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第二部 そして深淵へ 4章 引き裂かれた未来
4-6. 美の狂気
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扉が閉まってしばらくすると、全身が浮き上がるような奇妙な感覚が全身を貫いた。どこかへ転送されたようだ。
荷物受け取りの人と鉢合わせるとまずいので、俺はナイフを用意してタイミングを計る。
チーン!
と、鳴る音と同時に、俺はエレベーターの奥をナイフで切って飛び込んだ。
壁を通り抜けると、まぶしい光、爽やかな空気……目が慣れてきて辺りを見回すと、目の前には鬱蒼とした森が広がっていた。
エレベーターはまるで地下鉄の出入り口のエレベーターのように、森を切り開いた敷地の境目にポツンと出入り口だけが立っていたのだ。
そっと出入り口側の様子を見ると、豪奢な装飾が施された鉄のフェンスの向こうに見事な庭園があり、その奥に真っ黒いモダンな建物があった。あれがヌチ・ギの屋敷だろう。高さは五階建てくらいで、現代美術館かというような前衛的な造りをしており、中の様子はちょっと想像がつかない。
あの中でドロシーは俺の助けを心待ちにしてるはずだ。
「ドロシー、待ってろよ……」
ドロシーがまだ無事であること、それだけを祈りながら必死に屋敷の様子を調べる。
まず、俺は鑑定を使ってセキュリティシステムを調べてみる。門やフェンスには多彩なセキュリティ装置が多数ついており、とても超えられそうにない。さらに庭園のあちこちにも見えないセキュリティ装置が配置されており、とても屋敷に近づくのは無理そうだった。
「旦那様……、どうしますか?」
アバドンがひそひそ声で聞いてくる。
「すごい警備体制だ、とてもバレずに屋敷には入れない……」
すると屋敷から人が出てきた。見ていると、メイドらしき女性が大きな鉄製の門を開け、エレベーターまでやってきた。そして、宙に浮かぶ不思議な台車に荷物を載せ、また、屋敷内へと戻っていく。
「彼女に付いていきましょうか?」
「いや、無理だ。隠ぺい魔法はセキュリティ装置には効かないだろう」
「困りましたね……」
「仕方ない、地中を行こう」
「えっ!?」
驚くアバドンにニヤッと笑いかけると、俺はナイフで地面を切り裂いた。
「こうするんだよ」
そう言って地面の切り口を広げて中へと入った。そしてさらに奥を切り裂いて進む。
地面は壁と同様に、まるでコンニャクのように柔らかく広げることができた。
「さぁ、行くぞ!」
俺はアバドンも呼んで、一緒に地中を進んだ。一回で五十センチくらい進めるので、百回で五十メートル。無理のない挑戦だ。
アバドンに魔法の明かりで照らしてもらいながら淡々と地中を進む。途中、地下のセキュリティシステムらしいセンサーの断面を見つけたが、俺たちは空間を切り裂いているのでセンサーでは俺たちを捕捉できない。ここはヌチ・ギの想定を超えているだろう。
足場の悪い中、苦労しながら切り進んでいると急に断面が石になり、さらに切ると明かりが見えた。ようやく屋敷にたどり着いたのだ。
俺は切り口をそーっと広げながら中をのぞく……。
「な、何だこりゃ!」
俺は思わず声を出してしまった。
なんと、目の前で美しい女性たちがたくさん舞っていたのだ。
そこは地下の巨大ホールで、何百人もの女性たちが美しい衣装に身を包み、すごくゆっくりと空中を舞っていた。百人近い女性たちが輪になって、それが空中に五層展開されている。それぞれ煌びやかなドレス、大胆なランジェリー、美しい民族衣装などを身にまとい、ライトアップする魔法のライトと共に、ゆっくりと舞いながら少しずつ回っていた。また、無数の蛍の様な光の微粒子が、舞に合わせてキラキラと光りながらふわふわと飛び回り、幻想的な雰囲気を演出している。
それはまるで王朝絵巻さながらの絢爛豪華な舞踏会だった。
そして、フェロモンを含んだ甘く華やかな香りが漂ってくる。
見ているだけで幻惑され、恍惚となってしまう。
ちょうど俺たちの前に一人の美しい女性がゆっくりと近づいてきた。二十歳前後だろうか、真紅のドレスを身にまとい、露出の多いハートカットネックの胸元にはつやつやとした弾力のある白い肌が魅惑的な造形を見せている。彼女はゆっくりと右手を高く掲げながら回り、そのすらりとしたスタイルの良い肢体の作る優美な曲線に、俺は思わず息をのんだ。
そして中央には身長二十メートルくらいの巨大な美女がいた。これは一体何なのだろうか? 革製の巨大なビキニアーマーを装着してモデルのように体を美しくくねらせ、恐ろしい存在感を放っていた。軽く腹筋が浮いた美しい体の造形には思わずため息が出てしまう。
美しい……。
俺は不覚にもヌチ・ギの作り出した美の世界に引き込まれていた。イカンイカンと首を振り、銀髪の娘はいないかと一生懸命探す。
「何ですかこれ……」
アバドンが怪訝そうな顔でささやく。
「ヌチ・ギの狂気だね。ドロシーいないかちょっと探して」
「わかりやした!」
しばらく探してみたが、まだ居ないようだった。しかし放っておくとここで展示されてしまうだろう。急がないと。
ドロシーがこんな所に展示され、永遠にクルクル回り続けるようなことになったら俺は生きていけない。絶対に奪還してやると、改めて誓った。
荷物受け取りの人と鉢合わせるとまずいので、俺はナイフを用意してタイミングを計る。
チーン!
と、鳴る音と同時に、俺はエレベーターの奥をナイフで切って飛び込んだ。
壁を通り抜けると、まぶしい光、爽やかな空気……目が慣れてきて辺りを見回すと、目の前には鬱蒼とした森が広がっていた。
エレベーターはまるで地下鉄の出入り口のエレベーターのように、森を切り開いた敷地の境目にポツンと出入り口だけが立っていたのだ。
そっと出入り口側の様子を見ると、豪奢な装飾が施された鉄のフェンスの向こうに見事な庭園があり、その奥に真っ黒いモダンな建物があった。あれがヌチ・ギの屋敷だろう。高さは五階建てくらいで、現代美術館かというような前衛的な造りをしており、中の様子はちょっと想像がつかない。
あの中でドロシーは俺の助けを心待ちにしてるはずだ。
「ドロシー、待ってろよ……」
ドロシーがまだ無事であること、それだけを祈りながら必死に屋敷の様子を調べる。
まず、俺は鑑定を使ってセキュリティシステムを調べてみる。門やフェンスには多彩なセキュリティ装置が多数ついており、とても超えられそうにない。さらに庭園のあちこちにも見えないセキュリティ装置が配置されており、とても屋敷に近づくのは無理そうだった。
「旦那様……、どうしますか?」
アバドンがひそひそ声で聞いてくる。
「すごい警備体制だ、とてもバレずに屋敷には入れない……」
すると屋敷から人が出てきた。見ていると、メイドらしき女性が大きな鉄製の門を開け、エレベーターまでやってきた。そして、宙に浮かぶ不思議な台車に荷物を載せ、また、屋敷内へと戻っていく。
「彼女に付いていきましょうか?」
「いや、無理だ。隠ぺい魔法はセキュリティ装置には効かないだろう」
「困りましたね……」
「仕方ない、地中を行こう」
「えっ!?」
驚くアバドンにニヤッと笑いかけると、俺はナイフで地面を切り裂いた。
「こうするんだよ」
そう言って地面の切り口を広げて中へと入った。そしてさらに奥を切り裂いて進む。
地面は壁と同様に、まるでコンニャクのように柔らかく広げることができた。
「さぁ、行くぞ!」
俺はアバドンも呼んで、一緒に地中を進んだ。一回で五十センチくらい進めるので、百回で五十メートル。無理のない挑戦だ。
アバドンに魔法の明かりで照らしてもらいながら淡々と地中を進む。途中、地下のセキュリティシステムらしいセンサーの断面を見つけたが、俺たちは空間を切り裂いているのでセンサーでは俺たちを捕捉できない。ここはヌチ・ギの想定を超えているだろう。
足場の悪い中、苦労しながら切り進んでいると急に断面が石になり、さらに切ると明かりが見えた。ようやく屋敷にたどり着いたのだ。
俺は切り口をそーっと広げながら中をのぞく……。
「な、何だこりゃ!」
俺は思わず声を出してしまった。
なんと、目の前で美しい女性たちがたくさん舞っていたのだ。
そこは地下の巨大ホールで、何百人もの女性たちが美しい衣装に身を包み、すごくゆっくりと空中を舞っていた。百人近い女性たちが輪になって、それが空中に五層展開されている。それぞれ煌びやかなドレス、大胆なランジェリー、美しい民族衣装などを身にまとい、ライトアップする魔法のライトと共に、ゆっくりと舞いながら少しずつ回っていた。また、無数の蛍の様な光の微粒子が、舞に合わせてキラキラと光りながらふわふわと飛び回り、幻想的な雰囲気を演出している。
それはまるで王朝絵巻さながらの絢爛豪華な舞踏会だった。
そして、フェロモンを含んだ甘く華やかな香りが漂ってくる。
見ているだけで幻惑され、恍惚となってしまう。
ちょうど俺たちの前に一人の美しい女性がゆっくりと近づいてきた。二十歳前後だろうか、真紅のドレスを身にまとい、露出の多いハートカットネックの胸元にはつやつやとした弾力のある白い肌が魅惑的な造形を見せている。彼女はゆっくりと右手を高く掲げながら回り、そのすらりとしたスタイルの良い肢体の作る優美な曲線に、俺は思わず息をのんだ。
そして中央には身長二十メートルくらいの巨大な美女がいた。これは一体何なのだろうか? 革製の巨大なビキニアーマーを装着してモデルのように体を美しくくねらせ、恐ろしい存在感を放っていた。軽く腹筋が浮いた美しい体の造形には思わずため息が出てしまう。
美しい……。
俺は不覚にもヌチ・ギの作り出した美の世界に引き込まれていた。イカンイカンと首を振り、銀髪の娘はいないかと一生懸命探す。
「何ですかこれ……」
アバドンが怪訝そうな顔でささやく。
「ヌチ・ギの狂気だね。ドロシーいないかちょっと探して」
「わかりやした!」
しばらく探してみたが、まだ居ないようだった。しかし放っておくとここで展示されてしまうだろう。急がないと。
ドロシーがこんな所に展示され、永遠にクルクル回り続けるようなことになったら俺は生きていけない。絶対に奪還してやると、改めて誓った。
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