自宅で寝てても経験値ゲット! ~転生商人が世界最強になってムカつく勇者をぶっ飛ばしたら世界の深淵に触れてしまった件~

月城 友麻

文字の大きさ
上 下
6 / 95
第一部 チートが暴く世界 1章 楽しきチート・ライフ

1-6. 氷結石の福音

しおりを挟む
 男性の名はエドガー。剣士をやっている35歳の冒険者だった。たまたま近くの街へ行っていて、うちのアンジューの街に戻るところだったそうだ。彼がポーションを分けてくれたおかげで、俺はすぐに傷をいやすことが出来た。
 エドガーは中堅の剣士であり、主にダンジョンの魔物を討伐して暮らしているそうだ。ステータスを見るとレベルは53、この辺りが中堅らしい。
 院長のレベルが89となっていたが、これは相当に高いレベルだということがわかる。院長は何者なのだろうか?

 俺は彼と一緒に街まで同行することにした。チートが気になって薬草採りどころじゃなくなっていたのだ。
 道中、エドガーに聞いた冒険者の暮らしはとても楽しかった。ダンジョンのボスでガーゴイルが出てきてパーティが全滅しかけ、最後やけくそで投げた剣がたまたま急所にあたって勝ったとか、スライムを馬鹿にして適当に狩ってたら崖の上から百匹くらいのスライムの群れがいきなり滝のように降ってきて、危うく全滅しかけたとか、狩りの現場の生々しい話が次々出てきて、俺は興奮しっぱなしだった。

 彼の剣も見せてもらったが、レア度は★1だし、あちこち刃こぼれがしており、『そろそろ買い替えたい』と言っていた。

 俺はさっき気が付いたチートの仮説を検証したかったので、代わりの剣を用意したいと申し出る。
 エドガーは子供からそんなものはもらえないと固辞したが、俺が商人を目指していて、その試作の剣を試して欲しいという提案をすると、それならと快諾してくれた。

        ◇

 街につくとエドガーと分かれ、俺はチートの仮説検証に必要な素材を求めに『魔法屋』へ行った。魔法屋は魔法に関するグッズを沢山扱っている店だ。
 メインストリートから少し小路に入ったところにある『魔法屋』は、小さな看板しか出ておらず、日当たりも悪く、ちょっと入るのには勇気がいる。

 ギギギ――――ッ
 ドアを開けると嫌な音できしんだ。

 奥のカウンターにはやや釣り目のおばあさんがいて本を読んでいる。そしてこちらをチラッと見て、怪訝けげんそうな顔をすると、また読書に戻った。店内には棚がいくつも並んであり、動物の骨や綺麗な石など、何に使うのだか良く分からない物が所狭しと陳列されている。昔、東南アジアのグッズを扱う雑貨屋さんでいだような、少しエキゾチックなにおいがする。
 俺はアウェイな感じに気おされながらも、意を決しておばあさんに声をかけた。

「あのー、すみません」
 おばあさんは本にしおりを挟みながら、
「坊や、何か用かい?」
 と、面倒くさそうに言った。
「水を凍らせる魔法の石とかないですか?」
氷結石アイシクルジェムのことかい?」
「その石の中に水を入れてたらずっと凍っていますか?」
「変なことをいう子だね。魔力が続く限り氷結石アイシクルジェムの周囲は凍ってるよ」
 俺は心の中でガッツポーズをした。いける、いけるぞ!
「魔力ってどれくらい持ちますか?」
「うちで売ってるのは十年は持つよ。でも一個金貨一枚だよ。坊やに買えるのかい?」
「大丈夫です!」
 そう言って俺は金貨を一枚ポケットから出した。
 おばあさんは眉をピクッと動かして、
「あら、お金持ちね……」
 そう言いながらおばあさんは立ち上がり、奥から小物ケースを出してきた。
 木製の小物ケースはマス目に小さく仕切られ、中には水色にキラキラと輝く石が並んでいる。
「どれがいいんだい?」
 おばあさんは俺をチラッと見る。
「どれも値段は一緒ですか?」
「うーん、この小さなのなら銀貨七枚でもいいよ」
「じゃぁ、これください!」
 俺が手で取ろうとすると、
「ダメダメ! 触ったら凍傷になるよ!」
 そう怒って、俺の手をつかんだ。そして手袋をつけて、慎重に丁寧に氷結石アイシクルジェムを取り出し、布でキュッキュと拭いた。すると、氷結石アイシクルジェムは濃い青色で鮮やかに輝きを放つ。
「うわぁ~!」
 俺は深い色合いのそのあおい輝きに魅せられた。
 どうやら石の表面には霜が付くので、そのままだと鈍い水色にしか見えないが、拭くと本来の輝きがよみがえるらしい。本当はこんなに青く明るく輝くものだったのだ。
 俺が興味津々で見ていると、おばあさんはニコッと笑って小さな箱に入れた。そして、
「はい、どうぞ」
 と、にこやかに俺に差し出す。
「ありがとう!」
 俺は、満面の笑みで小箱をポケットに押し込み、お金を払った。

        ◇

 俺の仮説はこうである。

 ゴブリンを倒したのは俺の血がついた槍、つまり、俺の血がついた武器で魔物を倒せば、俺がどこで何してても経験値は配分されるのだ。ただ、血が乾いてカピカピになってもこの効果があるかといえば、ないだろう。そんな効果があったらどんな武器にだって血痕は微量についている訳だからシステム的に破綻してしまうはずだ。だから、まだ生きた細胞が残っている血液が付いていることが条件になるだろう。しかし、血液なんてすぐに乾いてしまう。そこで氷結石アイシクルジェムの出番なのだ。この石を砕いてビーズみたいにして、中にごく微量、俺の血を入れて凍らせる。そしてそれを武器の中に仕込むのだ。これを冒険者のみんなに使ってもらえば俺は寝てるだけで経験値は爆上がり、世界最強の力を得られるに違いない。
 もちろん、それだけだと他人の経験値を奪うだけの泥棒なので、良くない。やはり喜ばれることをやりたい。と、なると、特殊なレア武器を提供して、すごく強くなる代わりに経験値を分けてもらうという形がいいだろう。

 俺はウキウキしながら孤児院に戻り、みんなに見つからないようにそっと倉庫のすみに作業場を確保すると、氷結石アイシクルジェムの加工作業に入った。

        ◇

 週末に、街の広場で『のみの市』が開かれた。いわゆるフリーマーケット、フリマである。街の人や、近隣の街の商人がこぞって自慢の品を並べ、売るのである。俺は今まで貯めたお金をバックに秘かに忍ばせて、朝一番に広場へと出かけた。
 広場ではすでに多くの人がシートを敷いて、倉庫で眠っていたお宝や、ハンドメイドの雑貨などを所狭しと並べていた。
 俺の目当ては武器、それも特殊効果がかかったレアものの武器である。鑑定スキルが一番役に立つシーンであるともいえる。

 端から順繰りに武器を鑑定しながら歩いて行く……

グレートソード レア度:★
大剣 攻撃力:+10

スピア レア度:★
槍 攻撃力:+8

バトルアックス レア度:★
斧 攻撃力:+12

ショートボウ レア度:★
短弓 攻撃力:+6

 どれもこれも★1だ。小一時間ほど回ったが成果はゼロ。さすがに鑑定を使い過ぎて目が回ってきた。フリマなんだから仕方ないとは思うが、なんかこうもっとワクワクさせて欲しいのに……。
 ★1の武器に氷結石アイシクルジェムを仕込んだら、使う人は損してしまう。損させることは絶対ダメだ。どうしても、レア武器で『強くなるけど経験値が減る』といったトレードオフの形にしておきたい。
 しかし……、レア武器なんて俺はまだ見たことがなかった。本当にあるのだろうか?

 俺は気の良さそうなおばちゃんから、手作りのクッキーとお茶を買うと、噴水の石垣に腰掛けて休んだ。
 見上げればどこまでも澄みとおった青い空、あちこちから聞こえてくるにぎやかな商談の声……。クッキーをかじりながら俺は、充実してる転生後の暮らしに思わずニッコリとしてしまった。暗い部屋でゲームばかりしていた、あの張りのない暮らしに比べたら、ここは天国と言えるかもしれない。
 俺は大きく息を吸い、ぽっかりと浮かぶ白い雲を見ながら、幸せだなぁと思った。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

私はただ自由に空を飛びたいだけなのに!

hennmiasako
ファンタジー
異世界の田舎の孤児院でごく普通の平民の孤児の女の子として生きていたルリエラは、5歳のときに木から落ちて頭を打ち前世の記憶を見てしまった。 ルリエラの前世の彼女は日本人で、病弱でベッドから降りて自由に動き回る事すら出来ず、ただ窓の向こうの空ばかりの見ていた。そんな彼女の願いは「自由に空を飛びたい」だった。でも、魔法も超能力も無い世界ではそんな願いは叶わず、彼女は事故で転落死した。 魔法も超能力も無い世界だけど、それに似た「理術」という不思議な能力が存在する世界。専門知識が必要だけど、前世の彼女の記憶を使って、独学で「理術」を使い、空を自由に飛ぶ夢を叶えようと人知れず努力することにしたルリエラ。 ただの個人的な趣味として空を自由に飛びたいだけなのに、なぜかいろいろと問題が発生して、なかなか自由に空を飛べない主人公が空を自由に飛ぶためにいろいろがんばるお話です。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

アストルムクロニカ-箱庭幻想譚-(挿し絵有り)

くまのこ
ファンタジー
これは、此処ではない場所と今ではない時代の御伽話。 滅びゆく世界から逃れてきた放浪者たちと、楽園に住む者たち。 二つの異なる世界が混じり合い新しい世界が生まれた。 そこで起きる、数多の国や文明の興亡と、それを眺める者たちの物語。 「彼」が目覚めたのは見知らぬ村の老夫婦の家だった。 過去の記憶を持たぬ「彼」は「フェリクス」と名付けられた。 優しい老夫婦から息子同然に可愛がられ、彼は村で平穏な生活を送っていた。 しかし、身に覚えのない罪を着せられたことを切っ掛けに村を出たフェリクスを待っていたのは、想像もしていなかった悲しみと、苦難の道だった。 自らが何者かを探るフェリクスが、信頼できる仲間と愛する人を得て、真実に辿り着くまで。 完結済み。ハッピーエンドです。 ※7話以降でサブタイトルに「◆」が付いているものは、主人公以外のキャラクター視点のエピソードです※ ※詳細なバトル描写などが出てくる可能性がある為、保険としてR-15設定しました※ ※昔から脳内で温めていた世界観を形にしてみることにしました※ ※あくまで御伽話です※ ※固有名詞や人名などは、現代日本でも分かりやすいように翻訳したものもありますので御了承ください※ ※この作品は「ノベルアッププラス」様、「カクヨム」様、「小説家になろう」様でも掲載しています※

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

処理中です...