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夢幻洞

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第4章 夢幻との決戦

     直くんの正体

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 妲己ちゃんが家の中に吸い込まれてから、我輩は何度か風の壁にアタックを試みたが、そのいずれも実ることはなく、風に巻き込まれては吹き飛ばされるを繰り返した。

 長距離を全力疾走した上に、何度も風の壁にタックルを仕掛けて、我輩はヘトヘトになってしまった。

 「······南斗六星、今のお主ではその風に打ち勝つのは無理だ」

 疲れきって朦朧もうろうとする我輩の中に、あの狼のような声が響いた。首輪の仙宝が7色に煌めく。その煌めきが我輩の全身を覆い、体内に灼熱の霊気が満ちていくと、ぐったりとしていた体が、ウソのように気力を取り戻した。

 「······我の力で強行突破するといい。ただ我の力と風のエネルギーがぶつかるので、周囲に被害が及ぶかも知れんが、この際だ、そんなことを言ってもいられん」

 我輩は破魔矢から風に向かって進むよう促された。今度こそ風の壁を越えられるのか? 何度も跳ね返されて懲りた我輩は、期待半分不安半分の面持ちで、再度壁に向かっていった。

 ······??······!!······こ、これは······

 猛烈な風圧が7色の霊気に逸らされていく。逸れた風が庭の植え込みを直撃して、幹からポッキリと折ってしまった。むしり取られた葉が宙を舞い、辺り1面に散乱する。

 あれほど太刀打ちできなかった風が、全く我輩を襲わない。周囲は竜巻のような旋風が取り巻いているが、我輩には何の影響もなかった。その有り様は、まるで渦巻く暴風の幻影を見ているようだった。

 7色の霊気が壁と触れた。衝突する巨大なエネルギーが、熱と光に変わる。続いて衝撃波が発生し、周囲を大きく揺らした。しかし、7色の霊気に覆われた我輩は、ほとんど衝撃波の揺れを受けなかった。

 「······やった、これで家の中へ入れる」

 風の壁は熱と光、そして、衝撃波へと変わって雲散霧消した。

 これには夢幻仙も驚いた。いや、驚いたというより飛び上がった。風の壁を跡形もなく粉砕するものなど、夢幻の記憶ではこれまで全く存在しなかったからだ。正体不明の何かが外で起きている。

 可愛いおっぱい娘と乳繰り合っている場合ではない。好みの妲己ちゃんを、美少女の状態で捕獲して得意の絶頂にいたが、それも束の間、あっという間に不安の深淵に沈んでしまった。

 霊縄で縛られた妲己ちゃんは、衝撃波が家を揺らすと、窓から外を眺めた。窓ガラスがガタガタと音をたてて振動し、その波動でガラスにはヒビが入った。

 驚いたのは、家全体を覆っていた旋風が、影も形もなく消えていることだった。妲己ちゃんは一体何が起きたのかといぶかったが、間もなく、ことの真相を理解してニンマリと満面の笑みを浮かべた。そして、振り返ると京香を弄んでいる男に向けて睨み付けた。

 「やい、ジジイ!! これで、あんたも終わりだよ。2度と人間の女に、手を出せないようにしてやるんだから!!」

 妲己ちゃんは確かに窓の外で見た。門の前で7色に輝く霊気を。それは、前に見た破魔矢の霊気に違いなかった。風の壁を消し去ったのは破魔矢だったのだ。

 チェックメイト······

 眼を見開いて驚愕としている直くんに向けて、妲己ちゃんは不敵な笑みを投げつけた。あんぐりと口を開けて、バカ面を晒している直くんが愉快で、妲己ちゃんは笑いを押さえることができなかった······
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