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5章 母なる星、海王星
5-5. 忘れてしもうた
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フロントガラスの向こうに何かが漂っているのが見えた。小さな白い箱でLEDみたいなインジケーターがキラキラと光っている。
「あれは?」
俺は暗闇の中、聞いた。
「エネルギーポッドじゃ。この船の燃料パックの一つを投棄したんじゃ」
「で、エンジン止まっちゃいましたけどいいんですか?」
「そこがミソじゃ。スカイパトロールはエネルギー反応を自動で追っとるんじゃ。こうすると、ワシらではなく、あのエネルギーポッドを追跡する事になる」
「え――――! そんなのバレますよ」
「バレるじゃろうな。でも、その頃にはワシらは大気圏突入しとる。もう、追ってこれんよ」
何という強硬策……。しかし、こんな電源落ちた状態で大丈夫なのだろうか?
「いつ、シャトルは再起動するんですか?」
「大気圏突入直前じゃな。電源落ちた状態で大気圏突入なんてしたら制御不能になってあっという間に木っ端みじんじゃ」
何という綱渡りだろうか。
電源の落ちたシャトルは、まるで隕石のようにただ静かに海王星へと落ちて行く。俺は遠く見えなくなっていくエネルギーポッドを見ながら、ただ、作戦の成功を祈った。
◇
海王星がぐんぐんと迫り、そろそろ大気圏突入する頃、シャトルに衝撃波が当たった。
パーン!
「ヤバい……。エネルギーポッドが爆破されたようじゃ」
レヴィアの深刻そうな声が暗闇の船内に響いた。
「では次はシャトルが狙われる?」
「じゃろうな、エンジン再起動じゃ!」
レヴィアは暗闇の中、足元からゴソゴソと切断したケーブルを出した……、が、止まってしまった。
「ユータ……、どうしよう……」
今にも泣きそうなレヴィアの声がする。
「ど、どうしたんですか?」
予想外の事態に俺も冷や汗が湧いてくる。
「ケーブルの色が……暗くて見えん……」
ケーブルは色違いの複数の物が束ねられていたから、色が分からないと直せないが、船内は真っ暗だった。
「え!? 明かりになるものないんですか?」
「忘れてしもうた……」
俺は絶句した。
太陽は後ろ側で陽の光は射さず、フロントガラスからわずかに海王星の青い照り返しがあるぐらいだったが、それは月夜よりも暗かった。
「……。お主……、明かり……もっとらんか?」
「えっ!? 持ってないですよそんなの!」
「あ――――、しまった。これは見えんぞ……」
レヴィアは暗闇の中でケーブルをゴソゴソやっているようだが、難しそうだった。
「手探りでできませんか?」
「ケーブルの色が分からないと正しい接続にならんから無理じゃ」
「試しに繋いでみるってのは?」
「繋ぎ間違えたら壊れてしまうんじゃ……」
俺は絶句した。
「電源さえ戻れば光る物はあるんじゃが……」
レヴィアがしょんぼりとして言う。
「魔法とかは?」
「海王星で魔法使えるなんてヴィーナ様くらいじゃ」
「そうだ、ヴィーナ様呼びますか?」
「……。なんて説明するんじゃ……? 『シャトル盗んで再起不能になりました』って言うのか? うちの星ごと抹殺されるわい!」
「いやいや、ヴィーナ様は殺したりしませんよ」
「あー、あのな。お主が会ってたのは地球のヴィーナ様。我が言ってるのは金星のヴィーナ様じゃ」
「え? 別人ですか?」
「別じゃないんじゃが、同一人物でもないんじゃ……」
レヴィアの説明は意味不明だった。そもそも金星とはなんだろうか?
その時だった。
コォォ――――。
何やら音がし始めた。
「マズい……。大気圏突入が始まった……」
後ろからはスカイパトロール、前には大気圏、まさに絶体絶命である。
「ど、どうするんですか!?」
心臓がドクドクと速く打ち、冷や汗がにじんでくる。
「なるようにしかならん。明るくなる瞬間を待つしかない」
レヴィアはそう言うと、覚悟を決めたようにケーブルを持って時を待った。
確かに大気圏突入時には火の玉のようになる訳だから、その時になれば船内は明るくなるだろうが……それでは手遅れなのではないだろうか? だが、もはやこうなっては他に打つ手などなかった。
徐々に大気との摩擦音が強くなっていく。
重苦しい沈黙の時間が続いた――――。
◇
いきなり船内が真っ赤に輝いた。
「うわっ!」
恐る恐る目を開けると目の前に『STOP』という赤いホログラムが大きく展開されている。
「ラッキー!」
レヴィアはそう言うと、ケーブルに工具を当て、作業を開始する。
「見えさえすればチョチョイのチョイじゃ!」
そう、軽口を叩きながら手早くケーブルを修復するが、
パン! パン!
威嚇射撃弾がシャトルの周辺で次々とはじける。
「レヴィア様ぁ!」
俺は真っ赤に輝く船内で間抜けな声を出す。
「ホイ、できた! 行くぞ!」
そう言ってレヴィアがケーブルをしまい、パネルを閉めた。
ブゥゥン!
起動音がして操縦パネルが青く光り、船室にも明かりがともった。
修理できたのは良かったが、スカイパトロールは本気だ。俺はこれから始まる逃走劇に胃がキリキリと痛んだ。
「あれは?」
俺は暗闇の中、聞いた。
「エネルギーポッドじゃ。この船の燃料パックの一つを投棄したんじゃ」
「で、エンジン止まっちゃいましたけどいいんですか?」
「そこがミソじゃ。スカイパトロールはエネルギー反応を自動で追っとるんじゃ。こうすると、ワシらではなく、あのエネルギーポッドを追跡する事になる」
「え――――! そんなのバレますよ」
「バレるじゃろうな。でも、その頃にはワシらは大気圏突入しとる。もう、追ってこれんよ」
何という強硬策……。しかし、こんな電源落ちた状態で大丈夫なのだろうか?
「いつ、シャトルは再起動するんですか?」
「大気圏突入直前じゃな。電源落ちた状態で大気圏突入なんてしたら制御不能になってあっという間に木っ端みじんじゃ」
何という綱渡りだろうか。
電源の落ちたシャトルは、まるで隕石のようにただ静かに海王星へと落ちて行く。俺は遠く見えなくなっていくエネルギーポッドを見ながら、ただ、作戦の成功を祈った。
◇
海王星がぐんぐんと迫り、そろそろ大気圏突入する頃、シャトルに衝撃波が当たった。
パーン!
「ヤバい……。エネルギーポッドが爆破されたようじゃ」
レヴィアの深刻そうな声が暗闇の船内に響いた。
「では次はシャトルが狙われる?」
「じゃろうな、エンジン再起動じゃ!」
レヴィアは暗闇の中、足元からゴソゴソと切断したケーブルを出した……、が、止まってしまった。
「ユータ……、どうしよう……」
今にも泣きそうなレヴィアの声がする。
「ど、どうしたんですか?」
予想外の事態に俺も冷や汗が湧いてくる。
「ケーブルの色が……暗くて見えん……」
ケーブルは色違いの複数の物が束ねられていたから、色が分からないと直せないが、船内は真っ暗だった。
「え!? 明かりになるものないんですか?」
「忘れてしもうた……」
俺は絶句した。
太陽は後ろ側で陽の光は射さず、フロントガラスからわずかに海王星の青い照り返しがあるぐらいだったが、それは月夜よりも暗かった。
「……。お主……、明かり……もっとらんか?」
「えっ!? 持ってないですよそんなの!」
「あ――――、しまった。これは見えんぞ……」
レヴィアは暗闇の中でケーブルをゴソゴソやっているようだが、難しそうだった。
「手探りでできませんか?」
「ケーブルの色が分からないと正しい接続にならんから無理じゃ」
「試しに繋いでみるってのは?」
「繋ぎ間違えたら壊れてしまうんじゃ……」
俺は絶句した。
「電源さえ戻れば光る物はあるんじゃが……」
レヴィアがしょんぼりとして言う。
「魔法とかは?」
「海王星で魔法使えるなんてヴィーナ様くらいじゃ」
「そうだ、ヴィーナ様呼びますか?」
「……。なんて説明するんじゃ……? 『シャトル盗んで再起不能になりました』って言うのか? うちの星ごと抹殺されるわい!」
「いやいや、ヴィーナ様は殺したりしませんよ」
「あー、あのな。お主が会ってたのは地球のヴィーナ様。我が言ってるのは金星のヴィーナ様じゃ」
「え? 別人ですか?」
「別じゃないんじゃが、同一人物でもないんじゃ……」
レヴィアの説明は意味不明だった。そもそも金星とはなんだろうか?
その時だった。
コォォ――――。
何やら音がし始めた。
「マズい……。大気圏突入が始まった……」
後ろからはスカイパトロール、前には大気圏、まさに絶体絶命である。
「ど、どうするんですか!?」
心臓がドクドクと速く打ち、冷や汗がにじんでくる。
「なるようにしかならん。明るくなる瞬間を待つしかない」
レヴィアはそう言うと、覚悟を決めたようにケーブルを持って時を待った。
確かに大気圏突入時には火の玉のようになる訳だから、その時になれば船内は明るくなるだろうが……それでは手遅れなのではないだろうか? だが、もはやこうなっては他に打つ手などなかった。
徐々に大気との摩擦音が強くなっていく。
重苦しい沈黙の時間が続いた――――。
◇
いきなり船内が真っ赤に輝いた。
「うわっ!」
恐る恐る目を開けると目の前に『STOP』という赤いホログラムが大きく展開されている。
「ラッキー!」
レヴィアはそう言うと、ケーブルに工具を当て、作業を開始する。
「見えさえすればチョチョイのチョイじゃ!」
そう、軽口を叩きながら手早くケーブルを修復するが、
パン! パン!
威嚇射撃弾がシャトルの周辺で次々とはじける。
「レヴィア様ぁ!」
俺は真っ赤に輝く船内で間抜けな声を出す。
「ホイ、できた! 行くぞ!」
そう言ってレヴィアがケーブルをしまい、パネルを閉めた。
ブゥゥン!
起動音がして操縦パネルが青く光り、船室にも明かりがともった。
修理できたのは良かったが、スカイパトロールは本気だ。俺はこれから始まる逃走劇に胃がキリキリと痛んだ。
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