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第83話 side皇帝②
しおりを挟む「ギュンター!一体どうなっておるのだ!」
最早八つ当たり以外の何物でもなかったが、怒鳴らずにはいられなかった。
「わかりません。ですがこのままでは中から箱が壊されてしまう恐れもあります。」
「あれは壊れるのか?」
「我々の力では無理だと思います。ですが、あの魔力量を考えますと不可能とは言い難いです。」
「どうすれば良いのだ。魔力制御を行いながら少しずつ友好関係を築こうとしておったのに、制御どころか操作も行えるのだぞ?魔法が使えるようになるまでもう秒読みだ。」
「あの箱の中に人間以外の生物を入れることはできません。土には小さな虫やら生き物がおります。熱すれば土は砂になってしまいますから箱の中に入れられません。あの2人のいずれかが土の因子持ちならば魔法の習得には至りません。」
「それでは25%の確率しかなかろうが!」
悠長な事を言っている場合ではない!!
「これはあくまで予測でしかありませんが、あの御方達はかなり頭が良いように思います。欲しがる本の傾向が、どんどん専門的な物へ、より詳しく書かれた物を欲しがるのです。あの箱の可能性に至っていることも考えられます。そして、頭が良ければ闇雲に攻撃してくるようなことはないでしょう。まずは状況を正確に把握し、そこからどうしていくのか、どう行動していくのが正解か、冷静に見極めるでしょう。」
「可能性にかけろと?」
思わずギュンターを睨み付けてしまう。
「配膳を行うメイドに暴力を振るうことも、人質に取ろうとする気配もありません。声を荒げたのは部屋に入らないようにさせる時のみ。目覚めた最初のうちは説明を求めていましたが、今はそれもない。出られないと思っているからです。そして、出られないと思っているからこそ、こちらへの暴力行為もない。それをすれば、最悪餓死だからです。出られないと思っていても、何とかしようと短絡的な行動に出ることは有りがちです。少なくとも1人はとても頭が良く冷静で、皆を留め置いている人物がいるはずです。これらを踏まえ、正確に状況を把握し、行動しているとは思いませんか?だとすると、よほどに追い込まれなければ箱の破壊はないでしょう。ですが、それもそろそろ限界に近いはずです。欲しがる物を与えての時間稼ぎも、もう厳しいでしょう。なんの説明もなしに閉じ込められている状況に変わりはありませんから。」
そんなことは諄言われなくてもわかりきったことだ。目頭をぐりぐりと揉む。
「陛下、決断するべきだと思います。残り1人が目覚めていない状況ではありますが、いつ目覚めるのかは誰にもわかりません。1人を残してでも、説明を行うべきです。あの箱から出さなければ、近いうちに破壊されるやもしれません。」
はぁーーーーー。
深い溜息が出る。
ここまで目覚めないならば早々に説明するべきであった。過ぎたことを後悔しても意味はないが、益もないことを考えてしまう。
「1ヶ月。そこまで待って目覚めなければ箱から出して状況の説明を行おう。」
「畏まりました。」
だが、この決断は意味のないモノとなった。
最後の1人が1ヶ月を待たずに繭から出てきたからだ。
やっと話ができる。
ギュンターから、色見が違い過ぎると拒否感が出ると言われ、初見から忌諱されてはたまらないと、メイドだけではなく全員で顔を隠すことにした。
説明の場に赴く前にもギュンターは 執拗いほどに私に言う。
「陛下、威厳が大切です。友好的に話を進めたいのは私もそうですが、恐らく無理でしょう。相手方はまず間違いなく、現状をある程度予測しています。魔法を使えることを前提とするならば、かなり危険です。第一騎士団の配置は必須。陛下に危害を加えさせるわけには参りません。友好的にはいかなくとも、なるべく穏便に進めることにいたしましょう。」
それは最早、争いを覚悟しろと言っているのと同義だ。
そして、対峙の前から既に揉めていた。
部屋への入室すら拒否しているという。
次の監禁場所ではないのか?と。
旗色が悪いことこの上ない。
しかも白い箱の中でのことは、やはり監禁だと感じていたということ。
要求されていることが密室にするなということであれば、音が漏れないようにすれば問題なかろう。こちらを警戒しているのだ、人払いも可能な限りするべきだ。
その際のやり取りで、私付きの第一騎士団長と副隊長が魔力量1番の男子に殺気を向けたが、この物言いでは致し方あるまい。
要求通り扉を開け放ち、必要最低限の人払いをさせたが、態度は軟化しないまま。
完結に説明した方が良かろう。友好的な話し合いになんとか持ち込みたい。余計な事は言うべきではない。良い関係が築ければ今後時間を置いて交渉も可能だ。
が、地球へ戻せの一点張り。
ここに残るのはシューと呼ばれる我々よりも遥かに歳をとった初老1人のみ。
ギュンターも私も食い下がるが、この世界の全てに価値がないと一蹴される。その上私を馬鹿と言い放った。これに激昂した騎士団長が剣を抜いてしまった。
それは1番やってはいけないことだ!
相手は女子、しかもまだ魔法を覚えたてならばすぐに魔法を放つこともできまい。怪我をさせてしまえば話し合いも何もない!
すぐさま魔力を練り上げ間に入ろうとしたが…
紫愛殿の目の動きが平民のそれではない。
力のない者は武器から目が離せない。
だというのに紫愛殿は団長の全身をサッと見回した後、剣を持つ手を掴み、自らの方へ引いたと思ったらあっという間に後ろに回り込み机の上に叩き付けるように抑え込んだ。その際剣まで奪い首に沿わせる。
なんなのだこの者は……
私達が警戒していたのは凄まじい魔力量から発現し得る魔法だった。
魔法を使う素振りすら見せなかった。
魔法を使わずしてこの実力だと言うのか?
そして極め付けは団長を弱いと、雑魚だと言い切ったことだ。
団長は私に次ぐ実力者。
その者がこのザマでは…
そして紫愛殿が言い放った1言。
滅びそうなら足掻き続けながらそのまま滅びろ
心臓を掴まれたようだった。
私は長年、魔法陣を使って地球から人を呼ぶことに懐疑的であった。
魔素だけで良いのではないか?
いきなり攫われてこの世界のために協力してくれと言われ、一体どれ程の者が協力してくれるのか?と。
こちらの犠牲も多少と言えど出るのだ。
なんとかならないかと模索はしていた。
だが、現実からは逃れられない。
迫り来る魔物、私達の弱体化、濃くなりゆく血。
そして何より、肝心の魔法陣の解析は一向に進まない。
ほぼ手詰まりな中、ギュンターに時期がきたと告げられた。
覚悟を決めいざ実行すれば被害は甚大。
地球から呼び寄せられた人数は少なく、敵意剥き出し。
魔素の補充は済んだが直ぐには使えない。
蓋を開ければ更なる現実を突き付けられる。
結局私達は滅びる運命なのか…
ならばこの者達だけでも帰してやりたい。
だが、もうできない。
それを告げると、紫愛殿の魔力が凄まじい勢いで高まってゆく。
やはり滅びる運命だったかと諦めたその時助け舟を出してくれる人物が現れた。
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