水と言霊と

みぃうめ

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第58話    魔力⑤

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 私がシーケンに没入している間、あっくんは異世界人を入り口付近から中に1歩も入れなかったらしい。

「食事だけそこに置いて下がれ。無理に押し入れば実力で排除する。」

 と脅していたとか。

「あっくんてばこっわ。何してんの?」
「しーちゃんの邪魔になると思ったから。多分だけど、あのシーケン途中で止めたらまずかったんじゃない?」
「流石だね。私も、あの流れを止めるのはまずかったと思う。下手すると魔力が暴発してたかも。止められるタイミングによったとは思うけど、没入してると時間の感覚わからないし、そもそも2日もやってる感覚がなかったから。」
「でしょ?異世界人に聞きたいことがあった人達には申し訳なかったけど、俺もまぁまぁ殺気放ってたから誰も文句は言ってこなかったよ。」
「あっくんの殺気…ますますこわっ!」

 殺気もそうだけど、制御できてない魔力が満ち溢れたってこともありそう。

「酷いなぁーしーちゃんを守ったナイトに向かって。」
「私の為だったんだもんね、ありがとう。」
「どういたしまして。」
「今日はあっくんにも魔力を感じてもらうからね。」
「そうだね、俺も早くできるようにならないとね…しーちゃんみたいに2日でできる気がしないけど。」

 そんなやり取りをしていた。

 そんな時

 いつもの定時の食事の時間にそれは起こった。

 異世界人達はいつものように入り口で止められなかったため、中に慎重に入ってきた。
 そして、私を見て完全にフリーズした。
 かなりの間の後

「どうして、どうやって、何で」

 と騒ぎ始めた。
 やがてそのうちの1人が私に話しかけてきた。

「この2日間に何があったのですか?」

 と。

 私の警戒心は急激に上がった。
 何故異世界人達はこんなに驚きざわめいているのか。
 この2日間で変わったこと。
 そんなモノ1つしかない。
 私が魔力制御を修得したことだ。
 私も2日前まで魔力の漏れがあった。
 魔力制御ができている今の私にもここにいる全員の魔力漏れが見えている。突然私から漏れが見えなくなったらそりゃバレるに決まってる。
 異世界人達のこの色めき立つ雰囲気。
 このままじゃ絶対にマズイ!

 そこに立ちはだかったのは殺気と魔力を漲らせたあっくん。
 気を巡らせ膨張させているつもりなんだろうけど、これは気じゃない!魔力だ!目の前が濃霧に包まれたように何も見えないほどの濃密な魔力。
 これ、気だと思って魔力使ってるってこと?凄すぎる!

「てめぇら、俺達を監禁してること忘れてねぇか?この状況は何だ?どうしてここに連れてこられた?どうして閉じ込められている?いつまでここにいさせるつもりだ?大事な質問には何も答えてねぇだろ。調べるなら勝手に調べろっつって本当かわかりもしねぇ内容の本よこすだけだ。ふざけんなよ!何で俺達がお前の質問に答えないとならねぇ。」
「し、しかし、これはあり得ないことで「しかしももしももあるか!後で話すの1言で全部済んだ気になってるてめぇらに話すことは何もねぇよ。飯置いてさっさと出ていけ!」

 あっくんにキレられた異世界人は異世界人同士で暫くコソコソした雰囲気を漂わせた後

「今はこれで下がらせていただきます。」

 と言った。
 あっくんの魔力の密度が急激に下がって行く。

 目の前の濃霧がかなり引き、視界が確保できるようになって異世界人達の方を見ると、座り込んでいる者や明後日の方向を向いている者がいた。この様子を見る限り、私と同じで視界の確保はできていなかったんだろう。
 部屋に入ってきた時とは打って変わり、異世界人達はそそくさと部屋から出ていった。
 今の異世界人達の態度…あっくんの魔力にビビったということだ。あっくんは異世界人の中でもかなりの魔力持ちかもしれない。対抗手段ができるかもしれない。



 私とあっくんは顔を見合わせて、どちらからともなくまた部屋の隅に行った。

「しーちゃん、あいつらなんであんなに騒いでたかわかる?」
「多分。私昨日までのシーケンで魔力制御できるようになったでしょ?」
「うん。」
「魔力制御できてるってことは、魔力が外に漏れなくなったんだと思うの。つまり、私の漏れてた魔力が認識できなくなって騒いでたんだと思う。」
「制御できるようになったことが何であんなに慌てることになったんだ?めでたいことじゃないの?」

 あっくんはまだピンときていない。

「私に教えてくれたの忘れた?魔力制御できるようになるのに何年くらいかかるのか。」
「……あ!!3年!!」
「そう、約3年。そのくらい此処では魔力制御は難しいことなんだよね?たった2日でできることじゃない。しかも私が魔力制御ができるようになったことを全員が一目で見抜いてた。実は私も、ここにいるみんなの漏れてる魔力が見えるの。魔力制御ができるようになったら見えるようになった。あっくんにはシーケンやりながら教えるつもりだった。やりながらの方がうまく教えられるような気がしたから。でも、あの慌て方見たら……ちょっとこのままだとヤバい気がする。」

 私の警戒心はちょっとどころではなく、最大まで上がっている。

「それは何で?」
「さっき、異世界人達と対峙した時、あっくんが魔力を出してたの。目の前が魔力で何も見えなくなるくらいの凄い量を。異世界人達もビビってた。あっくんが異世界人もビビる程の魔力を持ってるってことになる。」

 あっくんは口を半開きにしてポカンとしている。

「それだけじゃない。今あっくんから漏れてる魔力量も凄いの。此処にいる人達と比べて多いとかのレベルじゃない。桁外れなの。他の人達は、その人の周りに揺らぎが多少見えて、そこが薄く光ってる程度。でもあっくんは漏れてる魔力であっくんが歪んで見える。更にそこが薄く光ってるから存在が視認できないくらいなの。」
「嘘だろ…」

 信じられない様子のあっくん。
 でも信じてもらわなければ話が進まない。

「嘘じゃない。もし、この状態で悪用ができたら?漏れ出る魔力だけでも使えるんだとしたら?もし、もうそれを既にされてて私の魔力が漏れていないことに慌てていたんだとしたら?」
「まじかよ。しーちゃんの魔力量は?」
「私は私の漏れてた魔力を見たことないからわかんないよ。」
「そうだった……悪い、ちょっと混乱してるわ。」

 混乱するのは仕方ない。
 ちょっと前まで魔法が使えるかも、なんて思ってもいなかったんだし。

「私は今の時点では悪用されてるとは思えないんだけど、今のは1つの可能性の話だからね。さっきの慌て方見たら、視認するまでは漏れが無くなった事に気付いてなかったってことになる。私はてっきりこの部屋が監視されてるもんだと思ってたから。何かに利用したりそれなりの目的があるなら監視は必要だよね。でもそれをしてる様子がないのもおかしい。」

 あっくんが少しずつ冷静さを取り戻してきたのを確認しつつ私の予測を語る。

「私は、今の時点で悪用されてなくても今後魔力の高い人は必ず狙われると思う。魔法が使える人が少ないって話だったんだもん。悪用なり利用なりされそうになった時、対抗手段が無ければ……詰む。それに、魔力制御ができなければ自分の魔力量を隠すことさえできない。隠せないんだったらどこに行ってもすぐバレる。私はあっくんのペースに合わせて魔力制御をやりたいと思ってたけど、どうする?」

 1番の問題は、例え逃げ出せたとしてもまた捕まるかもしれないということ。

「……その言い方だと他にも方法があるってこと?」
「多分…できないことはないと思う。でもかなりキツイと思うし、此処でそれができる可能性があるのはあっくんだけ。」
「何で俺だけ?」
「魔力制御した時に感じたの。気を練り上げて巡らせる気功、あれが魔力制御にそっくりだったの。あっくんは太極拳で気を巡らせることが昔からできてるから、可能だとするならあっくんだけだと思う。」

 あっくんは腕を組み、暫く考えてから

「成程。キツイっていうのは、俺だけ?しーちゃんも?」
「やったことないからなんとも言えない。要するにあっくんの中の魔力を私が無理矢理動かすってこと。だからやる側の私よりやられるあっくんのが絶対辛い。」
「俺が辛いのはいいけど、しーちゃんが辛いのはなぁ。辛かったら止められる?」
「中途半端にやるのはより危険だと思う。やるならやる!やらないならやらない!方が絶対良い。」

 これに深く深く溜息を吐き出したあっくんは

「思ってたのと全然違う展開だわ。しーちゃん、俺このままゆっくりは多分無理だわ。不安が続くのは俺も色々支障が出てくる身だし。だから、よろしくお願いします!」

 覚悟を滲ませそう言った。











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