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第127話 side亜門 仮初の恋人
しおりを挟む部屋の前であっくんに下ろしてもらい、1度部屋に戻る。
「あっくん、私シャワー浴びてきてもいい?身体がさっきかいた汗で気持ち悪い。」
さっきの嫌な汗を洗い流したかった。
「いいよ、行っておいで。昼の邪魔が入らない時間にまた練習場に行こう。今度は最初から俺が抱いて行く。帰って来る時もかなりの人数とすれ違ったし、貸切の時間を狙って練習場の前で待ち構えてる可能性もあるからね。」
「あ゛ーーそうだよね…よろしくお願いします…………あそこまでだと思わなかった。まさか外出ると毎回あれなの!?もう最悪!!」
「暫く部屋で休んでて。お昼ご飯の時しーちゃんの部屋に呼びに来るからさ。」
「うん、そうさせてもらおうかな。」
「じゃあまたお昼にね。」
そう言ってあっくんと別れ部屋に戻った。
※
「ラルフ、ちょっと来い。」
ラルフと話をすべく自分の部屋に呼ぶ。
しーちゃんがラルフのことを気にしていたからな。
「畏まりました。」
「さっきのしーちゃんの話は気にしなくていいからな。」
「…はい。あの………あれは紫愛様の本心ですよね?」
「ああ。」
「……私と同じように異性に嫌悪感を感じているように思えたのですが、合っていますか?」
「異性と言うよりは、その関係性そのものと言った方が正しいかもしれないな。多分そこに男だからとか女だからとかはない。」
「それは…何故なのでしょうか?地球でも政略結婚があるのですか?」
「そんなものはない。ないからこそ、お互いが望んでしている。政略ならばまだ良かったんだろうな。しなければいけないと思うからこそ、逃げ場を求め他を探すこともまだ納得できるだろう。地球はな、ほとんどの国で、全てが自由だ。少しの柵はあるがな。お互いに好きあって一緒にいるようになる。当然身体の関係にもなる。そして合わなければその人と別れ、また別の好きだと思える人と一緒にいるようになる。その繰り返しだ。結婚は、この人だと思える人と当然するが、離縁も自由。離縁せずに結婚相手に隠れて浮気をしているやつらなんてごまんと居る。」
黙り込むラルフ。
だが言っておかなければならない。
「しーちゃんに直接聞かれても困るから言うがな、しーちゃんの親は最低最悪のクズだ。地球には貴族も何もほぼありゃしねぇ。みんな平等だ。当然子育ても親がする。人に任せるなんてのは仕事の時間に見てもらうくらいだ。食事だって親が作るし、風呂も、寝かしつけるのだって親がやる。しーちゃんはそれら全てを放棄され、父親は浮気し放題、母親は何もしない。それでいて暴力は振るわれ続けていた。死んでもおかしくないような暴力をずっとだ。そんな状態で、愛が何かわかるか?ラルフと同じだ。人に優しくされたことも大切にされたことも、人を大事だと思うことも何もねぇ。今の限られた人数でも、人を信頼できている状態こそ奇跡に近いだろう。親元を離れ、独立してから余程周りの人に恵まれたんだ。」
ラルフは口を引き結び黙って聞いている。
「親のことは諦めていたと、自分に関わってこなければ関係のない存在だと割り切って過ごしていたみたいだ。だがここに連れて来られ、知らない人間に話を蒸し返され、嫌なことを思い出すようになってしまった。息をするのも忘れてしまうような状態に陥ることもある。前に言っただろう?人間は追い込まれると壊れると。しーちゃんは無意識に、忘れようと、思い出さないようにと明るく振る舞っている節もある。お前、絶対しーちゃんに何も聞くんじゃねぇぞ。」
ラルフは覚悟した様子で「はい!!!」と返事をする。
「あの………紫愛様は、川端様を異性と思ってないということですか?あの様に褒めちぎっていらしたので…」
まぁ、当然の疑問だよな。
「あれはな、褒めたと言うよりは、しーちゃんの中での単なる事実なんだよ。当たり前のことを言ってる認識しかない。いつも唐突だから言われた側が照れたり勘違いしたりするかもな。だがしーちゃんの中では、恐らく………対するのは性別が違うというだけのただの人間。」
「当たり前のことだという認識しかないからこそ、あのように聞いているこちらが恥ずかしくなる様なことも平気で口にできるということなのですね…」
「おっまえなぁーー……そんなに恥ずかしかったか?」
「はい。紫愛様が川端様にベタ惚れしていると、今、川端様に諸事情を聞いていなければ勘違いしたままでした。」
「ハハッ、実際は真逆なのにな!…勘違い…そうか!そりゃ良いな!」
「何がでございますか?」
「話聞いてた奴が他にもいるだろ?」
「ハンスでございますか?」
「そうだ。このまま勘違いさせておこう。俺がしーちゃんに惚れてるのはこっちの世界の奴等から見ても一目瞭然だろ?」
「そうですね。あれだけ周りを牽制し、紫愛様を腕の中に閉じ込め、かつ、紫愛様も嫌がっていないとなれば、皆が恋人同士なのだと勘違いしていてもおかしくはありません。」
「逆に、恋人だと認識していて尚あの視線なのか?」
「どうにか手に入れたいと、更なる火がついた可能性もありますね。貴族の所有欲というのは、物でも人でも凄まじいですから…」
「勘違いさせておくのは悪手か?」
「いえ、勘違いさせたままの方が良いと思います。紫愛様に相手がいらっしゃらないとなれば、無理やりでなければ川端様からの怒りもそれほど買わずとも済みます。紫愛様と古角様しか女子がいないと思っているのです。外に出てこない古角様より、実力の確かな若い紫愛様を口説き落とそうと、視線だけではなく直接的に狙われます。川端様の持つ魔力の圧は誰もが感じております。川端様以上の魔力を持つ者はおりませんから川端様は感じ得ないと思いますが、自分よりも魔力が強い者からは、その圧が感じられるのです。川端様にお会いするまでは皇帝陛下の圧が凄まじいと思っておりましたが、比べるべくもありません。」
新事実だな。
「そりゃ初めて聞いたな。今まで1番の魔力持ちとされていた皇帝が太刀打ちできないと思うほどか?」
「太刀打ちできないどころか、まるで大人と赤子です。」
「そこまでか!?じゃあ皇帝は初めて対峙した時本音を言ってたのか……それなら勘違いさせたまま俺が盾になってた方が安全だな。因みにしーちゃんの圧はどの程度なんだ?」
「川端様ほどではありませんが…そうですね…先程の言い回しを使うならば紫愛様が大人。皇帝陛下は子供。といったところでしょうか。」
「成程な。それほどに差があるなら無理矢理は数で迫られてもほぼ無理だろう。敵対は不可能。なんとか口説き落とそうと近寄ってくるのが自然か…だがしーちゃんの心労は計り知れない。」
「はい。紫愛様にも許可を取り、フリをしていただければより確実かと。不意な事で紫愛様が恋人関係を否定してしまえば全てが水の泡になるやもしれません。紫愛様からも同意が得られれば他の護衛には私から広められます。」
コンコン
ラルフと顔を見合わせる。
誰だ?誰が来た??
「私だよ!ラルフここにいるんだよね?」
「しーちゃん!!??」
慌てて部屋から顔を出す。
「駄目だよ1人で部屋から出ちゃ!」
「ハンス達に付いてもらったよ!」
しーちゃんの後ろを確認すると護衛が3人。
「ならいいけど、迂闊に出るのはやめてね。」
「うん。ごめんね。」
「で?何かあったの?ラルフに用事?」
「さっきのラルフに聞かれてたことが気になって。」
「それなら俺が軽く話しておいたから大丈夫だよ。」
「うん。あと、ちょっと聞きたいこともあって。」
「とりあえず中に入って。お前達ご苦労だった!」
敬礼をする護衛3人に敬礼を返し扉を閉める。
「ラルフ、さっきのは私の偏った考え方だから気にしないでね!世間では私の考え方がおかしいのも自覚してるから!」
席に着いた途端にラルフに謝罪するしーちゃん。
「いえ、川端様からも事情はお伺いしましたので大丈夫です。それより、川端様と私から提案があるのですが。」
と、そこまで言って俺に目配せをしてきた。
「なに?」
「あのね、俺としーちゃんを恋人同士だと思わせた方が安全だってラルフと今話してたんだよ。」
今ラルフと話したばかりのことを説明する。
「そこまで圧倒的に違うなら、そんな必要ないんじゃないの?」
「じゃあこっちの奴等に囲まれて口説かれまくってもしーちゃんは平気?手にキスくらいはハンスだってしてきたことだけど?」
「げっ!!!絶対やだ!ウザすぎる!!」
「でしょう?俺がバックについてるって思わせた方が近くには寄りつきづらくなると思わない?」
「でも、あっくんはそれで平気なの?」
「どういう意味?」
「こっちで、もしかしたら良い人ができるかもしれないよ?」
「俺もしーちゃんと同じだよ!嫌悪感しかないのによく思う事なんて絶対ないから!!恋人のフリは俺にもしーちゃんにも良いことしかないよ!」
「お互いの存在で守り合うってこと?」
「そうだよ。俺にしーちゃんを守らせてほしいし、しーちゃんも俺のこと守ってほしい。どう?」
「それならっ!よろしくね!」
ラルフと2人で安堵のため息が漏れる。
「ラルフは護衛に周知させろ。俺がしーちゃんにベタ惚れだから、しーちゃんに手出したら殺されるって広めさせればいい。」
「畏まりました。」
「あはは!フリも大変だね!」
「笑い事じゃないよ?しーちゃんもなるべく俺にくっつく様にしてよ!」
「わかった!」
「そういえば、なにかラルフに聞きたいことがあるって言ってなかった?」
「あ、そうだった。あのね、私が聞きたいことは一一一一
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