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第4章 夢幻との決戦

 前哨戦① ~南斗六星vs 情魔~

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 我輩は妲己ちゃんに遅れないようについていった。妲己ちゃんは我輩を睨み付けながらブツブツ言っている。

 「あーーー、折角ジジイのお陀仏を見られると思ったのに······これじゃ、楽に引導なんて渡せないわよ! ったく、下手したらまたあいつに捕まっちゃうじゃないのよ。もう、今度こそお嫁に行けないわ」

 「す、すまん······」

 「さっき、あたいも手伝うって言ったけど、やっぱあれ無し。あたい遠くで見てるから、あんた1人であのジジイをやっつけてよ!」

 面目のない我輩は、何も言うことができずに、ただトボトボと妲己ちゃんの後を追うのみだった。

 「ところで、女神様達のところで随分長くいたみたいだけど、あんたいったい何をしてたの?」

 「長く? そんなに長くいたかな······我輩はどれくらい異界にいたんだい?」

 「どのくらいって、あんた分からないの?」

 「うーん、別に長くいた気がしないんだけど」

 「あんた、1ヶ月くらいいなかったのよ。それで、あんたのとこの母娘が、心配してあっちこっち探してた。あんた早く帰った方がいいよ、母娘がジジイに狙われてもいるしね」

 我輩は妲己ちゃんの言葉に驚いた。どう考えたって奥の殿に1月もいたはずはない。でも、京香達が心配で探しているとなると、結構長く留守にしていたようだ。

 「多分、この世とあんたがいた場所は、時間の進み方が違うんだよ」

 考え込む我輩を見て、妲己ちゃんが言った。

 その時、京香宅の方から霊体が飛んできた。いや、正確には飛ばされてきた。ライフル弾のように回転しながら、勢いよく飛んでくる。それは、夜空よりも黒い、煙のような塊だった。
崩れてはいるが、人の形をしている。表情が······何度も見たあいつだ、忘れるはずがない!

 「あれ、あいつ情魔じゃん。何やってんのかな、あのスケベ? おおかた、あの娘の体目当てで来たんだろうけど······」

 情魔は、錐揉み回転で、我輩らの背後に音もなく落下した。路面に叩きつけられた衝撃で、散り散りに蒸発し、再び空宙で情魔が形作られた。好色な顔つきの上には、驚きと恐怖が張り付いていた。情魔は、下に我輩達がいることに気付かないほど混乱していた。何を考えているのか、じっと街村家の方を凝視している。

 「こら、情魔! あたい達を前にして無視するな! ホント悪い根性してるよね!」

 そこ声にハッとして、情魔は我輩達の方を見た。そして、またしても目を見開いて凝視した。

 「な、何だ、お前達!?」

 「お前達とはご挨拶だね! 何を未練がましく娘の家を見詰めてんだよ!」

 情魔はプンプン飛び回る妲己ちゃんと、苦虫を噛み潰したような顔つきの我輩を、交互に見やった。特に我輩の七色の毛並みに驚いているようだった。妲己ちゃんの挑発など、初めからなかったかのように我輩を睨みつけている。

 「こら、スケベ野郎! あたいの話を聞いてんのか! おちんちんちょん切ってやろうか!」

 「うるせえ、小便くせえクソガキが!」

 情魔も、悪態をつけるほど現実が見えてきた。

 「情魔よ、いったい、こんなところで何をしている? また、我輩の主に悪さを働きに来たわけではあるまいな?」

 我輩も情魔を睨み返した。お互いの刺すような視線が、宙で激しくぶつかり合う。

 「へッへッへッ、だったらどうする?」

 「······こうしてやる」

 我輩の意思とは関係なく、勝手に言葉が出てきた。それも、我輩のキュートな声とは似ても似つかない、まるで狼が遠吠えをするような恐ろしい声だった。我輩の内部で煮えたぎる、灼熱の霊気が動き出す。

 「な、何なの!? これは!?」

 「······南斗六星、我を使え」

 「ウワッ! こ、これは、何だ!?」

 七色の霊気の内1色を体内に残して、残りの6色が6つの霊気の塊となって我輩を中心に回転し始めた。凝縮された1つ1つの塊から、とてつもない波動が周囲にあふれでる。

 少しでも霊気を持つものならば、1つ1つの塊が、どれほど危険なエネルギーを持っているか想像がつく。まして、妲己ちゃんや情魔ほどの力を持つものならば言わずもがなだった。

 絶望的な恐怖と、あり得ないほどの驚愕に飲み込まれた情魔は、動くこともできなかった······

 
 

 


 
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