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第132話 異世界の魔法
しおりを挟む練習場に入って、やっと下ろしてもらえた。
笑いを堪えるのに必死で疲れたよ!
「ラルフは土。ハンスは水だな。とりあえず、どんな魔法ができるのか実際にやってみせてほしい。この世界の基準も知りたい。第一騎士団の平均くらいを教えてくれ。」
「「畏まりました。」」
「では、私から参ります!」
ラルフが右腕を前に出し、練習場に敷き詰められている土をウニョウニョと動かす。
かなり広範囲だ。
「これが土魔法です。」
「「え?」」
そんなこたぁわかってますよ。
土動いてるからね!
確かに土魔法でしょうね!
「因みにそれ、全力なのか?それとも平均か?」
「全力です。」
「「はぁ?」」
広範囲で土の形少し変えただけじゃないの!?
あ!もしかして触ってみたら普通の土じゃないとか?
「あっくん!土!触りに行ってみよう!」
「!!そうか!!」
2人で目の前の形が変わった地面に向かい触ってみる。
………うん。普通の土。というか、地面。
踏んづけてみても固いだけ。
崩れやすいということもない。
色々動き回って確認するけど、どこも同じ。
んー???どういうこと?
「あの…土魔法はこうなのです。川端様が以前土魔法を使い、様々な形に土を作り替えていましたよね?あんなことは不可能です。川端様が特別なのだと皆が思っています。」
「はぁぁぁあ!?じゃあ俺みたいに土の塊飛ばすのは?」
「そんなことはできません。」
「飛ばすのが無理なのは、まぁ、なんとなく理解できる。でも土の塊くらいなら作れるだろ?」
「できません。」
「なんでだよっ!!!土が動かせるなら塊作るくらい簡単だろ!?じゃあ土魔法で他に何ができる?」
「土を地面から離すことが不可能なのです。あとは壁を作れます。」
「ちょっと待て!これで魔物とどう戦うっつーんだ?魔物を土の中に取り込んで絶命させんのか?」
「土魔法は足元のバランスを崩したり追い込んだりするのに使いますから、補助的役割が大きいのです。」
「訳がわからねぇ。しーちゃんはラルフが言ってることわかる?」
あっくんとラルフのやり取りを黙って聞いていたけど、これが土魔法??
正直なところ、何もできないに等しいと感じた。
「全く理解できない。地面から離れたって土は土。皇帝は優劣はないって言ってたけど、あれ嘘なの?土魔法が補助しかできないなら完全な優劣じゃない?」
「いえ、皇帝陛下は嘘は申しておりません。魔法全てで太刀打ちするのですからそこに優劣は存在しません。何が欠けても魔物に対抗できません。私も土で副団長ですから。」
これが優劣じゃないって言うの?
何もできないような、これが??
まさか………
「まさか、とは、思うけど……他の因子魔法も1、2種類しか使えないの?」
「その通りです。威力の差。それが違うのみです。」
あっくんと私は絶句。
何の為に確認しようとしてたのか。
これじゃあ参考にすらならない。
「あ!じゃあ氷は?氷を出現させようとしたら火も水も強くなるんでしょ?それならお互いが協力して更なる戦力増強になるよね?」
「不可能です。」
「な・ん・で・よ!!??」
「氷を出現させようとすると、火と水の魔力持ちが、お互い同時にぶつけ合わなければならないのです。魔法の発動に至るのには人それぞれのタメがあります。更に、威力を上げようとするならば、初めから強力な魔力をぶつけ合う必要があります。強力な魔力の発動には更なるタメの時間がかかります。目の前に魔物がいる状態では、タメの時間がそもそも通常時と違いかなりかかってしまいます。そんな中で同時に魔力をぶつけ合うなど、絶対に不可能です。」
「だからメイドは簡単に出せたのか。通常時に、小規模だからこそタイミングを合わせるのが簡単だと。」
「その通りです。私は川端様の土魔法そのものに懐疑的です。」
「なんでだ?」
「同時に他の魔法も使っているからこそ、あれが可能なのだと思っているからです。ですから3因子を持つ川端様は特別なのだと。」
ラルフ以外からも意見が聞きたい!
「ハンス!この前水因子の騎士の1人が水魔法を的に当てて威力見せてくれたでしょ?ハンスは他に何ができるの?」
「水魔法はあれのみです。威力も大体あの程度です。」
ハンスもラルフと同じか…
「ねぇ、それおかしくない?ラルフが土の塊を飛ばせないって言ったのは風の因子がないからだよね?風魔法が使えれば土じゃなくても石とか飛ばせるでしょ?じゃあ何で水は飛ばせるの?水魔法だって風魔法は使えないはずだよね?」
「!!!それは……考えたこともありませんでした。」
「紫愛様、風魔法は威力を上げるとなると、斬るしかできません。川端様が以前、風魔法で布を斬り落としましたよね?風魔法はあれのみです。石を川端様の様に高速で飛ばすなど不可能です。風魔法しか使えないのですから。」
「駄目だこりゃ!固定概念に囚われすぎていやがる。それしかできないと思ってりゃ使える訳がない。魔法はもっと自由度が高くて自在に使えるもんだと思ってた。」
「……それしかできないという思い込み、だよね?物理わかってなきゃ当たり前なのかもしれないけど、それにしたってこれは……あっ!ラルフ!じゃあさ!水しか持たない私があっくんみたいに水で的を射抜ければ信じる?」
「……恐らく、紫愛様がそれを行えたとしても信じられません。紫愛様だけではなく、地球の皆様が特別なのだと感じるだけでしょう。皆様に取り入ろうとする騎士達もそう考えているはずです。地球の皆様が持っているのが魔力量のみならば、ここまで必死に近付こうとはしないと思います。」
「つまり、俺があの時土の形を自在に変化させたり的を貫いたりしたせいで、自分達にできないことを簡単にやって退けたから特別感がより出てしまったと…」
「はい。様々なことを可能にしているのは3因子を持つ川端様だからだと誰もが考えます。ですが、紫愛様は……氷も霧も自在でした。1つの因子しか持たない紫愛様への執着が凄まじいのはそこにあると思います。」
「じゃあ魔力操作を日々行ってるのは何で?私はあれをしてるから他の魔法も使えるようになると思ってたんだけど…」
「単純に、発動までの時間の短縮と、より威力が上がるのです。」
「他が使えなくても威力が強まるんならそれは必須だな。それしか使えないんだ。威力に拘るのは当たり前。むしろそこに執着するのか。」
「はい。」
手詰まりだ。
こんなもんどうしようもない。
物理どうこうではない。
魔法はこうだと思い込んでいるんだから。
教えたところで信じられるわけがない。
だからこそ“地球人は特別”という枠で括り自分たちを納得させている。
「因みに火は何ができるんだ?」
まだ火は聞いてなかったっけ?
「火は爆発と、それを持続させる燃焼です。」
「爆発?どうやる?」
「狙った場所で爆発を起こします。」
「は?火をつけるんじゃなくてか?」
「火魔法は威力が上がれば爆発するようになるのです。ここからあの的の位置まで20mあります。これくらいの距離ならばあの的の位置で爆発が起こせます。そこから火を持続させるのも火魔法です。」
「はぁ?そんじゃ辺り一面火の海じゃねぇか。何で火だけそんなに自由度高いんだよ。」
「他とあまり変わらないように思えます。火もそれのみですから。」
「まず、それって遠隔操作だろ?狙った所を爆発させるなんて、火薬もねぇのにそもそもがおかしいじゃねぇか。起点もクソもありゃしねぇぞ。」
「………ですが、そうなのです。それを疑問に思うこともありませんでした。川端様達からすると、そんなにおかしいですか?」
「あぁ。地球のみんなは誰1人こっちの魔法の意味がわからないだろう。」
「すみません、あの………」
ここで質問される以外は黙っていたハンスが挙手をし口を挟んできた。
「なんだ?なんか気づいたりしたのか?」
「あ、すみません。そうではなく……逆にお2人はどのようなモノを魔法だと想像していたのかと思いまして。」
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