上 下
8 / 95
第一部 チートが暴く世界 1章 楽しきチート・ライフ

1-8. 十二歳女神の福音

しおりを挟む
「これ、儲かるの?」
 ドロシーは手を動かしながら聞いてくる。
「多分儲かるし……それだけじゃなく、もっと夢みたいな世界を切り開いてくれるはずだよ」
「えー? 何それ?」
 ドロシーはちょっと茶化すように言う。
「本当さ、俺がこの世界全部を手に入れちゃうかもしれないよ?」
 俺はニヤッと笑う。
「世界全部……? 私も手に入っちゃう?」
 そう言ってドロシーは上目づかいで俺を見る。サラッと銀髪が揺れて、澄んだブラウンの瞳がキュッキュッと細かく動いた。
 十二歳とは思えない女の色香の片りんに俺はドキッとして、
「え? あ? いや、そういう意味じゃなくって……」
 と、しどろもどろになる。
「うふふ、冗談よ。男の子が破天荒な夢を語るのはいいことだわ。頑張って!」
 ニコッと笑って俺を見るドロシー。
「あ、ありがとう」
 俺は顔を赤くし、研ぐ作業に戻った。

 ドロシーは丁寧に剣のつばを磨き上げる。だいぶ綺麗になったが、なかなか取れない汚れがあって、ドロシーは何かポケットから取り出すとコシコシとこすった。
 綺麗にすると何かステータス変わらないかなと、俺は何の気なしに剣を鑑定してみる。


青龍の剣 レア度:★★★
長剣 強さ:+2、攻撃力:+30、バイタリティ:+2、防御力:+2、経験値増量


「ん!?」
 俺はステータス画面を二度見してしまう。
 『経験値増量』!?
「ちょっ! ちょっと待って!」
 俺は思わず剣を取って鑑定してみる。しかし、そうすると『経験値増量』は消えてしまった。これは一体どういうことだ……?
「ちょっと持ってみて」
 ドロシーに持たせてみる。しかし『経験値増量』は消えたまま……。一体これはどういうことだろう?
 俺が不思議がっていると、ドロシーはまた汚れをこすり始めた。すると『経験値増量』が復活した。
「ストップ!」
 俺はドロシーの手に持っているものを見せてもらった。
 それは古銭だった。そして、古銭を剣につけると『経験値増量』が追加されることが分かった。

「やった――――!!」
 俺はガッツポーズをして叫んだ。
 ポカンとするドロシー。

「ドロシー!! ありがとう!!」
 俺は感極まって思わずハグをする。
 これで経験値が減る問題はクリアだし、剣の性能を上げる可能性も開かれたのだ。
 俺は甘酸っぱい少女の香りに包まれる……。

 って、あれ? マズくないか?

 月夜の時にずっとハグしてたから、無意識に身体が動いてしまった。

「あ、ごめん……」
 俺は真っ赤になりながら、そっとドロシーから離れた。

「ちょ、ちょっと……いきなりは困るんだけど……」
 ドロシーは可愛い顔を真っ赤にしてうつむいた。

「失礼しました……」
 俺もそう言ってうつむいて照れた。
 それにしても『いきなりは困る』ということは、いきなりでなければ困らない……のかな?
 うーん……。

 日本にいた時は女の子の気持ちが分からずに失敗ばかりしていた。異世界では何とか彼女くらいは作りたいのだけれど、いぜん難問だ。もちろん十歳にはまだ早いのだが。

「と、ところで、なんでこれでこすってるの?」
 俺は話を変える。
「この古銭はね、硬すぎず柔らかすぎずなので、こういう金属の汚れを地金を傷つけずにとる時に使うのよ。生活の知恵ね」
 伏し目がちにそう答えるドロシー。
「さすがドロシー!」
「お姉さんですから」
 そう言ってドロシーは優しく微笑んだ。

 これで俺の計画は完ぺきになった。使う人も俺も嬉しい魔法のチート武器がこの瞬間完成したのだ。こんなの俺一人だったら絶対気付かなかった。ドロシーのお手柄である。ドロシーは俺の幸運の女神となった。

         ◇

 結局、研ぎ終わる頃には陽が傾いてきてしまった。ドロシーはしっかり清掃をやり遂げてくれて、孤児院の仕事へと戻っていった。

 最後に俺の血液を仕込んだ氷結石アイシクルジェムと、ドロシーからもらった古銭のかけらをつかに仕込んでできあがり。ちょっと研ぎあとがいびつだが、攻撃力は問題なさそうなのでこれを持っていく。
 また、この時、ステータスに『氷耐性:+1』が追加されているのを見つけた。なんと、氷結石アイシクルジェムを埋め込むと氷耐性が付くらしい。これは思いもしなかった効果だ。と、言うことは火耐性や水耐性なんかも上げられるに違いない。古銭だけではなく、いろんな効果を追加できるアイテムがあると言うのは予想外の福音だ。俺は儲かってきたら魔法屋でいろいろ仕入れて、この辺も研究してみようと思った。

      ◇

 剣を三本抱えて歩くこと15分、冒険者ギルドについた。石造り三階建てで、小さな看板が出ている。中から聞こえてくる冒険者たちの太い笑い声、年季の入った木製のドア、開けるのにちょっと勇気がいる。
 ギギギギーッときしむドアを開け、そっと中へ入る。

「こんにちはぁ……」

 酒とたばこの臭いにムワッと包まれた。

 見回すと、入って右側が冒険者の休憩スペース、20人くらいの厳つい冒険者たちが歓談をしている。子供がいていいようなところじゃない。まさにアウェイである。
 ビビりながらエドガーを探していると、若い女性の魔術師が声をかけてくる。
「あら坊や、どうしたの?」
 胸元の開いた色っぽい服装でニヤッとしながら俺を見る。
「エ、エドガーさんに剣を届けに来たんです」
「エドガー?」
 ちょっといぶかしそうに眉をしかめると、
「おーい、エドガー! 可愛いお客さんだよ!」
 と、振り返って言った。
 すると、奥のテーブルでエドガーが振り向く。

「お、坊主、どうしたんだ?」
 と、にっこりと笑う。
 俺はそばまで行って紅蓮虎吼ぐれんこほう剣を見せた。
「昨日のお礼にこれどうぞ。重いですけど扱いやすく切れ味抜群です。防御もしやすいと思います」
「え!? これ?」
 エドガーは紅蓮虎吼ぐれんこほう剣の大きさに面食らう。
 エドガーが使っているのは

ロングソード レア度:★
長剣 攻撃力:+9

 それに対し、紅蓮虎吼ぐれんこほう剣は圧倒的にステータスが上だがサイズもデカい。ただ、『強さ』も上がるので振り回しにくいデメリットは相殺してくれるだろう。

紅蓮虎吼ぐれんこほう剣 レア度:★★★★
大剣 強さ:+5、攻撃力:+40、バイタリティ:+5、防御力:+5、氷耐性:+1、経験値増量

 エドガーは、
「大剣なんて、俺、使ったことないんだよなぁ……」
 と、気乗りがしない様子だ。
 すると、同じテーブルの僧侶の女性が、
「裏で試し切りしてみたら? これが使いこなせるなら相当楽になりそうよ」
 そう言って丸い眼鏡を少し上げた。

 エドガーは、ジョッキをあおって、エールを飲み干すと、
「まぁやってみるか」
 そう言って俺を見て、優しく頭をなでた。

 裏のドアを開けるとそこは広場になっており、すみっこに藁でできたカカシの様なものが立っていた。これで試し斬りをするらしい。カカシは『起き上がりこぼし』のように押すとゆらゆらと揺れ、剣を叩きこんでもいなされてしまうため、剣の腕を見るのに有効らしい。
 エドガーは紅蓮虎吼ぐれんこほう剣を受け取るとビュンビュンと振り回し、
「え? なんだこれ? 凄く軽い!」
 と、驚く。
 紅蓮虎吼ぐれんこほう剣が軽い訳ではなく、ステータスの『強さ』が上がっただけなのだが、この世界の人はステータスが見えないので、そういう感想になってしまう。
「どれどれ、行きますか!」
 そう言うと、
「あまり無理すんなよー!」「また腰ひねらんようになー!」
 やじ馬が五、六人出てきて、はやしたてる。
「しっかり見とけよ!」
 やじ馬を指さしてそう言うと、エドガーは大きく深呼吸を繰り返し、カカシを見据え……、そして、目にも止まらぬ速さでバシッと紅蓮虎吼ぐれんこほう剣を打ち込んだ。

 しかし、カカシは微動だにしなかった。
「え?」
「あれ? 斬れてないぞ?」
 皆が不思議がる中、カカシはやがて斜めにズズズとずれ、真っ二つになってコテンと転がった。

「え――――!?」「ナニコレ!?」
 驚きの声が広場にこだまする。
 いまだかつて見たことのないような斬れ味に一同騒ぎまくる。
 エドガーは中堅のCランク冒険者だが、斬れ味はトップクラスのAランク以上だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星
ファンタジー
世界を救った勇者、彼はその力を危険視され、仲間に殺されてしまう。無念のうちに命を散らした男ロア、彼が目を覚ますと、なんと過去に戻っていた! もうあんなヘマはしない、そう誓ったロアは、二度目の人生を穏やかに過ごすことを決意する! とはいえ世界を救う使命からは逃れられないので、世界を救った後にひっそりと暮らすことにします。勇者としてとんでもない力を手に入れた男が、死の原因を回避するために苦心する! ロアが死に戻りしたのは、いったいなぜなのか……一度目の人生との分岐点、その先でロアは果たして、穏やかに過ごすことが出来るのだろうか? 過去へ戻った勇者の、ひっそり冒険談 小説家になろうでも連載しています!

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

mio
ファンタジー
 なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。  こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。  なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。  自分の中に眠る力とは何なのか。  その答えを知った時少女は、ある決断をする。 長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

処理中です...