水と言霊と

みぃうめ

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第82話    side皇帝①

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 地球から魔力の元となる魔素をもらい、それと共に地球人達を呼ぶ。
 これは約2000年周期で我々が行なってきたことだ。
 2000年は途轍もなく長く、その時間経過と共にかなりの情報が失われてきた。
 いくら情報を守ろうとしても、時間の流れは残酷だ。伝える人間が全く変わらない思想を持っていなければ同じように次代に伝えていくのは不可能。
 形ある物で残そうとしても、形ある物もいつかは壊れる。それこそ、正しい知識や情報が伝わっていなければ、壊れた時の修復の方法もわからない。形で残っているからこその慢心もあるだろう。
 今では魔法陣がどんな素材で作られ、どんな意味を持っているのか、何故壊れないのか、長年の研究者でさえ解き明かせない。使用方法とその使用目的しかわかっていない有り様だ。

 地球から来た者達にも魔法陣の解読は不可能だろう。



 魔法陣で呼び出した地球人の数は、余りにも想定外だった。
 現れた人数が少な過ぎたのだ。
 直近での呼び出しでさえ、40人は来たはずだ。
 だが、来たのはたったの8人。
 呼び出すリスクに、少々の被害は昔からあった。ある程度の覚悟をしていた。40人来た時はこちらの被害は10人程度。
 だが、今回は100人を優に超える甚大な被害だった。
 貴族は数が少なく、増やせなければ魔法を使える者が途絶える。それは則ち魔物に対峙する力がなくなるということ。
 それはそのまま私達の死を意味する。
 貴族は1人最低4人を産む制度を作り、ようやく人数が増えて安定してきたところだったというのに!

 過去の文献には、地球から呼び出した者やその子供達と交わることで大幅な魔力の保有量のアップ。血の濃さの改善。知識の補填もこれにより叶ったと記されていた。
 我々は文献通り、今まさにその事実と直面していた。
 魔力保有量の減少は勿論だが、魔法を使用できる血を守る為貴族同士の婚姻が必須の現在、血は濃くなる一方だ。魔力量、因子の強さを求め、強い者との婚姻を望むのは当たり前。それらが上位の者ほど男子は何人もの側室を娶り、女子は愛人としてそばに置いた。そのせいで余計に血が濃くなり、側室または愛人の人数制限を設け、それに反した物は厳罰を与える法を作りなんとか収めているが、陰でそれを行う者は後を絶たない。
 今回の地球からの呼び出しにかなりの期待をしていた私は、こちらの数は激減したにも関わらず呼び出しに成功したのはたったの8人という事実に愕然とした。
 あまりにも割りが合わない。

 だが、希望はあった。
 8人から漏れ出る凄まじい魔力。
 そのうちの2人は漏れ出る魔力のせいでその者の姿形が歪んで見えるほどだが、とりわけ大きな身体を持つ男子の方はそれが顕著で、顔の判別すらできなかった。
 文献には我々よりも多い魔力量の者達が来たとされていたが、“底が見えないほど”や“凄まじい”などの記載はなかった。
 過去の40人を合わせても足りない程の魔力を、たったの8人で持っているとしたら?
 そして、私達が弱体化していることを合わせると、それに応じてこちらの被害が増加しているとすれば?
 話の筋は通るのではないか?
 私を優に超える魔力を呼び出した者達から感じ、それに気がついた時、確かな可能性を感じた。



 なんとか力を貸してもらいたい。
 その為なら何でもしよう。
 できるだけ穏便に、争う事なく友好関係を築きたい。


 地球人達はこちらの世界に来てすぐに倒れてしまった。
 違う世界から来たのだ。身体が合わなくて当然。遥か昔から伝わる魔法陣が組み込まれた白い箱の中に運び込み、回復を待った。
 その箱は、身体に魔力が馴染む手助けをしてくれるのだ。馴染まなければ死んでしまう。
 体の回復と共に徐々に魔力が馴染んでいき、2、3日で目が覚め、1週間も過ごせば魔力は身体に馴染むと文献には記載してあった。

 それなのに、何故だ?
 何故目覚めない!?
 魔力量が桁外れの2人だけが目覚めないならまだ説明がつくかもしれないが、目覚めないのは3人。
 1週間が経ってもその3人は目覚めない。
 途方に暮れかけた時、やっと1人が目覚めた。毛色の違う1人が目覚めたのかと思いきや、魔力量が多かったうちの小さい女子の方が目覚めたという。
 しかも、目覚めて直ぐにまた倒れてしまった。
 残る2人ももうすぐかと、今か今かと待っていたが全く目覚めない。

 文献には1週間と記載されていたから、目覚めた地球人達には“全員が目覚めてから説明する”と伝えてしまった。
 1週間程度ならば、混乱を招くよりもしっかりと身体が回復してからの方が良いと思ってのことだったのに、これでは不安を煽るばかりではないか!
 だが、途中で今から説明すると意見を変える方が危険だ。余計に不信感を与えてしまう。
 ギュンターと話し合い、いつ目覚めるかも不明ならば欲しい物は何でも与えようという案に辿り着いた。
 苦肉の策だったが、何もしないわけにはいかなかった。

 小さな女子が倒れて再び目覚めるのに6日を要し、次の日には1番の魔力量の男子が目覚めた時には安堵した。
 よもや目覚めないのでは。と、不安は最高潮だったからだ。
 後、もう1人。

 しかし、ここで大問題が起こった。
 魔力量の多い女子が、魔力制御をモノにしてしまったのだ!
 報告によれば、突如魔力量1番の男子に部屋への入室を拒否されるようになり、それが2日間続き、部屋に入れてもらえた時にはもう既に魔力漏れは見えなくなっていたという。
 そんな馬鹿なことがあるか!?
 こちらでは最低でも3年はかかる魔力制御をたったの2日でどうやって行うと言うのだ?しかも魔力量が多ければそれだけ必要な時間は多くなるはず…与えた本に何か秘伝が?
 慌ててギュンターを呼び、どんな本を与えたのか確認をする。だが、与えた全ての本は一般的な物ばかりで、特別な物は何1つないと言う。
 ギュンターと頭を捻りどういうことだと話し合っていたら、更なる報告に頭を抱えた。
 2度の入室拒否を受けた後部屋に入ったら、今度は魔力量1番の男子の魔力が見えなくなっていたというのだ。
 有り得ない。
 しかも2度の入室拒否の後ならば、部屋に入れなかったのは丸1日。だが、魔力制御が可能になって直ぐの入室許可ではないだろう。それを加味すれば、予測でしかないがおよそ12時間で魔力制御をモノにしたことになる。
 2日でも有り得なかったのに 、1番の魔力量だったにも関わらず時間が短縮しているではないか!!
 それに加え、火のつく蝋燭と土が欲しいと要求されていた。
 欲しがる理由など1つしかない。因子の検査だ。
 魔力制御に加え、魔力操作までモノにしたというのか!?













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