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2章 横暴なる勇者
2-8. トラウマを抱える少女
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店に戻ると鍵が開いていた。
何だろうと思ってそっと中をのぞき込むと……、カーテンも開けず暗い中、誰かが椅子に静かに座っている。
目を凝らして見ると……、ドロシーだ。
ちょっと普通じゃない。俺は心臓を締め付けられるような息苦しさを覚えた。
俺は大きく息をつくと、明るい調子で声をかけながら入っていった。
「あれ? ドロシーどうしたの? 今日はお店開けないよ」
ドロシーは俺の方をチラッと見ると、
「あ、税金の書類とか……書かないといけないから……」
そう言って立ち上がる。
「税金は急がなくていいよ。無理しないでね」
俺は元気のないドロシーの顔を見ながらいたわる。
だが、ドロシーはうつむいて黙り込んでしまった。
嫌な静けさが広がる。
「何かあった?」
俺はドロシーに近づき、中腰になってドロシーの顔を覗き込む。
ドロシーはそっと俺の袖をつかんだ。
「……。」
「何でも……、言ってごらん」
俺は優しく言う。
「怖いの……」
つぶやくようにか細い声を出すドロシー。
「え? 何が……怖い?」
「一人でいると、昨日のことがブワッて浮かぶの……」
ドロシーはそう言って、ポトッと涙をこぼした。
俺はその涙にいたたまれなくなり、優しくドロシーをハグした。
ふんわりと立ち上る甘く優しいドロシーの香り……。
「大丈夫、もう二度と怖い目になんて絶対遭わせないから」
俺はそう言ってぎゅっと抱きしめた。
「うぇぇぇぇ……」
こらえてきた感情があふれ出すドロシー。
俺は優しく銀色の髪をなでる。
さらわれて男たちに囲まれ、服を破られた。その絶望は、推し量るには余りある恐怖体験だっただろう。そう簡単に忘れられるわけなどないのだ。
俺はドロシーが泣き止むまで何度も何度も丁寧に髪をなで、また、ゆっくり背中をさすった。
「うっうっうっ……」
ドロシーの嗚咽の声が静かに暗い店内に響いた。
◇
しばらくして落ち着くと、俺はドロシーをテーブルの所に座らせて、コーヒーを入れた。
店内に香ばしいコーヒーの香りがふわっと広がる。
俺はコーヒーをドロシーに差し出しながら言った。
「ねぇ、今度海にでも行かない?」
「海?」
「そうそう、南の海にでも行って、綺麗な魚たちとたわむれながら泳ごうよ」
俺は微笑みながら優しく提案する。
「海……。私、行ったことないわ……。楽しいの?」
ドロシーはちょっと興味を示し、俺を見た。
「そりゃぁ最高だよ! 真っ白な砂浜、青く透き通った海、真っ青な空、沢山のカラフルな熱帯魚、居るだけで癒されるよ」
俺は身振り手振りでオーバーなジェスチャーをしながら頑張って説明する。
「ふぅん……」
ドロシーはコーヒーを一口すすり、クルクルと巻きながら上がってくる湯気を見ていた。
「どうやって行くの?」
ドロシーが顔をあげて聞く。
「それは任せて、ドロシーは水着だけ用意しておいて」
「水着? 何それ?」
ドロシーはキョトンとする。
そう言えば、この世界で水着は見たことがなかった。そもそも泳ぐ人など誰もいなかったのだ。
「あ、濡れても構わない服装でってこと」
「え、洗濯する時に濡らすんだから、みんな濡れても構わないわよ」
ドロシーは服の心配をしている。
「いや、そうじゃなくて……濡れると布って透けちゃうものがあるから……」
俺は真っ赤になって説明する。
「えっ……? あっ!」
ドロシーも真っ赤になった。
「ちょっと探しておいてね」
「う、うん……」
ドロシーはうつむいて照れながら答えた。
◇
海が楽しみになったのか、ドロシーはひとまず落ち着いたようだった。そして、奥の机で何やら書類を整理しはじめる。
俺は拡大鏡を取り出し、池の水を観察することにした。
窓辺の明るい所の棚の上に白い皿をおいて、池の水を一滴たらし、拡大鏡でのぞいてみる……。
「いる……」
そこにはたくさんのプランクトンがウヨウヨと動き回っていた。トゲトゲした丸い物や小船の形のもの、イカダの形をした物など、多彩な形のプランクトンがウジャウジャとしており、一つの宇宙を形作っていた。
乳酸菌がいるんだから、それより大きなプランクトンがいることは想定の範囲内である。やはり、この世界はリアルな世界と考えた方が良さそうだ。こんなプランクトンたちを全部シミュレートし続けるMMORPGなんて、どう考えてもおかしいんだから。
俺はしばらくプランクトンがにぎやかに動き回るのを眺めていた。ピョンピョンと動き回るミジンコは、なかなかユニークな動きをしていて見ていて癒される。こんなのを全部コンピューターでシミュレートする世界なんて、さすがに無理があるなと思った。
何だろうと思ってそっと中をのぞき込むと……、カーテンも開けず暗い中、誰かが椅子に静かに座っている。
目を凝らして見ると……、ドロシーだ。
ちょっと普通じゃない。俺は心臓を締め付けられるような息苦しさを覚えた。
俺は大きく息をつくと、明るい調子で声をかけながら入っていった。
「あれ? ドロシーどうしたの? 今日はお店開けないよ」
ドロシーは俺の方をチラッと見ると、
「あ、税金の書類とか……書かないといけないから……」
そう言って立ち上がる。
「税金は急がなくていいよ。無理しないでね」
俺は元気のないドロシーの顔を見ながらいたわる。
だが、ドロシーはうつむいて黙り込んでしまった。
嫌な静けさが広がる。
「何かあった?」
俺はドロシーに近づき、中腰になってドロシーの顔を覗き込む。
ドロシーはそっと俺の袖をつかんだ。
「……。」
「何でも……、言ってごらん」
俺は優しく言う。
「怖いの……」
つぶやくようにか細い声を出すドロシー。
「え? 何が……怖い?」
「一人でいると、昨日のことがブワッて浮かぶの……」
ドロシーはそう言って、ポトッと涙をこぼした。
俺はその涙にいたたまれなくなり、優しくドロシーをハグした。
ふんわりと立ち上る甘く優しいドロシーの香り……。
「大丈夫、もう二度と怖い目になんて絶対遭わせないから」
俺はそう言ってぎゅっと抱きしめた。
「うぇぇぇぇ……」
こらえてきた感情があふれ出すドロシー。
俺は優しく銀色の髪をなでる。
さらわれて男たちに囲まれ、服を破られた。その絶望は、推し量るには余りある恐怖体験だっただろう。そう簡単に忘れられるわけなどないのだ。
俺はドロシーが泣き止むまで何度も何度も丁寧に髪をなで、また、ゆっくり背中をさすった。
「うっうっうっ……」
ドロシーの嗚咽の声が静かに暗い店内に響いた。
◇
しばらくして落ち着くと、俺はドロシーをテーブルの所に座らせて、コーヒーを入れた。
店内に香ばしいコーヒーの香りがふわっと広がる。
俺はコーヒーをドロシーに差し出しながら言った。
「ねぇ、今度海にでも行かない?」
「海?」
「そうそう、南の海にでも行って、綺麗な魚たちとたわむれながら泳ごうよ」
俺は微笑みながら優しく提案する。
「海……。私、行ったことないわ……。楽しいの?」
ドロシーはちょっと興味を示し、俺を見た。
「そりゃぁ最高だよ! 真っ白な砂浜、青く透き通った海、真っ青な空、沢山のカラフルな熱帯魚、居るだけで癒されるよ」
俺は身振り手振りでオーバーなジェスチャーをしながら頑張って説明する。
「ふぅん……」
ドロシーはコーヒーを一口すすり、クルクルと巻きながら上がってくる湯気を見ていた。
「どうやって行くの?」
ドロシーが顔をあげて聞く。
「それは任せて、ドロシーは水着だけ用意しておいて」
「水着? 何それ?」
ドロシーはキョトンとする。
そう言えば、この世界で水着は見たことがなかった。そもそも泳ぐ人など誰もいなかったのだ。
「あ、濡れても構わない服装でってこと」
「え、洗濯する時に濡らすんだから、みんな濡れても構わないわよ」
ドロシーは服の心配をしている。
「いや、そうじゃなくて……濡れると布って透けちゃうものがあるから……」
俺は真っ赤になって説明する。
「えっ……? あっ!」
ドロシーも真っ赤になった。
「ちょっと探しておいてね」
「う、うん……」
ドロシーはうつむいて照れながら答えた。
◇
海が楽しみになったのか、ドロシーはひとまず落ち着いたようだった。そして、奥の机で何やら書類を整理しはじめる。
俺は拡大鏡を取り出し、池の水を観察することにした。
窓辺の明るい所の棚の上に白い皿をおいて、池の水を一滴たらし、拡大鏡でのぞいてみる……。
「いる……」
そこにはたくさんのプランクトンがウヨウヨと動き回っていた。トゲトゲした丸い物や小船の形のもの、イカダの形をした物など、多彩な形のプランクトンがウジャウジャとしており、一つの宇宙を形作っていた。
乳酸菌がいるんだから、それより大きなプランクトンがいることは想定の範囲内である。やはり、この世界はリアルな世界と考えた方が良さそうだ。こんなプランクトンたちを全部シミュレートし続けるMMORPGなんて、どう考えてもおかしいんだから。
俺はしばらくプランクトンがにぎやかに動き回るのを眺めていた。ピョンピョンと動き回るミジンコは、なかなかユニークな動きをしていて見ていて癒される。こんなのを全部コンピューターでシミュレートする世界なんて、さすがに無理があるなと思った。
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