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第119話 ラルフの治療①
しおりを挟む「かなり昔の話になるのですが、騎士の者と平民の女子が恋に落ち、周りの反対を押し切り政略結婚から逃げ駆け落ちをしました。騎士の者は産まれが高く、両親も平民を、国を守ることに心血を注いでいる高潔なことで有名な家でもあり、騎士の親は怒り狂いました。魔力が低いだけでも恥であるのに平民と番うなど面汚しだ、と。その行為は貴族の血を流出させ、また薄ませる行為なのです。これほど魔物と戦うことに心血を注いでいるのに、政略結婚から逃げるばかりか、必要な血を薄ませるとは何事だと。そして2人は騎士の親に処刑されました。私はもし2人が殺されなくとも、生きてはいけなかったと思います。」
「どうして?」
「まず、見た目が違いすぎるのです。平民の女子だけならば生きていけるでしょうが、貴族の生まれの者は肌が青いのです。一目で問題のある貴族が逃げてきたとバレます。そして、その問題のある元貴族と関わろうとする平民などおりません。いらぬ火の粉を浴びようなどするはずがない。」
これは、日本で言うと何時代くらいの話なんだろう。とても発展した文化的な暮らしではないような印象を受ける。
「逃げ場は最初からない、と。」
「そういうことです。もしかしたら心中するつもりだったのかもしれませんが…そしてこのことが知れ渡るように広められ、一時は騎士に近づく者はおりませんでした。ですが…その……かなり昔の話ではありますし、今の皇帝陛下が…甘い事も……それなりに広まってしまっていまして、平民でも見た目に自信があるような者は騎士に取り入ろうと擦り寄ってくるらしいです。騎士達も、さすがに子を作るようなことはしませんが…気をつけて遊ぶだけならと…」
これにあっくんはハァと息を吐き
「腐り切ってんなぁ。みんな自分の利益のみ追求するゴミばっかだ。本当にこの国を守る価値なんてあんのか?」
「耳が痛い限りです。」
「ねぇ、ラルフはどうなの?もしかして平民のまともな人となら恋愛もできるかと思って聞いてみたんだけど、これじゃ無理そうだよね。」
「はい。」
「それ、治したいと思ってる?」
「それは………わかりません。」
「今はいいかもしれないが、将来愛する人ができても抱けないのは辛くないか?」
「貴族には、自由などありませんから。」
「それラルフが自分でそう思ってるだけでしょ!他の貴族見てよ!散々好き勝手にやってるでしょ?」
「だからといって私が好き勝手して良い理由にはなりませんから。」
「真面目かっ!」
「しーちゃん、ラルフはこうなんだよ。だからこそ苦しんでたんだ。」
「ふーん、じゃ、ラルフ!はい!」
ラルフに向かって両手を差し出す。
「あの……はい、とは?」
「握手だよ!両手重ねて!ほら、やってみて。」
「しーちゃん!駄目だ!!!」
「私と握手して嫌悪感出なければ希望があるかもしれないでしょ?」
「しーちゃん!!」
「なに?」
「駄目だって!やめて!!!」
「それあっくんが決めることなの?」
「しーちゃんがやらなくてもいいことだっ!」
「まずは嫌悪感ない人間がやらないと確認も何もないでしょ?ラルフは私しかいないって言ったの聞いたでしょ?」
「俺はそんなの納得できない!」
「あっくんに納得してもらう必要ない。」
「しーちゃん!!」
「文句言うなら出てって。ラルフと2人にして。」
「そんなの絶対駄目だ!!!2人きりなんてできるわけないだろ!」
「じゃあ黙っててよ。」
「そんな…しーちゃんは平気なの?」
「別に平気だよ。単なる握手だよ?ラルフ!ラルフは私に下心あるの?」
「い、いいえそんなっ!滅相もございません!」
「私もあるようには思えないし感じない。」
「触れ合ったらそういう気持ちも出てくるかもしれないだろ!!」
あっくんに聞こえるように態と大きく溜息を吐く。
「じゃあなんであっくんは私を抱きしめてきたりするの?握手どころじゃないよ?下心あってのこと?そういう目で見てんの?隙あらばって思ってた?機会伺ってたの?」
「そんなっ!そんなことあるわけないでしょ!!」
「だったらラルフは何で駄目なの?私が良いっつってんだから良いんだよ!それともラルフは私と握手嫌だった?」
「嫌だなんて!そんなこと思いません。」
あっくんはラルフを睨みつける。
あーーーもう!!!!!
「ラルフ睨むのやめて。そもそも私が言い出したことでラルフは関係ないでしょ!」
「しーちゃんはラルフを庇うの!?」
ブチッ
どこかで我慢の紐が切れる様な音がする。
巫山戯んなよコイツ!!!
「出ていけ。」
信じられない。話が一切通じない。
「しーちゃん!」
「邪魔すんなら出ていけ!」
「2人きりになんてできない!」
「じゃあ黙って見てろ!」
「それもできない!!!」
「あっくんは私の保護者か?保護者面したら私の行動にあれこれ口出せるんか?んな保護者いらねーよ!」
「しーちゃんが心配なんだ!!」
「じゃあもう心配なんてしなくていい。私は勝手にやる。」
「あのっ!!!!私のことはもういいですから!離縁できるだけで十分です!私のせいでお2人が仲違いすることの方が嫌です!」
ラルフが慌てて仲を取り持とうとするけど、悪いのは明らかにあっくんだ。
「ラルフ、それは違う。あっくんが間違ったこと言ってるから怒ってるだけ。」
「俺の何が間違ってるの!?」
「ラルフを助けたいんじゃなかったのか!!」
「離縁させたじゃないか!」
「離縁させて終わりかって聞いてんだよ!別れられて良かったねで済ませるつもり!?ラルフが離縁しただけで本当に幸せになれると思ってんの!?さっきあっくんが言ってた!将来愛する人ができても抱けないのは辛くないか?って!抱けないと幸せになれないってあっくんが思ってるから出てくるセリフでしょ!?じゃあ何で何もしようとしないわけ!?ここに!!ラルフが嫌悪感を感じないただ1人の女がいるっての!私はラルフを助けたい!何でかわかる?あっくんがラルフを助けたからだよ!あっくんがラルフの為に頑張ってきたからだよ!そんなラルフを私は離縁させて満足して中途半端に放り出すなんてことしたくない!このままじゃラルフはまだ苦しいままだよ!それでもいいって思ってんの!?」
渋面が浮かぶ。
「思ってんならもう何も言わない。私とあっくんは考え方が違うだけ。」
「俺は……放り出そうなんて思ってなかった。」
俯きながら苦しそうに呟くあっくん。
「うん。」
「考えが、足りてなかった。」
「うん。」
「しーちゃんが……………………………他の男と触れ合うの、見たくなくて…」
「ラルフがどうこうじゃなくて私情だったってこと?」
俯いたままあっくんは頷く。
「わかった。あっくんには外れてもらう。」
私の言葉を聞き、バッと顔を上げ
「嫌だ!!」
と言うが、もう駄目でしょ?
「大丈夫、代わりにカオリンに来てもらうから。ラルフと2人にはならないよ。」
「俺が見守る!」
「はぁ!?じゃあ今見たくないって言ったの何よ!!」
「見たくないけど、俺が見てないとこで触れ合ってる方がもっと嫌だ!!」
「ラルフもあっくんがいない方がいいと思うよ。」
「どうして!?」
「さっきラルフを睨みつけたでしょ?そんな人間を前に私と触れ合ったって緊張してそれどころじゃないよ。」
「俺が見守る。それだけは譲れない!」
呆れて物が言えない。
あっくんの気持ちなんて今どうでもいいはず。
「あのさぁ、ラルフのためにやることなんだからラルフの気持ちが大切なの。」
「ラルフ!俺がいてもいいだろ?」
そんな聞き方断れるわけないでしょ!?
「私は…その……わかりません…」
「ラルフッ!!」
「あっくんもうやめて。ほんとにどうしちゃったの?ちょっとおかしいよ??ラルフはカオリンに知られても平気?」
「しーちゃん!俺を外さないでっ!お願いだから!」
「だったら最初から黙って見守るべきだったでしょ!!そしたらラルフだって素直にやれたかもしれないのに!」
「うん…しーちゃんごめん。」
「私じゃなくてラルフに謝れっ!」
「ラルフも、悪かった。」
そう言って頭を下げるあっくん。
「やめてください。私は川端様の気持ちを理解しているつもりです。口を挟みたくもなりましょう。紫愛様、私は川端様に同席していただいて構いません。」
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