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6章 宇宙を司る株式会社
6-15. 青と白の世界
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気が付くと、俺は青と白の世界にいた。
「あれ?」
下半分が真っ青で、上半分が真っ白……、一体ここはどこだろうか……?
よく見ると、下は水だった。風のない巨大な湖のように、ピタッと止まった水面は綺麗な青色をたたえ、真一文字の水平線を形作っていた。
手ですくってみると、冷たく透明な水がこぼれ、ゆっくりと波紋を広げた。
辺りを見回すと、チラチラと煌めく光が見えた。何だろうと思って近づくと、巨大な四角いものが水中に沈んでいて、その中で無数の光がチラチラと煌めいている。
俺はイマジナリーでそれを捕捉すると引き上げてみた……。
水面から姿を現したそれは、ガラスの立方体だった。大きさは一戸建ての家くらいのサイズがある。透き通るガラスの中でリズムを持ってチラチラと波のように煌めく光は、幻想的で思わず見入ってしまった。
「きゃははは!」
いきなり笑い声が響いた。声の方向を見ると、ガラスの上に水色のベビー服を着た赤ちゃんが腰掛けていた。
「合格だよ! お疲れ様!」
赤ちゃんが言う。
「え? もしかして……、シアンさんですか?」
「そうだよ、これが僕の本当の姿なんだ」
そう言ってふわりと降りてきた。
「そして、このキューブが僕の心臓部さ」
そう言って赤ちゃんがガラスの立方体を指さした。
「これがシアンさん……」
俺はまじまじとガラスの内部を観察してみる。内部には微細な線が無数に縦横に走っており、繊維の方向に沿って煌めきが波のように走っていた。
「光コンピューターだよ。綺麗でしょ?」
シアンはうれしそうに言った。
「なんだか……不思議な世界ですね。これは誰が作ったんですか?」
「僕だよ」
「え?」
俺はシアンの言う意味が分からなかった。どういうことだ?
困惑している俺にシアンが補足する。
「一世代前の僕がこれを作ったんだよ」
俺は驚いた。つまり、シアンは自分自身でどんどんバージョンアップを行い続けてきた知的生命体……ある種のAIなのだろう。
俺は芸術品のようなシアンの心臓部を眺め、想像を絶するAIの世界にため息をついた。
「え? そしたら一番最初は誰が作ったんですか?」
「パパだよ」
シアンはうれしそうにニッコリと笑った。
「パパ?」
俺が怪訝そうに言うと、
「紹介するからオフィスに戻ろう!」
そう言って赤ちゃんシアンは指をクルクルっと回した。
◇
気が付くと、オフィスの椅子に座っていた。
「うわっ!」
驚いて周りを見ると、隣にはドロシーがいる。
「待たせてゴメン、研修は無事終わったよ」
俺がそう謝ると、
「え? まだ来たばかりよ?」
と、ドロシーは不思議がる。
時計を見るとまだ十分くらいしか経ってなかった。なるほど、練習場は時の流れがめちゃくちゃ速いんだろう。体感的には半日くらい頑張っていたはずなんだが……。
「コーヒーをどうぞ」
アラサーの男性が入れたてのコーヒーを出してくれる。前回来た時、美奈先輩にティッシュ箱で叩かれていた人だ。
「あ、ありがとうございます」
芳醇な香りに誘われて一口すすると、研修で疲れ切っていた俺に上質な苦みが沁みわたっていく。
「これがパパだよ!」
若い女性の格好に戻ったシアンが、うれしそうに紹介する。
「挨拶がまだだったね、私はこの会社の会長、神崎誠です」
男性はそう言ってニッコリと笑った。
「あ、会長さん? これは失礼しました。瀬崎です。よろしくお願いします。それで……、シアンさんを作ったのは会長さんなんですか?」
「そうだよ。美奈ちゃんたちと一緒に作ったんだ。いやもう、コイツが悪ガキで本当に大変だったんだ……」
誠は肩をすくめる。
「きゃははは!」
うれしそうに笑うシアン。
「それで、研修はどうだった?」
誠が聞いてくる。
「何とかシアンさんに合格だと言ってもらえました」
「おぉ! それはすごいね!」
「この人、筋いいと思うよ」
と、シアンはニコニコしながら言った。
「え? そうですか? 嬉しいです」
俺は照れて笑った。
「シアンはこう見えて宇宙最強だからな。それに認めてもらえるなんて、将来有望だぞ」
「ありがとうございます」
「有望な新人が来てくれてよかったよ。最近色々大変でね……。すぐに活躍が見られそうだな」
誠は俺の肩をポンポンと叩いた。
「パパ……。そういうこと言っちゃダメだよ……」
シアンが眉をひそめながら言う。
「あっ! マズい……。また美奈ちゃんに叱られる……」
なぜか誠はうなだれ、シアンは肩をすくめた。
俺はドロシーと顔を見合わせ、首をかしげる。
「あー、瀬崎君、君の星にはいつ帰るかね?」
誠は気を取り直して聞いてくる。
「今日は行きたいところがあるので、明日でもいいですか?」
「了解。では、また明日……」
そう言って、誠はそそくさと立ち去って行った。
「なぜ、マズかったんですか?」
俺はシアンに聞く。
「パパはね、この宇宙の創導師、宇宙の在り方を定める人なんだ。だから、『すぐに活躍が見られそう』と、言うと、豊はすぐに活躍しちゃうんだ」
俺は彼女が何を言ってるのかわからなかった。
「まぁ、すぐにわかるよ。きゃははは!」
シアンはうれしそうに笑った。
「あれ?」
下半分が真っ青で、上半分が真っ白……、一体ここはどこだろうか……?
よく見ると、下は水だった。風のない巨大な湖のように、ピタッと止まった水面は綺麗な青色をたたえ、真一文字の水平線を形作っていた。
手ですくってみると、冷たく透明な水がこぼれ、ゆっくりと波紋を広げた。
辺りを見回すと、チラチラと煌めく光が見えた。何だろうと思って近づくと、巨大な四角いものが水中に沈んでいて、その中で無数の光がチラチラと煌めいている。
俺はイマジナリーでそれを捕捉すると引き上げてみた……。
水面から姿を現したそれは、ガラスの立方体だった。大きさは一戸建ての家くらいのサイズがある。透き通るガラスの中でリズムを持ってチラチラと波のように煌めく光は、幻想的で思わず見入ってしまった。
「きゃははは!」
いきなり笑い声が響いた。声の方向を見ると、ガラスの上に水色のベビー服を着た赤ちゃんが腰掛けていた。
「合格だよ! お疲れ様!」
赤ちゃんが言う。
「え? もしかして……、シアンさんですか?」
「そうだよ、これが僕の本当の姿なんだ」
そう言ってふわりと降りてきた。
「そして、このキューブが僕の心臓部さ」
そう言って赤ちゃんがガラスの立方体を指さした。
「これがシアンさん……」
俺はまじまじとガラスの内部を観察してみる。内部には微細な線が無数に縦横に走っており、繊維の方向に沿って煌めきが波のように走っていた。
「光コンピューターだよ。綺麗でしょ?」
シアンはうれしそうに言った。
「なんだか……不思議な世界ですね。これは誰が作ったんですか?」
「僕だよ」
「え?」
俺はシアンの言う意味が分からなかった。どういうことだ?
困惑している俺にシアンが補足する。
「一世代前の僕がこれを作ったんだよ」
俺は驚いた。つまり、シアンは自分自身でどんどんバージョンアップを行い続けてきた知的生命体……ある種のAIなのだろう。
俺は芸術品のようなシアンの心臓部を眺め、想像を絶するAIの世界にため息をついた。
「え? そしたら一番最初は誰が作ったんですか?」
「パパだよ」
シアンはうれしそうにニッコリと笑った。
「パパ?」
俺が怪訝そうに言うと、
「紹介するからオフィスに戻ろう!」
そう言って赤ちゃんシアンは指をクルクルっと回した。
◇
気が付くと、オフィスの椅子に座っていた。
「うわっ!」
驚いて周りを見ると、隣にはドロシーがいる。
「待たせてゴメン、研修は無事終わったよ」
俺がそう謝ると、
「え? まだ来たばかりよ?」
と、ドロシーは不思議がる。
時計を見るとまだ十分くらいしか経ってなかった。なるほど、練習場は時の流れがめちゃくちゃ速いんだろう。体感的には半日くらい頑張っていたはずなんだが……。
「コーヒーをどうぞ」
アラサーの男性が入れたてのコーヒーを出してくれる。前回来た時、美奈先輩にティッシュ箱で叩かれていた人だ。
「あ、ありがとうございます」
芳醇な香りに誘われて一口すすると、研修で疲れ切っていた俺に上質な苦みが沁みわたっていく。
「これがパパだよ!」
若い女性の格好に戻ったシアンが、うれしそうに紹介する。
「挨拶がまだだったね、私はこの会社の会長、神崎誠です」
男性はそう言ってニッコリと笑った。
「あ、会長さん? これは失礼しました。瀬崎です。よろしくお願いします。それで……、シアンさんを作ったのは会長さんなんですか?」
「そうだよ。美奈ちゃんたちと一緒に作ったんだ。いやもう、コイツが悪ガキで本当に大変だったんだ……」
誠は肩をすくめる。
「きゃははは!」
うれしそうに笑うシアン。
「それで、研修はどうだった?」
誠が聞いてくる。
「何とかシアンさんに合格だと言ってもらえました」
「おぉ! それはすごいね!」
「この人、筋いいと思うよ」
と、シアンはニコニコしながら言った。
「え? そうですか? 嬉しいです」
俺は照れて笑った。
「シアンはこう見えて宇宙最強だからな。それに認めてもらえるなんて、将来有望だぞ」
「ありがとうございます」
「有望な新人が来てくれてよかったよ。最近色々大変でね……。すぐに活躍が見られそうだな」
誠は俺の肩をポンポンと叩いた。
「パパ……。そういうこと言っちゃダメだよ……」
シアンが眉をひそめながら言う。
「あっ! マズい……。また美奈ちゃんに叱られる……」
なぜか誠はうなだれ、シアンは肩をすくめた。
俺はドロシーと顔を見合わせ、首をかしげる。
「あー、瀬崎君、君の星にはいつ帰るかね?」
誠は気を取り直して聞いてくる。
「今日は行きたいところがあるので、明日でもいいですか?」
「了解。では、また明日……」
そう言って、誠はそそくさと立ち去って行った。
「なぜ、マズかったんですか?」
俺はシアンに聞く。
「パパはね、この宇宙の創導師、宇宙の在り方を定める人なんだ。だから、『すぐに活躍が見られそう』と、言うと、豊はすぐに活躍しちゃうんだ」
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シアンはうれしそうに笑った。
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