水と言霊と

みぃうめ

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第57話    魔力④

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 私はあっくんに抱きしめられた。
 背中から、思いっきり。
 今までの配慮が嘘だったかのように。
 余りのことに声も出ない。

「しーちゃん、俺はね、しーちゃんに幸せになってほしいんだ。俺が苦しんでた時にずっと助けてくれたじぃちゃんばぁちゃんが、幸せに生きていってほしいって残してくれた。俺もしーちゃんに幸せに生きていってほしい。これは本当に心から思ってる。しーちゃんの思う幸せは地球にあるってことだよね?心の底から応援したいし協力も惜しみたくない。でも、俺にも譲れないモノがある。だから1つだけ教えて。帰りたい理由は、好きな人?」

 あっくんの耳元で囁かれる低い声が、その真剣な声が、内臓にまで響き渡るようだった。
 でも、質問の意味はよくわからない。

「………好きな人ってナニ?」
「好きな人は好きな人だよ。異性の気になる人とか、恋人って意味。」
「今まで生きてきて1度もそんな存在に出会ったことがないし、私にはこれからも必要のない存在だよ。」

 途端にあっくんの腕から力が抜けた。

「………………………必要ない?」
「そう。必要ない。」
「どうしてそう思うか聞いてもいい?」
「人は変わる。変わらないと生きていけないから。私だって変わりながら生きてきた。それも含めて、自分も他人も信じられない。でも、変わらないモノを信じたい。大切にしたい。だから地球に帰りたい。」
「変わらないと信じるモノの為に帰りたいってこと?」
「そう。それが私の生きる理由だから。」
「それがしーちゃんの信念なんだね?」

 大きく頷く。
 あっくんは大きく1つ息をして

「わかった。これから2人で帰れる方法を全力で探していこう。一緒に地球に帰ろう!それと、1つ、地球に帰ったらお願いがあるんだけど良いかな?」
「勿論。私もあっくんの為に協力は惜しまないよ。」
「地球に帰っても友達でいてくれない?」
「へ?」

 それを願い事として口にする意味が不明すぎる。

「思った所に帰れないかもしれないから後で住所と電話番号教えて。地球に帰っても連絡が取れるように。俺も教えるから、2人で忘れないようにしよう。」
「え、えっと……お願いってそれだけ?」

 もしかしたら今のは前提条件でこれから本当のお願い事を言われるのかもしれない!

「そうだよ。」

 他に何もありませんでした。

「……それだと私も嬉しいんだけど、あっくんのお願いっていつも欲がないよね。」
「そうかな?」
「そうだよ!」
「あはは、じゃあ俺のお願い事の気が変わる前に早く帰らないとだね。そうだ、魔力のこと!どうして俺にあるってわかったの?」
「1番最初に成功した2人でやったシーケンの時、あっくんと手を繋いでたでしょ?」
「うん、そうだね。」
「その時、あっくんの力が私に流れ込んできたの。多分あれ、魔力だと思う。帰る方法が魔法だと思って私も自分で魔法についてあれこれ調べてたんだけど、魔力がなんなのかサッパリわからなくてね。使えたら何かのヒントになるかもと思ってたんだけど、今まで諦めてたの。」
「魔力だと思う根拠は?」
「気はボヤッとしたモノなんだけど、それとは違ってハッキリ感じた。魔力制御は魔力を感じることが大前提にあるの。私はそれをあっくんから感じた。今から私があっくんから感じたモノが魔力だとシーケンを使って証明する。」
「今から可能性を確信に変えるんだね。」
「そういうこと。1人で感じられなかったらあっくんにも協力してもらうつもりだからよろしくね。」
「わかったよ。」



 私はあっくんから離れて立ち上がり、シーケンをする。
 いつもの何倍も神経が研ぎ澄まされている感じがする。
 すぐに意識を沈ませ、あっくんから感じた感覚を身体の中で探る。

 あった!

 それはすぐに見つかった。身体の中から全身に漏れ出ているのを感じる。これ、練り上げるのも巡らせるのも気にソックリだな。
 それを身体の内側に留める…
 いや、違うな。
 留めてはダメだ。内側で対流させるんだなこれ。
 熱源は…多分脳だ。
 脳から出てきた熱を起点に全身に対流させていく。

 でもこれ、無意識にできるまでどれくらいかかるんだろう?
 あっくんは確か3年って言ってた。
 そんなに待てる訳ない。
 魔力を内に留める、それは適度に身体に循環させることで熱を放出することに似ている。熱が放出されなければ脳がオーバーヒートを起こしてしまう。無意識下でも対流を安定させる為には動力源が必要。とすると答えは1つ。
 心臓だ。
 心臓に紐付けて血流と魔力を同時に流す。
 丁度良い、血管があるんだから全身を巡らせるのも益々やりやすい。

 心臓の鼓動に合わせて魔力が身体中を巡る。
 妙な静けさの中、心臓の音だけが響き渡る。
 なんだろう、凄く気持ちが良い。
 凪いだ水面に浮かんでいるようだ。
 私はこれを知っている。

 そうか


 私は水
 水は一
 水は全
 全てが私に還ってきているんだ


 感覚でやっていたシーケンは、水。
 水は私。
 水は一で、水は世界なんだ。


 唐突な理解
 泣きたくなるようなこの感覚



 ふと動きを止めて目を開ける。
 わかる、感じる。身体に巡る魔力を。
 もうシーケンはといている。
 もう魔力の制御の為の没入は必要ない。
 もう理解しているから。
 もうこれが当たり前だから。



 ふと顔を上げると

「しーちゃん!!!」

 と、叫びながらまたあっくんに抱きしめられた。

「今日はよく抱きしめられる日だね。」

 私は呆れながら声を出す。

「何言ってんの!しーちゃん丸2日シーケンやってたんだよ!」
「へ?2日?」
「そうだよ!!周りが止めようとするのを必死で抑えてたけど!俺ももう我慢の限界だったよ!良かった…身体は何ともない?」
「とりあえず離してくれないと確認のしようがない。」
「っあ、ごめん。」

 とりあえず屈伸をしてジャンプをして手をグッパーしてみる。うん、大丈夫。何ともない。しかし、2日もやってたのかぁ。そんなにやっていた感覚はない。没入とは恐ろしいね。

 あっくんを改めて見て驚いた。
 あっくんの周りが、存在が歪んで見える。これ、もしかしてあっくんから漏れてる魔力?よく目を凝らして見る。歪みからチラッと見えたその目。
 目が真っ赤だ。
 ずっと起きて、私を信じて待っていてくれたんだね。
 小さく手招きしながら耳打ちの仕草をする。
 あっくんは片膝をついて耳を傾けてくれた。

「私を信じて待っていてくれてありがとう。魔力制御、会得したよ。」

 真っ赤な目を見開いて、また抱きしめられてしまった。すぐに離してと言おうとしたけど、私の肩に顔を埋めて泣いてしまった彼に何も言えなくなってしまった。

「心配かけてごめんね。」

 喋れず私の肩で顔を左右に振るあっくん。
 ちょっと!
 それめっちゃ擽ったいんだけど!

「あっくん、もう離して。」

 ブンブン首を振るあっくん。
 もちろん私の肩でだ。

「あはははははは!!」

 突然笑い出した私にビックリして思わず離される。

「それ擽ったいんだって!もう無理!あははっ!」

 それから顔を見合わせてまた笑った。

 私達の周りにはカオリン、麗、優汰がいて、その後なにをやってるんだとしこたま怒られ平謝りする私と涙ぐむ3人とで、それはそれはカオスな空間が出来上がった。












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