上 下
67 / 95
5章 母なる星、海王星

5-5. 忘れてしもうた

しおりを挟む
 フロントガラスの向こうに何かが漂っているのが見えた。小さな白い箱でLEDみたいなインジケーターがキラキラと光っている。
「あれは?」
 俺は暗闇の中、聞いた。
「エネルギーポッドじゃ。この船の燃料パックの一つを投棄したんじゃ」
「で、エンジン止まっちゃいましたけどいいんですか?」
「そこがミソじゃ。スカイパトロールはエネルギー反応を自動で追っとるんじゃ。こうすると、ワシらではなく、あのエネルギーポッドを追跡する事になる」
「え――――! そんなのバレますよ」
「バレるじゃろうな。でも、その頃にはワシらは大気圏突入しとる。もう、追ってこれんよ」
 何という強硬策……。しかし、こんな電源落ちた状態で大丈夫なのだろうか?

「いつ、シャトルは再起動するんですか?」 
「大気圏突入直前じゃな。電源落ちた状態で大気圏突入なんてしたら制御不能になってあっという間に木っ端みじんじゃ」
 何という綱渡りだろうか。
 電源の落ちたシャトルは、まるで隕石のようにただ静かに海王星へと落ちて行く。俺は遠く見えなくなっていくエネルギーポッドを見ながら、ただ、作戦の成功を祈った。

        ◇

 海王星がぐんぐんと迫り、そろそろ大気圏突入する頃、シャトルに衝撃波が当たった。

 パーン!
「ヤバい……。エネルギーポッドが爆破されたようじゃ」
 レヴィアの深刻そうな声が暗闇の船内に響いた。
「では次はシャトルが狙われる?」
「じゃろうな、エンジン再起動じゃ!」

 レヴィアは暗闇の中、足元からゴソゴソと切断したケーブルを出した……、が、止まってしまった。
「ユータ……、どうしよう……」
 今にも泣きそうなレヴィアの声がする。
「ど、どうしたんですか?」
 予想外の事態に俺も冷や汗が湧いてくる。

「ケーブルの色が……暗くて見えん……」
 ケーブルは色違いの複数の物が束ねられていたから、色が分からないと直せないが、船内は真っ暗だった。
「え!? 明かりになるものないんですか?」
「忘れてしもうた……」
 俺は絶句した。

 太陽は後ろ側で陽の光は射さず、フロントガラスからわずかに海王星の青い照り返しがあるぐらいだったが、それは月夜よりも暗かった。
「……。お主……、明かり……もっとらんか?」
「えっ!? 持ってないですよそんなの!」
「あ――――、しまった。これは見えんぞ……」
 レヴィアは暗闇の中でケーブルをゴソゴソやっているようだが、難しそうだった。
「手探りでできませんか?」
「ケーブルの色が分からないと正しい接続にならんから無理じゃ」
「試しに繋いでみるってのは?」
「繋ぎ間違えたら壊れてしまうんじゃ……」
 俺は絶句した。
「電源さえ戻れば光る物はあるんじゃが……」
 レヴィアがしょんぼりとして言う。
「魔法とかは?」
「海王星で魔法使えるなんてヴィーナ様くらいじゃ」
「そうだ、ヴィーナ様呼びますか?」
「……。なんて説明するんじゃ……? 『シャトル盗んで再起不能になりました』って言うのか? うちの星ごと抹殺されるわい!」
「いやいや、ヴィーナ様は殺したりしませんよ」
「あー、あのな。お主が会ってたのは地球のヴィーナ様。我が言ってるのは金星のヴィーナ様じゃ」
「え? 別人ですか?」
「別じゃないんじゃが、同一人物でもないんじゃ……」
 レヴィアの説明は意味不明だった。そもそも金星とはなんだろうか?

 その時だった。

 コォォ――――。

 何やら音がし始めた。
「マズい……。大気圏突入が始まった……」
 後ろからはスカイパトロール、前には大気圏、まさに絶体絶命である。
「ど、どうするんですか!?」
 心臓がドクドクと速く打ち、冷や汗がにじんでくる。
「なるようにしかならん。明るくなる瞬間を待つしかない」
 レヴィアはそう言うと、覚悟を決めたようにケーブルを持って時を待った。
 確かに大気圏突入時には火の玉のようになる訳だから、その時になれば船内は明るくなるだろうが……それでは手遅れなのではないだろうか? だが、もはやこうなっては他に打つ手などなかった。
 徐々に大気との摩擦音が強くなっていく。
 重苦しい沈黙の時間が続いた――――。

      ◇

 いきなり船内が真っ赤に輝いた。
「うわっ!」
 恐る恐る目を開けると目の前に『STOP』という赤いホログラムが大きく展開されている。
「ラッキー!」
 レヴィアはそう言うと、ケーブルに工具を当て、作業を開始する。
「見えさえすればチョチョイのチョイじゃ!」
 そう、軽口を叩きながら手早くケーブルを修復するが、

 パン! パン!

 威嚇射撃弾がシャトルの周辺で次々とはじける。

「レヴィア様ぁ!」
 俺は真っ赤に輝く船内で間抜けな声を出す。

「ホイ、できた! 行くぞ!」
 そう言ってレヴィアがケーブルをしまい、パネルを閉めた。

 ブゥゥン!
 起動音がして操縦パネルが青く光り、船室にも明かりがともった。
 修理できたのは良かったが、スカイパトロールは本気だ。俺はこれから始まる逃走劇に胃がキリキリと痛んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

スーパーと異世界に行くのはどうですか?

トロワ
ファンタジー
ある日仕事が終わり帰ろうとしていた浅倉大輔と諸星星矢だったが謎の光が二人を包み込んだ 目が覚めるとそこは違う世界だった だが転生したのは二人だけではなくスーパーハピネスの社員みんなだった。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

処理中です...