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第121話 頼り頼られ
しおりを挟むふと目を開けようとして、瞼が重いことに気がつく。
私、誰かに殴られたっけ?
目元に手をやり触って確認しようとすると、誰かに手を掴まれた。
薄く開けた目をそちらにやると、そこには私の手を握るカオリンがいた。
なんでカオリンがここにいるの?
「紫愛ちゃん、体調はどう?」
と、優しく微笑むカオリン。
「どうしてカオリンがここに?ん?あれ?ここどこだっけ?」
「川端君の部屋よ。川端君と話していたら倒れたの。覚えていないかしら?」
「あーー、覚えてます。」
愛流のこと考えてたら泣いちゃったんだった。
「目が腫れているわ。何か冷やす物を持ってくるけど、他に何か欲しい物はある?」
「お水欲しい。喉渇いちゃった。」
「ふふ、持ってくるわ。少し待っていてね。」
優しく私の頭を2回撫でて部屋から出て行った。
頭がはっきりしてきて、羞恥心に襲われる。
もーーー!
私は何でこうも簡単に人様に醜態を晒すのか!
穴があったら入りたい!
布団を頭まで被り悶絶する。
落ち着けぇぇ深呼吸だ!
カオリンはすぐ戻ってくる!
布団の中で深呼吸をしていると、なんだか不思議と落ち着く匂いに気がついた。
なんだろう……
どこかで嗅いだことのあるような……
コンコン
「紫愛ちゃん?」
カオリンが戻ってきた!
すぐに布団から飛び起き返事をする。
「カオリンお帰りっ!」
「あらあら、そんなに慌てて起きなくても大丈夫よ。」
「持ってきてくれてありがとう!」
カオリンが持ってきてくれた水を飲み干し、濡れタオルで目元を冷やす。
「川端君が部屋の外で待機しているんだけど、どうする?」
ん?どうするとは?
「何で入って来ないの??」
「さっきのこと、気にしてるみたいよ。自分のせいで紫愛ちゃんが倒れたと思っているわ。」
「あっくんのせい??何で?私の気持ちの問題だよ?」
「そのキッカケを作ってしまったんじゃないかって思っているのよ。」
「うーーん…確かにキッカケって言われちゃうとそうかもしれないけど、あっくんのせいだなんて思ってないよ?」
「紫愛ちゃんは実際倒れたんだもの。気にするなと言う方が無理だわ。」
「えーーー!またあっくんに謝られるの?それはやだなぁ。」
「じゃあそう伝えましょうか?」
「私が言うから大丈夫。あっくん子供だからカオリンから言われても納得しないと思うし。」
「…子供?」
「そう。ワガママで聞かん坊な子供。」
「ふふっあはははははは!そうね、その通りだわ!子供!あははっ!」
カオリンはまた爆笑している。
「私、カオリンがそうやって笑ってくれるの好き。」
「あら、私も紫愛ちゃんが大好きよ。カオリンって呼んでくれるのも嬉しく思ってるわ。」
「あっ…そういえば勝手にカオリン呼びしてた!」
「いいのよ。私が喜んでるんだから。川端君呼んでくるわね。」
カオリンがあっくんを連れて戻ってきた。
「私はみんなの所に戻るわね。」
「うん。カオリンありがとう!」
「どういたしまして。」
カオリンが出て行き、あっくんと私だけになる。
あっくんは暗い表情。
さっきまでカオリンが座っていたベッド横の椅子に座り
「……しーちゃん、さっきは「ストーップ!あっくんのせいじゃないから!もう謝らないで。ごめんは聞きたくない。」
「………わかった。体調はどう?」
「なんともないよ。大丈夫。ラルフは?」
「今日は中止だって言っておいた。」
「そっか。ラルフも私がこれじゃ断ってくるだろうしね。明日10時くらいにしよって言っておいて。」
「伝えておくね。」
「あっくんはもう大丈夫?平気なの?」
「俺は…俺の事はいいよ。」
「良くないから聞いてる。大丈夫?」
「俺は平気。」
「それなら良かった。」
「しーちゃんはさ、その…俺に抱きしめられるの嫌?」
「なんで?」
「しーちゃんが嫌なら……やめないとって思って…」
「嫌だと思ったことはないよ。嫌なら嫌って言ってる。」
それでもあっくんの表情は変わらない。
浮かない顔のまま。
「あっくんさ、不安なんでしょ?不安な時に何かに縋りたくなるのはわかる。縋れる相手がいるならそれに越した事ない。それで気持ちが落ち着くんならすればいいよ。縋れる私が嫌がってるなら問題だけど、私嫌がってないし。頼りにしてくれてるってことでしょ?」
「ほんと…しーちゃんには敵わないなぁ。俺こそしーちゃんに頼りにされたいのに、情けないとこばっか見せちゃってる。」
あっくんは諦めにも似た表情を浮かべている。
そんなことないのに。
「私はあっくんのこと頼りにしてるよ。私が暴走しそうになった時も、私が困った時も辛い時も、そばにいて助けてくれるのはあっくんだと思ってる。でもね、あっくんが本当は誰より傷つきやすいのも知ってる。苦しむのはいつだって優しい人。だから1人で悩んで苦しんで抱え込むのはやめてほしい。手遅れになる前に私にも周りにも頼ってほしい。」
「しーちゃん…俺…俺……」
言葉は続かない。
あっくんは自分の太腿を強く掴んでいる。
「まーた不安になっちゃった?」
ベッドから足を下ろし、太腿を掴んでいる両手に手を乗せ覗き込む。
潤んでいた目が見開き、両手から力が抜けたのが伝わってくる。
「亜門君、抱き枕が必要かね?」
茶化しながら両手を広げる。
「…………………………………いいの?」
とても小さな声だった。
「いいも何も!散々抱きついてきて今更遠慮??私の抱き枕役は返上でいいのかい??」
「よくないっ!」
そう言っていつものように抱きついてくる。
「俺、もっと強くなるから!」
「強くなる必要なんてないよ。心も身体も、今でも十分強いでしょ?そうやって追い込まれていくんだからさ!あっくんみたいな人は適度でいいの!」
「俺がもっと強くなりたいんだ!」
そう言って抱きつく腕に力が入る。
何か決意でもしたのかな?
「自分の目標に向かって努力する人は眩しくて、とっても尊敬する!でも、無理だけはしちゃ駄目だよ。」
「うん!しーちゃんありがとう!」
やれやれ、やっといつもの調子に戻ってくれたよ。
手が掛かる子供ですな。
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