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5章 母なる星、海王星

5-2. スカイポートへようこそ

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 気が付くと、俺は壁から飛び出ている寝台のような細いベッドに横たわっていた。壁には蜂の巣のように六角形の模様が刻まれ、寝台がたくさん収納されている様子だった。周りは布のような壁で囲まれている。どうやら海王星に転送されたようだ。俺たちの世界を構成しているコンピューターのある星、まさに神の星にやってきたのだ。
 身体を起こすとまるで自分の身体が自分じゃないような、ブヨブヨとしたプラスチックになってしまったような違和感に襲われた。
 自分の身体を見回してみると、腕も足も身体全体が全くの別人だった。
「なんだこりゃ!?」
 そう言って、聞きなれない自分の声にさらに驚く。
 少し長身でやせ型だろうか? 声も少し高い感じだ。

「スカイポートへようこそ」
 音声ガイダンスと共に目の前に青白い画面が開いた。
「スカイポート?」
 海王星の宇宙港? ということだろうか?

「衣服を選択してください」
 画面には多彩な服のデザインが並んでいるが……。みんなピチッとしたトレーニング服みたいなのばかりでグッと来ない。神の星なんだからもっとこう驚かされるのを期待したのだが……。仕方ないので青地に白のラインの入った無難そうなのを選ぶ。
 するとゴムボールみたいな青い球が上から落ちてきて目の前で止まった。
 何だろうと思ってつかもうとした瞬間、ボールがビュルビュルっと高速に展開され、いきなり俺の身体に巻き付いた。
「うわぁ!」
 驚いていると、あっという間に服になった。服を撫でてみると、革のようなしっかりとした固さを持ちながらもサラサラとした手触りで良く伸びて快適だ。なんとも不思議な技術に俺は少し感心してしまった。

「ユータ! 行くぞ!」
 いきなり布の壁がビュンと音を立てて消失した。
 見ると、胸まで届くブロンドの長い髪を無造作に手でふわっと流しながら、全裸の美女が立っていた。豊満な胸と、優美な曲線を描く肢体に俺は思わず息をのむ。
「なんじゃ? 欲情させちゃったかのう? 揉むか?」
 女性はそう言いながら腕を上げ、悩ましいポーズを取る。
「レ、レヴィア様! 服! 服!」
 俺は真っ赤になってそっぽを向きながら言った。
「ここでは幼児体形とは言わせないのじゃ! キャハッ!」
 うれしそうなレヴィア。
「ワザと見せてますよね? 海王星でも服は要ると思うんですが?」
「我の魅力をちょっと理解してもらおうと思ったのじゃ」
 上機嫌で悪びれずに言うレヴィア。
「いいから着てください!」
「我の人間形態もあと二千年もしたらこうなるのじゃ。楽しみにしておけよ」
 そう言いながらレヴィアは赤い服を選び、身にまとった。

       ◇

 通路を行くと、突き当りには大きな窓があった。窓の外は真っ暗なので夜なのかと思いながら、ふと下を見て思わず息が止まった。なんとそこには紺碧こんぺきの巨大な青い惑星が眼下に広がっていたのだ。どこまでも澄みとおる美しい青は心にしみる清涼さを伴い、表面にかすかに流れる縞模様は星の息づかいを感じさせる。
「これが……、海王星ですか?」
 レヴィアに聞いた。
「そうじゃよ。太陽系最果ての惑星、地球の17倍の大きさの巨大なガスの星じゃ」
「美しい……、ですね……」
 俺は思わず見入ってしまった。
 水平線の向こうには薄い環が美しい円弧を描き、十万キロにおよぶ壮大なアートを展開している。よく見ると満天の星空には濃い天の川がかかり、見慣れた夏の大三角形や白鳥座が地球と同様に浮かんでいた。ただ……、見慣れない星がひときわ明るく輝いている。
「あの星は……、何ですか?」
 俺が首をかしげながら聞くと、
「わははは! お主も知ってる一番身近な星じゃぞ、分らんのか?」
 と、レヴィアはうれしそうに笑った。
「身近な星……? もしかして……太陽!?」
「そうじゃよ。遠すぎてもはや普通の星にしか見えんのじゃ」
「え――――っ!?」
 俺は驚いて太陽をガン見した。
 点にしか見えない星、太陽。そして、その弱い光に浮かび上がる紺碧こんぺきの美しき惑星、海王星。俺が生まれて育った地球はこのあおき星で生まれたのだ。ここが俺のふるさと……らしい。あまりピンとこないが……。
「それで、コンピューターはどこにあるんですか?」
 俺が辺りを見回すと、
「ここは宇宙港じゃ、港にサーバーなんかある訳ないじゃろ。あそこじゃ」
 そう言って海王星を指した。
「え!? ガスの星ってさっき言ってたじゃないですか、サーバーなんてどこに置くんですか?」
「ふぅ……。行けば分かる」
 レヴィアは面倒くさそうに言う。
「……。で、どうやって行くんですか?」
 俺が聞くと、レヴィアは無言で天井を指さした。
「え!?」
 俺が天井を見ると、そこにも窓があり、宇宙港の全容が見て取れた。なんと、ここは巨大な観覧車状の構造物の周辺部だったのだ。宇宙港は観覧車のようにゆっくり回転し、その遠心力を使って重力を作り出していたのだ。
 そして、中心部には宇宙船の船着き場があり、たくさんの船が停泊している。
 まるでSFの世界だった。
「うわぁ……」
 俺が天井を見ながら圧倒されていると、
「グズグズしておれん。行くぞ!」
 そう言ってレヴィアは通路を小走りに駆けだした。俺も急いでついていく。
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