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6章 宇宙を司る株式会社

6-5. 究極のバックアップ

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「ありゃりゃ……」
 シアンは天を仰いで額に手を当てた。
 ブラックホールはどんどんと景気よく地球を吸い込み続け、程なく、全てのみ込み、真っ黒な宇宙空間が広がるだけになった。

 みんな言葉を失った。守るべき地球が全部なくなってしまった。街もみんなも全て消えてしまった。
「あ……あ……」「うわぁぁ……」
 俺もレヴィアもひざから崩れ落ちた。守るべき地球が一瞬で消えてしまった。あまりの事に言葉を失い、動けなくなった。
 地球があった場所にはただ満天の星空が広がるばかりだった。

 そ、そんな馬鹿なぁ……。
 宇宙最強と聞いた時の不安が的中してしまった。強すぎる者は往々にして雑なのだ。

 ほうけていると、シアンが言った。
「ゴメン、ゴメン、今すぐ戻すからさ」
「え?」
 意外な言葉に俺は驚かされた。
「戻すって……時間を戻せるんですか?」
「うん、いつのタイミングに戻そうか?」
 うれしそうに笑うシアン。
 俺は想像もしなかった提案に一瞬言葉を失った。
 時間を戻せる、それも好きな時間に戻せるという。どういうことなのだろうか……?
 とんでもなく規格外な話に混乱してしまう。さすが宇宙最強。
 戻してもらえるなら蜘蛛を吸い込んだ直後……。いや、蜘蛛が大きくなる前? いや、そもそもヌチ・ギが悪さをする前? でも、ヌチ・ギが復活されても困る……。どこがいいのか?

 悩んでいるとドロシーが言った。
「あのー……」
「何?」
 シアンはニコニコとしている。
「ヌチ・ギという悪い人がいてですね……」
 ドロシーが言いかけると、レヴィアは、
「な、何を言い出すんじゃ! そういうことは……」
 と、制止しようとする。しかし、シアンはにこやかな表情のまま、手のひらでレヴィアをさえぎった。
「続けて……」
 渋い顔をするレヴィア。
「ヌチ・ギはたくさんの女の子や私をさらってもてあそび、ついには巨人化して兵士にしたんです。助けに来てくれた『アバドン』さんという魔人の行方も分かっていません。彼らを復活させ、でもヌチ・ギが復活しないようにして欲しいんです」
 ドロシーは両手を合わせ、真剣な目でシアンに頼み込む。
 シアンはうんうんとうなずき、楽しそうに、
「いいよ!」
 と、言うと、手を振り上げ、俺たちは意識を失った。

        ◇

 気が付くと、俺たちはたくさんの美しい女性が舞っているホールにいた。ヌチ・ギの屋敷に戻ってきたのだ。中央に俺と戦った巨人、戦乙女ヴァルキュリがいるところを見ると、本当に時間が巻き戻っているようだ。

「あー! これはすごいねぇ! きゃははは!」
 シアンはたくさんの女性たちをキョロキョロと見回しながら笑った。

 想像を絶するシアンの能力に、俺は戦慄を覚えた。こんな事が出来てしまうなら何でもアリではないのだろうか? 必死に戦っていた俺たちの苦労は何だったんだろう……?

「シアンさんは時間を操れるんですか?」
 俺は恐る恐る聞いてみる。

「操るというか……、単にバックアップを復元しただけだよ」
 さらっとすごい事を言い出すシアン。
「バックアップ!?」
 俺が驚いていると。
「この星のデータは定期的にバックアップされてるのだ。僕はそれを復元リストアしただけ」
 そう言ってニッコリと笑う。
 しかし、バックアップといっても、あのジグラートの巨大なコンピューター群のすべてのデータのバックアップなんてどうやって取るのだろうか? 気の遠くなるような記憶容量、データ転送が必要なのではないだろうか? とても信じられないが……、目の前で実現されてしまうと認めざるを得ない。
 『宇宙最強』という言葉の意味が少し分かった気がした。
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