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6.限りなくにぎやかな未来

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 大爆発を起こしながら蒸発していく地球は、ただただまぶしいだけの光にしか見えなかったが、全てのものが原子レベルにまで分解され、ただのガスと化してしまったことは疑いようもない事実だった。
「あ……あぁ……」
 シアンの張ったシールドの中でその常軌を逸した『世界の終わり』を眺め、呆然とするソフィー。
「これでヨシ! きゃははは!」
 嬉しそうに笑うと、シアンはソフィーごと東京へとワープした。

      ◇

 ソフィーが気が付くと、身体が元に戻ったシアンにお姫様抱っこされながら東京の上空を飛んでいた。見渡す限りの高層ビル、国道には多くの車が行きかい、向こうには赤い東京タワーがそびえていた。
「えっ!? ここどこ!? 地球は?」
 焦るソフィーにシアンは、
「ここが田町だよ。ありがとう、おかげで帰り方を思い出したんだ。ソフィーの地球も何とかなるよ」
 と、ニコッと笑った。
「タ、タマチ?」
 さっき見た王都の規模もすごいと思っていたが、東京はそれとは比較にならないほどの大都会だった。
 やがてシアンは高級マンションの最上階のベランダへと着地する。
「ようこそ田町へ!」
 そう言うとドアを開けてソフィーを部屋へと通した。
 恐る恐るソフィーが中に入ると、そこは外資コンサルのオフィスの様なオシャレな空間だった。ジャズが流れ、香ばしいコーヒーの匂いに思わずうっとりとしてしまう。
 奥に進むと、大きな会議テーブルで女性がコーヒーを飲みながら何か画面をいじっている。
 その顔を見てソフィーは固まった。それはどこの教会にもある女神像そっくりの女性だった。
「あら、シアン。どうしたの? ……、この娘、誰?」
 女性はチラッとソフィーを見て聞いた。
「彼女がね、助けてくれたんだよ」
 シアンはニコニコして言った。
「ふぅん、ありがとね」
 女性はニコッと笑う。
「あのぅ……、もしかして……」
 ソフィーは恐る恐る切り出した。
「あ、彼女が美奈ちゃん、君の星では女神様だね」
 シアンが説明すると、
「め、女神様!?」
 ソフィーは目を真ん丸にして固まった。
「ふーん、どれどれ……」
 美奈はニヤッと笑うと、目の前の空中に浮かんだ画面をパシパシと叩き、データを表示させる。
「えーと、ソフィーちゃんね。あー、教会で働いてるの? ありがとね……って。星がもう無くなってるじゃない!」
 美奈は怒った。
「だって、テロリストたくさんいて大変だったんだもん。きゃははは!」
 シアンは楽しそうに笑う。
 ふぅ、と美奈は大きくため息をつくと、画面をパシパシと叩く。そして、画面をじっと見つめると、
「あー、なるほど……ふむふむ。これは大漁だわ」
 と、ニヤッと笑った。
「頑張ったでしょ?」
 うれしそうに言うシアン。
「うんうん、分かったわ。星はアカシックレコードから復元しとくわ。お疲れちゃん」
 そう言って画面をパシパシと叩いた。
「復元?」
 ソフィーはシアンに聞く。
「さっき星壊しちゃったからね、昔のデータで作り直すんだ。テロリストの情報をその際に削除すればテロリストのいない星に復元できるってことだよ」
「あ、そ、そうなんですね?」
 ソフィーは何を言ってるのかさっぱり分からず、ただ相槌を打った。ただ、吹き飛んでしまった星が女神様の手で元に戻ることに安堵して胸をなでおろした。
 そして、オシャレなオフィスで画面をパシパシと叩き、眉をひそめたりしながら作業する美奈をしばらく眺めていた。
 物心ついてからずっと信奉してきた女神様が目の前で星を直している。それはまるで神話のおとぎ話のようであり、でも、教会で教えられた神秘の世界とはかけ離れていて、これをどう理解したらいいのか分からず、首をかしげた。
「あのぉ~」
 思わず声をかけてしまうソフィー。
「何?」
 画面をじっと見つめたまま答える美奈。
「女神様はそうやってうちの星を作ったんですか?」
「そうよ? あ、実態はもっと複雑よ?」
 そう言うと美奈は空中に画面を開き、海王星にある巨大なIDCに並んでいる無数のコンピューター群を映し出す。コンピューターは小屋くらいの大きさの円筒状になっており、それが見渡す限りIDCを埋め尽くしていた。
「この機械があなたの星の実態よ」
「えっ!? これがうちの星!?」
 ソフィーは巨大な金属の円筒についた無数の青いランプがチカチカと光るのを見ながら、言葉を失った。星がこんな機械で出来ていたとは全く想像を絶する事態だった。
「きょ、教会で教わった話と違うので、ビックリしました」
 ソフィーは圧倒されながら言った。
「ははっ、教会の連中は勝手に話作って、勝手に布教してるからね」
 肩をすくめる美奈。
「えっ? 教会と女神様には関係はないんですか?」
「無いわよ。別に頼んでないし、信奉してもらっても何のメリットも無いわ」
「えっ!? そうなんですか……」
 ソフィーは神父に裏切られ、司教に殺されかけたことを思い出し、教会をどう考えたらいいか分からなくなった。
「信じるものは救われる。それで救われる人がいるならいいんじゃないかしら? 私は人間たちが元気に文明文化を発展させてくれれば何でもいいのよ。そういう意味では教会にも貢献はしてもらってるかもね」
 美奈はそう言いながら涼しい顔で画面をパシパシと叩く。
「そう言うものですか……」
「ホイホイのホイ! はい、星が元に戻ったわ。じゃあおうちにお帰り」
 美奈はニコッと笑った。
 しかし、ソフィーはうつむいたまま動かない。
「僕が送ってあげるよ!」
 シアンはニコニコしてソフィーの肩を叩く。
「……、あのぉ……」
「どうしたの?」
 美奈が聞く。
「私、女神様のところで働かせてもらえませんか?」
「へ?」
「今までずっと教会で働いていたんですが、なんだかバカらしくなっちゃって、直接女神様のところで働かせていただきたいんです」
 ソフィーは手を組み、真剣な瞳で頼み込む。
 美奈はシアンと顔を見合わせ、
「あなた、コンピューターは使える……? って、あなたの星にまだコンピューターは無いか……」
 と、言って宙を仰いだ。
「何でも必死に勉強します! これでも物覚えはいい方です!」
 必死に頼み込むソフィー。
「うーん、まぁ、シアンを助けてもらったしねぇ……。じゃあ、シアン、面倒見てやんな!」
「はいはい、分かったよ!」
 シアンはうれしそうに言った。
「ありがとうございます!」
 ソフィーは深々と頭を下げる。
「そしたらね、まずは情報理論からね」
 そう言ってシアンは、教科書をドサドサッとテーブルの上に積み上げた。
「へっ!?」
「この世界は情報でできている。だから情報理論は必須なんだ。まずはこの教科書読んで情報エントロピーの計算ができるようになってね」
 そう言って教科書の一つを渡した。
 ソフィーは恐る恐るページをめくり、数式の羅列を見て目がクラクラした。
「こ、これが女神様のところのお仕事……ですか?」
「そうだね、これが終わったらpythonのコーディング覚えてもらって、その後は実技ね」
 当たり前のようにシアンは言う。
「は、はぁ……」
「大丈夫? それでもやる?」
 シアンはソフィーの顔をのぞき込む。
「だ、大丈夫です! 頑張ります!」
 ソフィーは目をギュッとつぶって叫んだ。
「ふふっ、頑張ってね」
 美奈はそう言うと、
「よーし、じゃぁ今日は新人歓迎会! 銀座で寿司よ!」
 と、立ち上がった。
「お、寿司、いいねいいね!」
 シアンもノリノリだった。
「寿司……ですか?」
 ポカンとするソフィー。
「生の魚の料理だよ」
「えっ!? 生魚!?」
「大丈夫、美味しいから。じゃ、行くよー」
 シアンはそう言うと三人を新橋上空へとワープさせた。
 夕暮れの東京は街灯がともり始め、キラキラとした夜景が地平線かなたまで続いている。
「うわぁ……」
 まるで宝石箱をひっくり返したような世界にソフィーは言葉を失い、ただ、キラキラときらめく銀髪を風に揺らしていた。
 情報エントロピーにpython、これから学ばねばならないこの世界の基本に不安を感じつつも、女神様のところで世界の根底に関われることにワクワクが止まらないソフィーだった。
 そして、ふぅと大きく息をつくと、
「ふふっ、やっちゃうぞー!」
 ソフィーはグッと両手のこぶしを握った。
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