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夢幻洞

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第3章 お供え物を求めて

    家族の1員になって

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 京香はそのまま自室へ寝かせられ、朝になるまで目覚めなかった。風呂場での出来事などは全く覚えていなかった。下着も寝巻きも着せられていたので、直君を装った男と風呂場で絡み合っていたとはとても思えない。

 いつも迎える清々しい朝の下、京香は登校の準備を終えるとダイニングへ向かった。母親がテーブルの上に朝食を用意している。母親の方も自分の娘に性的悪戯をしたことなど全く覚えていなかった。当たり前の表情で、普段通りの朝を過ごしている。

 「おはよう、お母さん。お父さん、今日は早いの?」

 我輩がテーブル横の床で、ミルクを飲んでいると京香が部屋へ入ってきた。我輩は飲むのを止め、尻尾を振りながら京香を見た。昨夜、風呂場で起きたことなどつゆとも知らない顔をしている京香は、我輩の愛くるしい姿を見て瞳を輝かせた。

 「きゃあ❤️ おはよう、シロ。昨日は、お母さんと1緒だったの?」

 京香は、我輩を顔の前まで持ち上げる。我輩は、ミルクの付いた舌で京香の唇をペロペロ舐めた。

 「アハハ、くすぐったいよ、シロ❤️」

 京香は、我輩のキュートな鼻にキスをして床へ下ろした。 我輩は再びミルクを舐め始めた。

 「そうですよ、京香。あなたは、お風呂から上がったら、さっさと上へ行って寝てしまうのですからね。パールちゃんが淋しがってたから、昨日は、私と1緒に寝ました」

 そう、我輩は昨夜、母親と1緒に寝たのだ。母親が身に付けていたブラジャーとショーツをお供えに受け取ったあと、夢幻仙様は憑依を解いて夢幻洞へ帰っていった。

 「エロよ、お供え物をたくさん集めて祭壇に捧げるのじゃ。しからば、渾沌門は開くじゃろう」

 我輩は、正気に戻った母親の胸の中で、一夜を明かしたのだ。夜遅くになって父親が帰宅したが、母親には頭が上がらないらしく、1言も意見を言えずに、我輩を承認してしまった。

 我輩は、これから市営墓地の妲己ちゃんを訪ねようと思う。夢幻洞へ彼女を招くためだ。もし、了承されれば、我輩は妲己ちゃんと1緒にお供え物集めができるだろう。お供え物については、我輩よりも彼女の方がずっと詳しそうなので、効率良く集められそうだ。

 「さあ、パールちゃん。お母さんと散歩に行きましょうね❤️」

 我輩達は、京香と別れて散歩をしに外へ出た。リードは無いので、我輩は自由に歩くことができた。母親は、のんびりと周囲を眺めながら、我輩の傍らを歩いている。特に、我輩の行動に注意を払っている様子は無さそうだ。静かにしていれば、リードを付けられることも無さそうだった。

 我輩は、時々寄り道を装いながら、母親を市営墓地に誘導した。途中、1本の電柱を巡って大型犬と睨み合いになる、というトラブルもあったが、首尾よく市営墓地に着くことができた。

 ワンッ、ワンッ、ワンッ!!

 我輩は墓地に向かって吠えた。しかし、墓地には妲己ちゃんの炎は見られなかった。我輩は、再び吠えながら墓地を見回した。やはり狐火は現れなかった。

 朝の澄んだ陽光が、墓地を隅々まで照らし出している。夜露に濡れた植え込みの葉が、朝日を浴びてキラキラ輝いている。墓石の上では、雀がチュンチュン鳴きながら、羽ずくろいをしていた。

 「······誰よ、朝っぱらからうるさいなぁ」

 我輩の中に、妲己ちゃんの気だるそうな声が響いた。

 ワンッ、ワンッ!!

 「あんた、あの仙犬じゃない······あたいに会いたいなら夜に来なさいよぉ。っとに何も知らないんだから······」

 妲己ちゃんの剣呑な抗議が終わると、墓地は再び静かになり、2度と妲己ちゃんの声が聞こえてくることはなかった。

 我輩は知らなかったが、狐火の活動時間は夜間らしく、日中は墓地で休んでいるようだった。

 「どうしたの、パールちゃん。墓地にほえたりして? お化けでもいるの? ウフフ、お化けが出たら助けてね、パールちゃん❤️」

 我輩は、夜に改めて来ることにした······

 
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