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2章 横暴なる勇者
2-11. 女の子を狙う悪魔
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さらに高度を上げていくと全貌が見えてきた。それはまごうことなき日本列島だった。
俺は呆然とした。確かに以前、移動中に富士山みたいな山があって、おかしいなと思っていたのだ。でも「火山だったら同じ形になることもあるよね」と勝手に思い込んで無視していたのだが、やっぱりあれは富士山だったのだ。
さらに高度を上げる……。すると、見えてきたのは四国、九州、そして朝鮮半島。さらに沖縄から台湾……。北には北海道から樺太があった。そう、俺が住んでいた世界は地球だったのだ。
俺は唖然として、ドサッと布団に倒れ込んだ。
気候も季節も生えている植物も日本に似すぎてるなとは思っていたのだ。しかしそれは当たり前だったのだ、同じ日本だったのだから……。
俺は頭を抱えてしまった。異世界だと思っていたら日本だった。これはどういうことだろうか? 人種も文化も文明も全く日本人とは違う人たちが日本列島に住み、魔法を使い、ダンジョンで魔物を狩っている。
この世界が仮想現実空間だとするならば、誰かが地球をコピーしてきて全く違う人種に全く違う文化・文明を発達させたということだろうが、一体何のために?
そもそも地球なんてどうやってコピーするのだろうか?
一体これはどういうことなんだ?
俺は眉間にしわを寄せ、腕を組んで必死に考えるが……皆目見当もつかなかった。
「旦那様~! ご無事ですか~?」
アバドンの声が聞こえる。
「無事だけど無事じゃない。今すごく悩んでる……。ちょっと戻るね」
俺は情けない声で応えた。
本当はこの世界を一周しようと思っていたのだが、きっと太平洋の向こうにはアメリカ大陸があってヨーロッパ大陸があってインドがあって東南アジアがあるだけだろう。これ以上の探索は意味がない。
◇
広場に着陸し、アバドンにボルトを抜いてもらった。
「宇宙どうでしたか?」
アバドンは興味津々に聞いてくるが、アバドンに日本列島の話をしても理解できないだろう。
「何もなかったよ。お前も行ってくるか?」
俺はちょっと憔悴しながら答えた。
「私は旦那様と違いますから、こんなのもち上げて宇宙まで行けませんよ」
手を振りながら顔をそむけるアバドン。
「ちょっと、疲れちゃった。コーヒーでも飲むか?」
俺は疲れた笑いを浮かべながら言った。
「ぜひぜひ! 旦那様のコーヒーは美味しいんですよ!」
嬉しいことを言ってくれるアバドンの背中をパンパンと叩き、店へと戻った。
◇
俺はコーヒーを丁寧に入れてテーブルに置き、アバドンに勧めた。
アバドンは目をつぶり、軽く首を振りながらコーヒーの香りを堪能する。
俺はコーヒーをすすりながら言った。
「ちょっと、この世界について教えて欲しいんだよね」
アバドンは濃いアイシャドウの目をこちらに向け、嬉しそうに紫色のくちびるを開いた。
「なんでもお答えしますよ! 旦那様!」
「お前、ダンジョンでアルバイトしてたろ? あれ、誰が雇い主なんだ?」
「ヌチ・ギさんです。小柄でヒョロッとして痩せた男なんですが……、彼がたまに募集のメッセージを送ってくるんです」
「その、ヌチ・ギさんが、ダンジョン作ったり魔物管理してるんだね、何者なんだろう?」
「さぁ……、何者かは私も全然わかりません」
そう言ってアバドンは首を振る。
「彼はいつからこんなことをやっていて、それは何のためなんだろう?」
「さて……私が生まれたのは二千年くらい前ですが、その頃にはすでにヌチ・ギさんはいましたよ。何のためにこんなことやってるかは……ちょっとわかりません。ちなみに私はヌチ・ギさんに作られました」
なんと、アバドンの親らしい。魔物を生み出し、管理しているのだから当たり前ではあるが、ちょっと不思議な感じがする。
「ヌチ・ギさんは何ができるのかな?」
「森羅万象何でもできますよ。時間を止めたり、新たな生き物作りだしたり、それはまさに全知全能ですよ」
なるほど、MMORPGのゲームマスターみたいなものかもしれない。この世界を構成するデータを直接いじれるからどんなことでも実現可能だし、何でも調べられる。
「俺じゃ勝てそうにないね」
「そうですね、旦那様は最強ですが、ヌチ・ギさんは次元の違う規格外の存在ですから、存在自体反則ですよ」
そう言いながら肩をすくめる。
「まぁ、神様みたいなものだと思っておけばいいかな?」
するとアバドンは、腕を組んで首をひねりながら言った。
「うーん、ヌチ・ギさんはこう言うとアレなんですが、ちょっと邪悪で俗物なんですよ」
「邪悪?」
「どうも女の子を生贄にして楽しんでるらしいんですよね」
「はぁ!? それじゃ悪魔じゃないか!」
「彼は王都の王族の守り神的なポジションに就いていてですね、軍事や疫病対策や飢饉対策を手伝って、その代わりに可愛い女の子を提供させているんです」
「……。女の子はどうなっちゃうの?」
「さぁ……屋敷に入った女の子は二度と出てこないそうです」
「それは大問題じゃないか!」
「でもヌチ・ギさんを止められる人なんていないですよ。王都の王様だっていいなりです」
俺は絶句した。この世界の闇がそんなところにあったとは。この世界はヌチ・ギと呼ばれる男が管理するMMOPRGのようなゲームの世界なのかもしれない。そして、その男は女の子を喰い物にする悪魔。でも、誰もこの状況を変えられない。何という恐ろしい世界だろうか。
この世界は仮想現実空間ということはほぼ堅そうだ。ヌチ・ギが女の子を食い物にするために作った仮想現実空間……。いや、この世界を作るコストはそれこそ天文学的で莫大だ。女の子を手にするためにできるような話じゃない。と、なると、ヌチ・ギは単に管理を任されていて、役得として女の子を食っているという話かもしれない。
とは言え、この辺は全く想像の域を出ない。何しろ情報が少なすぎる。
「ありがとう、とても参考になったよ。王都に行くのはやめておこう」
「正解だと思います。特に、ドロシーの姐さんがヌチ・ギさんの目に触れることが無いようにしてくださいね。奪われたら最悪です」
「うーん、それは怖いな……。気を付けよう」
俺はふぅぅ、と大きく息を吐きながら、この世界の理不尽さを憂えた。
うちの街では勇者が特権をかざして好き放題やってるし、王都では怪しい男が国を裏で操りながら女の子を弄んでいる。そして、それらは簡単には改善できそうにない。
この世界ではヌチ・ギがキーになっているということはわかった。なぜここが日本列島なのかも聞けば教えてくれるだろう。しかし、俺はチートで力をつけてきた存在だ。下手に近づけばチートがばれてペナルティを食らってしまう。下手したらアカウント抹消……、殺されてしまうかもしれない。とても話を聞きになんて行けない。アバドンに聞きにいかせたりしてもアウトだろう。ヌチ・ギは万能な存在だ。アバドンの記憶を調べられたりしたら最悪だ。
結局は自分で調べていくしかないようだ。
逆にこの世界の秘密が分かったら、ヌチ・ギにも対抗できるかもしれない。ヌチ・ギもバカじゃない、いつか俺の存在にも気づくだろう。その時に対抗できる手段はどうしても必要だ。
女神様に連絡がつけば解決できるのにな、と思ったが、どうやったらいいかわからない。死んだらもう一度あの先輩に似た美人さんに会えるのかもしれないが……、死ぬわけにもいかないしなぁ……。
俺はコーヒーをすすりながら、テーブルに可愛く活けられたマーガレットの花を眺めた。ドロシーが飾ったのだろう。黄色の中心部から大きく開いた真っ白な花びらは、元気で快活……まるでドロシーのようだった。
俺はドロシーのまぶしい笑顔を思い出し、目をつぶった。
俺は呆然とした。確かに以前、移動中に富士山みたいな山があって、おかしいなと思っていたのだ。でも「火山だったら同じ形になることもあるよね」と勝手に思い込んで無視していたのだが、やっぱりあれは富士山だったのだ。
さらに高度を上げる……。すると、見えてきたのは四国、九州、そして朝鮮半島。さらに沖縄から台湾……。北には北海道から樺太があった。そう、俺が住んでいた世界は地球だったのだ。
俺は唖然として、ドサッと布団に倒れ込んだ。
気候も季節も生えている植物も日本に似すぎてるなとは思っていたのだ。しかしそれは当たり前だったのだ、同じ日本だったのだから……。
俺は頭を抱えてしまった。異世界だと思っていたら日本だった。これはどういうことだろうか? 人種も文化も文明も全く日本人とは違う人たちが日本列島に住み、魔法を使い、ダンジョンで魔物を狩っている。
この世界が仮想現実空間だとするならば、誰かが地球をコピーしてきて全く違う人種に全く違う文化・文明を発達させたということだろうが、一体何のために?
そもそも地球なんてどうやってコピーするのだろうか?
一体これはどういうことなんだ?
俺は眉間にしわを寄せ、腕を組んで必死に考えるが……皆目見当もつかなかった。
「旦那様~! ご無事ですか~?」
アバドンの声が聞こえる。
「無事だけど無事じゃない。今すごく悩んでる……。ちょっと戻るね」
俺は情けない声で応えた。
本当はこの世界を一周しようと思っていたのだが、きっと太平洋の向こうにはアメリカ大陸があってヨーロッパ大陸があってインドがあって東南アジアがあるだけだろう。これ以上の探索は意味がない。
◇
広場に着陸し、アバドンにボルトを抜いてもらった。
「宇宙どうでしたか?」
アバドンは興味津々に聞いてくるが、アバドンに日本列島の話をしても理解できないだろう。
「何もなかったよ。お前も行ってくるか?」
俺はちょっと憔悴しながら答えた。
「私は旦那様と違いますから、こんなのもち上げて宇宙まで行けませんよ」
手を振りながら顔をそむけるアバドン。
「ちょっと、疲れちゃった。コーヒーでも飲むか?」
俺は疲れた笑いを浮かべながら言った。
「ぜひぜひ! 旦那様のコーヒーは美味しいんですよ!」
嬉しいことを言ってくれるアバドンの背中をパンパンと叩き、店へと戻った。
◇
俺はコーヒーを丁寧に入れてテーブルに置き、アバドンに勧めた。
アバドンは目をつぶり、軽く首を振りながらコーヒーの香りを堪能する。
俺はコーヒーをすすりながら言った。
「ちょっと、この世界について教えて欲しいんだよね」
アバドンは濃いアイシャドウの目をこちらに向け、嬉しそうに紫色のくちびるを開いた。
「なんでもお答えしますよ! 旦那様!」
「お前、ダンジョンでアルバイトしてたろ? あれ、誰が雇い主なんだ?」
「ヌチ・ギさんです。小柄でヒョロッとして痩せた男なんですが……、彼がたまに募集のメッセージを送ってくるんです」
「その、ヌチ・ギさんが、ダンジョン作ったり魔物管理してるんだね、何者なんだろう?」
「さぁ……、何者かは私も全然わかりません」
そう言ってアバドンは首を振る。
「彼はいつからこんなことをやっていて、それは何のためなんだろう?」
「さて……私が生まれたのは二千年くらい前ですが、その頃にはすでにヌチ・ギさんはいましたよ。何のためにこんなことやってるかは……ちょっとわかりません。ちなみに私はヌチ・ギさんに作られました」
なんと、アバドンの親らしい。魔物を生み出し、管理しているのだから当たり前ではあるが、ちょっと不思議な感じがする。
「ヌチ・ギさんは何ができるのかな?」
「森羅万象何でもできますよ。時間を止めたり、新たな生き物作りだしたり、それはまさに全知全能ですよ」
なるほど、MMORPGのゲームマスターみたいなものかもしれない。この世界を構成するデータを直接いじれるからどんなことでも実現可能だし、何でも調べられる。
「俺じゃ勝てそうにないね」
「そうですね、旦那様は最強ですが、ヌチ・ギさんは次元の違う規格外の存在ですから、存在自体反則ですよ」
そう言いながら肩をすくめる。
「まぁ、神様みたいなものだと思っておけばいいかな?」
するとアバドンは、腕を組んで首をひねりながら言った。
「うーん、ヌチ・ギさんはこう言うとアレなんですが、ちょっと邪悪で俗物なんですよ」
「邪悪?」
「どうも女の子を生贄にして楽しんでるらしいんですよね」
「はぁ!? それじゃ悪魔じゃないか!」
「彼は王都の王族の守り神的なポジションに就いていてですね、軍事や疫病対策や飢饉対策を手伝って、その代わりに可愛い女の子を提供させているんです」
「……。女の子はどうなっちゃうの?」
「さぁ……屋敷に入った女の子は二度と出てこないそうです」
「それは大問題じゃないか!」
「でもヌチ・ギさんを止められる人なんていないですよ。王都の王様だっていいなりです」
俺は絶句した。この世界の闇がそんなところにあったとは。この世界はヌチ・ギと呼ばれる男が管理するMMOPRGのようなゲームの世界なのかもしれない。そして、その男は女の子を喰い物にする悪魔。でも、誰もこの状況を変えられない。何という恐ろしい世界だろうか。
この世界は仮想現実空間ということはほぼ堅そうだ。ヌチ・ギが女の子を食い物にするために作った仮想現実空間……。いや、この世界を作るコストはそれこそ天文学的で莫大だ。女の子を手にするためにできるような話じゃない。と、なると、ヌチ・ギは単に管理を任されていて、役得として女の子を食っているという話かもしれない。
とは言え、この辺は全く想像の域を出ない。何しろ情報が少なすぎる。
「ありがとう、とても参考になったよ。王都に行くのはやめておこう」
「正解だと思います。特に、ドロシーの姐さんがヌチ・ギさんの目に触れることが無いようにしてくださいね。奪われたら最悪です」
「うーん、それは怖いな……。気を付けよう」
俺はふぅぅ、と大きく息を吐きながら、この世界の理不尽さを憂えた。
うちの街では勇者が特権をかざして好き放題やってるし、王都では怪しい男が国を裏で操りながら女の子を弄んでいる。そして、それらは簡単には改善できそうにない。
この世界ではヌチ・ギがキーになっているということはわかった。なぜここが日本列島なのかも聞けば教えてくれるだろう。しかし、俺はチートで力をつけてきた存在だ。下手に近づけばチートがばれてペナルティを食らってしまう。下手したらアカウント抹消……、殺されてしまうかもしれない。とても話を聞きになんて行けない。アバドンに聞きにいかせたりしてもアウトだろう。ヌチ・ギは万能な存在だ。アバドンの記憶を調べられたりしたら最悪だ。
結局は自分で調べていくしかないようだ。
逆にこの世界の秘密が分かったら、ヌチ・ギにも対抗できるかもしれない。ヌチ・ギもバカじゃない、いつか俺の存在にも気づくだろう。その時に対抗できる手段はどうしても必要だ。
女神様に連絡がつけば解決できるのにな、と思ったが、どうやったらいいかわからない。死んだらもう一度あの先輩に似た美人さんに会えるのかもしれないが……、死ぬわけにもいかないしなぁ……。
俺はコーヒーをすすりながら、テーブルに可愛く活けられたマーガレットの花を眺めた。ドロシーが飾ったのだろう。黄色の中心部から大きく開いた真っ白な花びらは、元気で快活……まるでドロシーのようだった。
俺はドロシーのまぶしい笑顔を思い出し、目をつぶった。
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