水と言霊と

みぃうめ

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第47話    side優汰③

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 俺はフザケた紫愛に突っ込んでいっただけだ。いつもと同じ様に軽く返してくれると思って話してた。でも川端さんに止められた。
 何で?いつものやり取りでしょ?何で止めるの?紫愛が川端さんを弱いって言ったんだよ?流石にそれはないでしょ?また大袈裟にモノをいってるんだからそんな事は無理だってわからせたかったのに!



 けど、結果は紫愛は勿論だけど川端さんも麗も怒らせてしまった。
 何で俺ばっかり悪者にされるんだよ!
 みんな勝手に怒ってるだけなのに!


 川端さんに俺の性格まで言い当てられたことも悔しかった。
 俺と同じ歳なのに、潔癖で白黒ハッキリつけないと気が済まないタイプって気が付いていた。
 殆ど話した事なんかなかったのに!川端さんは俺と紫愛のやり取りを聞いていただけだ。しかも中身の無い会話ばかり。そんなんでどーやって気付けるって言うんだ!

 それに研究はいつだって白黒ハッキリつくんだ。
 だからわかりやすくて良いんじゃないか。
 駄目な物は排除しなきゃ結果は得られないんだ!
 俺は間違ってなんかいない!



 そう思っていたのに…
 何を言われても間違っていないと思えるはずだったのに…

「お前は何でしーちゃんがPTSDじゃないと言い切れる?根拠は何だ?お前だって医者じゃねぇんだろ?」

 ハッとしてしまった。

 そうだ、俺だって医者じゃない。
 それなのに何でPTSDじゃないと思ったんだ?



 俺が違うと思ったから?
 俺が不快に感じたから?
 

 川端さんは医者じゃないんだから断言なんてできやしない。


 この言い分は間違ってない。まさにその通りだ。その理論で言っちゃえば俺だって根拠なんかないのに紫愛の病気ことを否定した。

 俺だって断言できる根拠なんて何1つ持ってなかった。
 それなのに、そのことすら気が付いていなかったことが凄くショックだった。

 俺はなんであんなに自信満々だったんだろう?

 あぁそうか。
 俺は川端さんの言う通り、綺麗な世界で生きていたんだ。

 今思えば、例え研究が間違っていても、指摘されても、討論しながら軌道修正をして有耶無耶にしていた気がする。

 自分に優しい世界に逃げ込んで、そここそが正しいと、自分こそが正しいと思っていただけだ。
 俺を否定しない世界にいたんだからそんなの当たり前だったのに。

 結局、全て川端さんの言う通り。



 それに、この期に及んでまだ俺は紫愛のことがわからない。
 川端さんの言う、暴力が日常、人が苦しむのが日常、人が死ぬのが日常、そんなの、想像したってわからない。
 それなのに今だって紫愛のことを狡いと思ってる。
 狡いって思う事は“羨ましい”ってことだよな?
 勿論殴られることなんて羨ましくない。

 俺は殴られた事で得られる視線や優しさ、同情や手助けを羨ましく思ってたんだ…
 特別扱いされてるように見えたから。
 殴られるという痛みを伴うことを代償にしているのに、その痛みの存在だけは無視して得られるモノだけを欲しがっていたんだ。

 だって結局痛いのは、苦しいのは俺じゃないんだから。



 人の痛みに鈍感なくせに自分の痛みには敏感だ。
 いつまでもおじいちゃんおばあちゃんのことを引きずって美化して、原因は全て両親に押し付けただけ。自分に都合が悪くなると逃げ出して、それを覆い隠して、他人と同調するフリをして心の中では妬み嫉み僻みの嵐。


 ハハッそりゃみんな良いことしか言わないよな。
 そんなやつの相手をマトモにするくらいなら適当に心地良い言葉を見繕っておけば丸く収まるんだから。


 俺はこれからどうやって生きていけばいい?
 もし地球に帰れたとしても、川端さんに言われて気付いてしまったんだ。自分が如何に自分の基準のみで動いているのかを。
 今まで通りで居られるわけない。


 あぁ、紫愛とくっだらない話をして中身の無い言い合いをしてたの、楽しかったなぁ。













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