水と言霊と

みぃうめ

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第29話    現状把握③

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 シューさんは困り果てた顔をし

「名乗りたくないのはわかりましたが、流石に本人の目の前でそれを言うのはどうかと思いますよ。」
「あ、違います。いや違わないけど、名乗りたくないのは川端さんにだけじゃなくて、ここにいる人達全員です。だから私の事はこれからA子でもB子でも好きに呼んでください。」

 疑ってる事実は変わらないけど、それで全てを話さないのは違うと思う。なので自分の考えを話すことにした。今更言ってもどうともできるもんじゃないしね。

「どういうことですか?そこに至るまでの経緯が知りたいです。最初の頃はちゃんと名前を名乗ってくれていましたよね?」

 怒るでもなく、ちゃんと冷静に話を聞いてくれる。流石シューさん!伊達に歳だけとってないよね!
 等と失礼極まりないことを考えつつ

「もう皆さん名乗っちゃってるので今更かもしれないんですけど、ここには魔法がある。それならば名で縛れる何かがあってもおかしくない。って、今さっきフッと思い浮かんだんです。考え出したら名乗ることが怖くなっちゃいました。なので私の事は適当に呼んでくれたら良いのかなと。」

 さっと見渡す。皆んな黄色。しかも結構ハッキリ。表情から見てもこれは“驚き”で合ってるのかな。


「言いたいことはわかりました。私も名前についてそこまで考えたことがなかったです。完全な見落としですね。ですが、名乗らなくても私達は既に貴方の名前を知ってしまっています。今気付いた考えならば、初めから偽名を名乗っていた訳ではないのでしょう?それとも偽名だったんでしょうか?偽名ではなかった場合、これから名乗らない事に意味はあるんでしょうか?」

 え、そこまで説明しなきゃいけないの?
 でも確かに、最初から偽名なんて怪しさ満点だし、そもそも偽名じゃなければ今更名前を隠す事に意味なんてない。
 私は記憶が戻ったから、今の名前は千早ではなく光紗だと自己完結していただけだったことを思い出す。そこまで頭回ってなかった。今まで何で黙っていたのか、何で話すことにしたのか、色々説明つかないよね。

 今更嘘ついても後でバレた時に信用無くしちゃうし、私とヤツのことなら兎も角、私の子供達のことは誰にも話したくない。
 何かの拍子に“子供がいるなら気持ちが解るだろう”なんて言われたら一瞬で血の海だ。
 例え話だけでも私の子供達を利用させるつもりはない。

 駄目だ、後ろ向きは駄目。諦めちゃ駄目。
 とりあえず地球人か見極める為、一緒に地球に帰る方法も協力して探してもらいたいんなら信用を得ないと話しにならない。

 すぅーーーはぁーーー。
 深呼吸して覚悟を決める。
 ヤツのことなら話せるし、上手く行けば同情くらいしてくれるかもしれない。何でもいいから信用のキッカケ作りからスタートだね。
 でも、記憶がなかったって、これ信じてもらえるのか?


「川端さん、とりあえず手離してください。信じてもらえないかもしれないんですけど、私今まで記憶が抜けてたんです。主に人に対する記憶がかなり薄くて、思い出したのはさっき蹲ってた時です。で、名前に関してなんですけど、偽名って言うとちょっと語弊があって、元の名前が千早だっただけと言うか…」

 一瞬静まり返る室内。
 1番先に声を発したのはカオリンだった。

「ちょっと待って。記憶がなかった?元の名前??全然わからないわ!」

 カオリンは盛大に困惑している。
 他の人も信じられないといった表情。
 みんなグレー色だ。それもかなり黒いに近い。カオリンは誰よりハッキリと色が見える。
 疑い?混乱?不安?とか?そんな感じかな。
 あれ?確か川端さんてカオリンと初対面の時グレーだった。知り合いだった?でもカオリンの感じからはそんなことは感じなかった。川端さんは笑顔だったから笑顔の下に本心を隠してたってこと?
 それともグレーは他にも意味がある?

 投げっぱなしで放置は駄目だ。取り敢えず後から考えよ。

「私の推測でもいいなら話しますけど。」
「「「「「是非!」」」」」

 みんな声揃っちゃってるよ。
 ここのことはわからないことだらけだし、推測くらい話しても問題ないよね。

「多分なんですけど、この世界に順応する為にストレス軽減をしてたんじゃないかと。つまり記憶が邪魔で回復できないから、記憶を封印でもしてたんじゃないんですかね?こっちに来てからほぼ寝てたんで知らない間に身体が順応したか回復したかで記憶制御のリミッターが外れて記憶が戻ったんじゃないかなって。」
「記憶が邪魔ってどゆこと?」

 優汰、今まで我慢して黙ってたのについに黙っていられなくなったんだね。でも今はアホの子には構いたくない。聞かれたくないことまで突っ込まれそうだもん。

「優汰ちょっと黙ってて。」
「酷くない!?」
「いや、優汰君の言う通りです。記憶が邪魔ってどういうことですか?」

 シューさんが聞いてきた。色もほとんど変わっていない。まぁ冷静に聞いてくれるなら言っても大丈夫だよね。

「私、中学まで親からの暴言暴力ネグレクトの3要素?で育ってきたので、そのせいじゃないっすかね?」

 淡々と言った。

 みんな絶句。
 顔色真っ青。オーラも真っ青。
 優汰はグレーがより黒に近づいたな。
 あ、川端さんだけ真っ赤だわ。

「そんな環境で育ったので、逃げる為に改名したんですよ。だから“千早”が偽名だと言われちゃうと、ちょっと違うと言うか、改名した後の名前を忘れてただけというか…」

 嘘は言っていない。言いたくないことまで言う必要はない。子供の事を言えば元夫のことまで芋蔓式に全てを曝け出すことにもなる。そんな意味のない事しない。


 みんなまだ絶句したまま。

 変な空気になったじゃん!
 だから言いたくなかったのに!













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