57 / 345
第57話 魔力④
しおりを挟む私はあっくんに抱きしめられた。
背中から、思いっきり。
今までの配慮が嘘だったかのように。
余りのことに声も出ない。
「しーちゃん、俺はね、しーちゃんに幸せになってほしいんだ。俺が苦しんでた時にずっと助けてくれたじぃちゃんばぁちゃんが、幸せに生きていってほしいって残してくれた。俺もしーちゃんに幸せに生きていってほしい。これは本当に心から思ってる。しーちゃんの思う幸せは地球にあるってことだよね?心の底から応援したいし協力も惜しみたくない。でも、俺にも譲れないモノがある。だから1つだけ教えて。帰りたい理由は、好きな人?」
あっくんの耳元で囁かれる低い声が、その真剣な声が、内臓にまで響き渡るようだった。
でも、質問の意味はよくわからない。
「………好きな人ってナニ?」
「好きな人は好きな人だよ。異性の気になる人とか、恋人って意味。」
「今まで生きてきて1度もそんな存在に出会ったことがないし、私にはこれからも必要のない存在だよ。」
途端にあっくんの腕から力が抜けた。
「………………………必要ない?」
「そう。必要ない。」
「どうしてそう思うか聞いてもいい?」
「人は変わる。変わらないと生きていけないから。私だって変わりながら生きてきた。それも含めて、自分も他人も信じられない。でも、変わらないモノを信じたい。大切にしたい。だから地球に帰りたい。」
「変わらないと信じるモノの為に帰りたいってこと?」
「そう。それが私の生きる理由だから。」
「それがしーちゃんの信念なんだね?」
大きく頷く。
あっくんは大きく1つ息をして
「わかった。これから2人で帰れる方法を全力で探していこう。一緒に地球に帰ろう!それと、1つ、地球に帰ったらお願いがあるんだけど良いかな?」
「勿論。私もあっくんの為に協力は惜しまないよ。」
「地球に帰っても友達でいてくれない?」
「へ?」
それを願い事として口にする意味が不明すぎる。
「思った所に帰れないかもしれないから後で住所と電話番号教えて。地球に帰っても連絡が取れるように。俺も教えるから、2人で忘れないようにしよう。」
「え、えっと……お願いってそれだけ?」
もしかしたら今のは前提条件でこれから本当のお願い事を言われるのかもしれない!
「そうだよ。」
他に何もありませんでした。
「……それだと私も嬉しいんだけど、あっくんのお願いっていつも欲がないよね。」
「そうかな?」
「そうだよ!」
「あはは、じゃあ俺のお願い事の気が変わる前に早く帰らないとだね。そうだ、魔力のこと!どうして俺にあるってわかったの?」
「1番最初に成功した2人でやったシーケンの時、あっくんと手を繋いでたでしょ?」
「うん、そうだね。」
「その時、あっくんの力が私に流れ込んできたの。多分あれ、魔力だと思う。帰る方法が魔法だと思って私も自分で魔法についてあれこれ調べてたんだけど、魔力がなんなのかサッパリわからなくてね。使えたら何かのヒントになるかもと思ってたんだけど、今まで諦めてたの。」
「魔力だと思う根拠は?」
「気はボヤッとしたモノなんだけど、それとは違ってハッキリ感じた。魔力制御は魔力を感じることが大前提にあるの。私はそれをあっくんから感じた。今から私があっくんから感じたモノが魔力だとシーケンを使って証明する。」
「今から可能性を確信に変えるんだね。」
「そういうこと。1人で感じられなかったらあっくんにも協力してもらうつもりだからよろしくね。」
「わかったよ。」
私はあっくんから離れて立ち上がり、シーケンをする。
いつもの何倍も神経が研ぎ澄まされている感じがする。
すぐに意識を沈ませ、あっくんから感じた感覚を身体の中で探る。
あった!
それはすぐに見つかった。身体の中から全身に漏れ出ているのを感じる。これ、練り上げるのも巡らせるのも気にソックリだな。
それを身体の内側に留める…
いや、違うな。
留めてはダメだ。内側で対流させるんだなこれ。
熱源は…多分脳だ。
脳から出てきた熱を起点に全身に対流させていく。
でもこれ、無意識にできるまでどれくらいかかるんだろう?
あっくんは確か3年って言ってた。
そんなに待てる訳ない。
魔力を内に留める、それは適度に身体に循環させることで熱を放出することに似ている。熱が放出されなければ脳がオーバーヒートを起こしてしまう。無意識下でも対流を安定させる為には動力源が必要。とすると答えは1つ。
心臓だ。
心臓に紐付けて血流と魔力を同時に流す。
丁度良い、血管があるんだから全身を巡らせるのも益々やりやすい。
心臓の鼓動に合わせて魔力が身体中を巡る。
妙な静けさの中、心臓の音だけが響き渡る。
なんだろう、凄く気持ちが良い。
凪いだ水面に浮かんでいるようだ。
私はこれを知っている。
そうか
私は水
水は一
水は全
全てが私に還ってきているんだ
感覚でやっていたシーケンは、水。
水は私。
水は一で、水は世界なんだ。
唐突な理解
泣きたくなるようなこの感覚
ふと動きを止めて目を開ける。
わかる、感じる。身体に巡る魔力を。
もうシーケンはといている。
もう魔力の制御の為の没入は必要ない。
もう理解しているから。
もうこれが当たり前だから。
ふと顔を上げると
「しーちゃん!!!」
と、叫びながらまたあっくんに抱きしめられた。
「今日はよく抱きしめられる日だね。」
私は呆れながら声を出す。
「何言ってんの!しーちゃん丸2日シーケンやってたんだよ!」
「へ?2日?」
「そうだよ!!周りが止めようとするのを必死で抑えてたけど!俺ももう我慢の限界だったよ!良かった…身体は何ともない?」
「とりあえず離してくれないと確認のしようがない。」
「っあ、ごめん。」
とりあえず屈伸をしてジャンプをして手をグッパーしてみる。うん、大丈夫。何ともない。しかし、2日もやってたのかぁ。そんなにやっていた感覚はない。没入とは恐ろしいね。
あっくんを改めて見て驚いた。
あっくんの周りが、存在が歪んで見える。これ、もしかしてあっくんから漏れてる魔力?よく目を凝らして見る。歪みからチラッと見えたその目。
目が真っ赤だ。
ずっと起きて、私を信じて待っていてくれたんだね。
小さく手招きしながら耳打ちの仕草をする。
あっくんは片膝をついて耳を傾けてくれた。
「私を信じて待っていてくれてありがとう。魔力制御、会得したよ。」
真っ赤な目を見開いて、また抱きしめられてしまった。すぐに離してと言おうとしたけど、私の肩に顔を埋めて泣いてしまった彼に何も言えなくなってしまった。
「心配かけてごめんね。」
喋れず私の肩で顔を左右に振るあっくん。
ちょっと!
それめっちゃ擽ったいんだけど!
「あっくん、もう離して。」
ブンブン首を振るあっくん。
もちろん私の肩でだ。
「あはははははは!!」
突然笑い出した私にビックリして思わず離される。
「それ擽ったいんだって!もう無理!あははっ!」
それから顔を見合わせてまた笑った。
私達の周りにはカオリン、麗、優汰がいて、その後なにをやってるんだとしこたま怒られ平謝りする私と涙ぐむ3人とで、それはそれはカオスな空間が出来上がった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる