で移し替えていく。
「ねぇ!紫愛ちゃんもチートなわけ!?」
優汰がまた騒ぎ出すがそれも無視して「煮立たせればいいんだよね?」と言いながら火をつけてもらう。
すぐに煮立ってきた。
「これからどうすればいいの?」
「これ煮詰めるんだよ。シロップの濃さになるまでね。」
「また時間かかるじゃん!私がやる!」
そして今度は水を水魔法で取り除いた。
鍋には所々固まった砂糖らしき塊。
「これじゃ使いにくくない!?鍋から削らないと取れないよ!お湯入れてシロップに戻して!!」
優汰に指摘され、慌ててお湯を足し、濃度を調整するのは結局火にかけて様子見。
なんとかシロップは完成した。
小説ではこういうのは大抵魔法で簡単安全、且つ一瞬でできるはずなのに!!
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