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第93話 魔法③
しおりを挟む「しーちゃん、男前すぎるよ。」
「あーーー、説教垂れてごめんね?」
と、謝った瞬間あっくんに抱きしめられた。
ちょっと!!??私謝ったよ!
「あっくん苦しい!ちゃんと謝ったでしょ?」
背中をバシバシ叩くけどびくともしないよ!
「格好良かったよ、とっても。」
「あ、わかった!勝利のハグってことだね!」
「はは、そうそう。だからしーちゃんが抱きしめ返してくれないといつまで経っても終われないなぁ~。」
「もーはいはいわかりましたよ。口挟まず見守ってくれてありがとうね。」
私が抱きしめ返したらようやく解放されました。
ほんっとに頑固なんだから。
「そういえばさ、さっき何で皇帝があんなに興奮してたのか、あっくんわかる?」
「いや、俺もさっぱりわからない。何でいきなり土の魔法が使えるのかって話になるんだ?目の前で土の因子検査してたの見てたろ?」
「そうだよね。やっぱり聞くしかないかぁ。」
皇帝に身体ごと向き直り質問する。
「ねぇ!皇帝はさっき何で土魔法が使えるか聞いたの?因子検査目の前で見てたよね?」
「あぁ、そうであったな。紫愛殿は本当に水の因子しか反応がなかったのか?」
「そうだよ。嘘つくわけないよ。魔法使えるようになるためにここに来てるんだから。隠したいんならあっくんの因子のことだって話さないよ。」
「確かに。だがなぁ…ギュンターはどう思う?」
「はい。紫愛様達のいた地球には魔法の様なモノがあったのでしょうか?」
「そんなのあるわけないよ。地球でそういう便利なモノって小説の中や物語の中でしか出てこなかったよ。作り話に決まりは無いからね。」
「そうですか…申し訳ありませんが、再度紫愛様に全ての因子検査を行なっていただきたいです。」
「それは構わないけど、私は水しかないよ。もう1回やってもそれは変わらないと思うけど。」
「この世界では水魔法で氷や霧を作るのは不可能なのです。」
「「え?」」
あっくんと顔を見合わせて首を傾げる。
「何で?全部水だよ?」
「氷を作るのは水魔法と火魔法の2人が必要になります。霧は水魔法と風魔法が必要でございます。」
「おかしくない?白い箱にいた時、食事持ってきてたメイドが氷出してたよ?」
「それは、メイドの中に火属性と水属性の者がいたから可能だっただけのこと。水魔法1人でそれを行うことはできません。」
意味がわからない。
氷も水も霧も全部水なんだってば。
「ねぇ、あっくんは意味わかった?私は全くわかんないんだけど。」
「いいや、俺も何言ってんのかわからない。しーちゃんが言った通り、水は水だろ?」
あっ!そういえば私も最初氷作るのは風魔法がないとできないかもとか色々思ってた。
分子レベルで考えてイメージできたら作れたんだった。じゃあやっぱり大切なのはイメージってことだよね?
ん?イメージだけじゃ駄目なのかな?
イメージとそれに伴う原理を理解してないと発動しない?
「ーーーーーん」
いいや、だったらこの国の人が水魔法使える説明がつかない。空中に水があるのすら、わかってるか怪しいぞこれ。
氷を作るのに火と水。ってことは水から熱を奪えば氷になる。
霧を作るのに風と水。ってことは水を飛ばして細かくすれば霧になる。
「ーーーちゃん」
水を冷やせば氷になり、水を細かくすれば霧になることはわかってるってこと。
一応理には叶ってる。
理で考えているからこそ、それ以上の想像ができないから変化させられない。
ん?じゃあ…刷り込み?
まさか思い込み?
「しーちゃん!!!」
「うわぁっ!なに!?ビックリしたぁ!」
「ビックリしたのはこっちだよ!急に呼んでも全く反応しなくなるんだから!」
「ごめん、考え込んでた。」
「考えてただけならいいんだよ。しーちゃんは相変わらず凄い集中力だね。でもそれ、近くに俺が居る時だけにして。危なくてしょうがないから。」
「うん、ごめんね。思ったんだけどさ、この世界の人って氷も霧も水だってわかってるんだよね?」
「そりゃあ水と火で氷作ったりしてるんなら、当然水が必要なのは理解してるってことだよね。」
「じゃあ理解してるのにできないのは何で?」
「うーん…何か変化を加えなければ水の変化は有り得ない。そう思ってるからじゃない?」
「やっぱりそう思うよね?」
「うん。」
2人で話していても埒があかない。
ギュンターの方へ話を向ける。
「ギュンター。とりあえず氷魔法霧魔法って言っちゃうけど、それらは昔からあるの?」
「昔から在ります。霧に関しては威力の減衰と考えられておりまして、水と風は戦地では離されて配置されます。」
「それはなんで?」
「偶然の産物だったようですが、魔物との戦いの最中に風と水の魔力が混ざり、霧になってしまったそうです。風は止み水は消え、現れたのは視界ゼロの世界。何が起こったのかその場の人間は理解できず、かなりの被害を出した記述が残っています。そこで風と水を離したことで、今度は火と水の因子も持つ者の距離が近くなり、そこで氷が発現することになりました。」
「……偶然?……故意に使ったわけじゃなく?」
「その通りでございます。」
偶然にも他の魔法が水に変化をもたらした。
それを目の当たりにしたら、変化を起こす原因が外的要因以外は考えられない。
実際火と水を合わせたら氷できちゃってるから水とはそういうモノだと認識する。
それ以上は考えないの?
じゃあ、この人達の水への認識はそれだけ?
確信を得るためには、確認するしかない。
「皇帝!ギュンター!空に浮かんでる雲、あるでしょ?」
「うむ。」
「はい。」
「そこまで飛んで行けたら乗れると思う?」
「「は?」」
「いいから答えて。別に正解も不正解もない。どう思うか聞いてるだけ。」
「乗れるであろうな。」
「私も乗れると思います。」
「フカフカで柔らかそう?それとも、触ってみると意外と硬そう?それとも雲の中に入って泳ぐイメージ?」
2人は顔を見合わせて…
「柔らかいと思うな。」
ギュンターは皇帝の言葉に首肯する。
「じゃあ雨が降るのはどうして?」
「雲が雨をもたらしてくれます。雲が集まればその力が強まり、それによって雨が降ります。」
「じゃあ火は何で燃えてる?」
「火は温度が高くなればつくであろう。冷えれば消える。」
言葉が出ない。
魔法があると魔法をうまく使うことばっかり考えて、そういうこと考えなくなるの?
「しーちゃん?」
あっくんもこの世界の人達の認識には首を傾げていたけど、私が脈略もない質問を繰り返すので戸惑っていた。
「みんなちょっと待ってて!あっくんはこっち来て!!!」
「どうしたの!?」
「いいからっ!!」
あっくんの手を掴み、部屋の隅へグイグイ引っ張っていく。
あっくんを壁にして口元も見られないようにしてから、小声で話す。
「あっくん、この世界の人、水が何かわかってない。変化を加えれば形が変わるって認識しかない。きっと氷も霧も水であって水じゃない認識なんだよ。水の形が変わったらもうそれは別物。水は氷と霧の“材料”としか思ってないんだよ!雲に乗れるなんて、地球では子供でも無理なこと知ってるのにそれすら知らないんだもん。雲が雨をもたらすって何?雲から水が降ってくるなんて魔法よりも不思議な現象なのに、そういうモノとしか思ってない。それがこの世界での常識。シーケンやった時思ったよね?常識を覆すことは難しいって。」
あっくんは少し屈みながら真剣な眼差しでうんうんと力強く頷いている。
「全ての原因は、分子を知らないから。水が形を変えることが分子速度の変化だって知らないから。説明してもこの世界の人には絶対理解できない。受け入れられない。変人扱いされるだけ。私は氷も霧も、分子速度イメージして魔力流してるの。だからこっちの人達がいくらイメージしたって制御したってできるわけない。結びついてないから。別物だと思ってるんだから作れない、できない。これ、私達にとっては計り知れないほどのアドバンテージにならない?絶対秘匿するべきだよ!!」
「しーちゃんがさっき考え込んでたことってそれ?」
「そう!!」
「…絶対黙ってるべきだ。俺らは異世界人だから特別だってことで通そう。」
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