【お天気】スキルを馬鹿にされ追放された公爵令嬢。砂漠に雨を降らし美少女メイドと甘いスローライフ~干ばつだから助けてくれって言われてももう遅い

月城 友麻

文字の大きさ
上 下
67 / 87

67. 見えてくる世界

しおりを挟む
「め、女神様に会いたいのです! 何とか会う方法はありませんか?」

 オディールはすがるように叫んだ。

「女神様にですか? うーん……。女神様の目の色は何色か……ご存じ?」

 突然の奇妙な侍祭アコライトの質問に、オディールは困惑しながらも必死に記憶を辿たどった。

「確か……黄色っぽい……あれは何色っていうのかな?」

 オディールはレヴィアに振る。

琥珀こはく色じゃな。なぜ目の色なんか聞くんじゃ?」

 レヴィアは侍祭アコライトをいぶかしげに見つめた。

「ふふっ、あなた方は女神様の縁者の方なんですね。ならご存じだと思いますが、女神様に連絡を取っても基本反応はありません。それこそ全宇宙の無数の方々が女神様にお話を聞いてもらいたがっていますからね」

 女神の事に詳しい侍祭アコライト。教皇なんかよりはるかに頼もしい存在の登場に色めき立ったオディールは、駆け寄り手を取った。

「そ、それは分かりますが、どうしてもすぐに会わないとならないんです」

「ごめんなさい、私でもそう簡単には会えないのですよ」

「いやでも、会う方法、絶対何かありますよね?」

 必死に食らいついてくるオディールに侍祭アコライトは圧倒され、苦々しい笑みを浮かべる。

「うーん、次元回廊で神殿とはつながっているので、理屈としてはそこを通るという手はありますが……。私でも危険で難しいのでとてもお勧めはできません」

 侍祭アコライトは申し訳なさそうに首を振る。

「えっ! それ! それ、やります! 教えて下さい!」

「あらら、言わなきゃよかったですね……。次元回廊はこの世の残渣ざんさの吹き溜まり。形も定まらねば、魑魅魍魎の住処にもなる混沌の世界。多分……、死にますよ?」

 侍祭は諭すようにじっとオディールを見つめた。

「神殿へ行ける可能性はゼロではないですよね?」

「それはまぁ、奇跡的に幸運が重なれば……」

 侍祭アコライトは渋い顔をして目をそらす。

「命とは誰かのために燃やすものなんです」

 オディールは侍祭アコライトの手をギュッと握りしめた。

 え?

「ただ生きるだけでは人生何の意味もありません。前世では自分はだらだらと適当に生きて、無駄に命を失いました。もう何にも残らない、それこそゴミのような人生でした……。だから今こそ、悔いなく、まっすぐに全力でこの命燃やし尽くすんです。教えて下さい!」

 オディールは決意にみなぎる目で侍祭アコライトを貫く。それは、ミラーナを救える可能性があるなら命など惜しくないという圧倒的な覚悟だった。

 う、うーん……。

 侍祭アコライトは困った顔をしながら思わず後ずさり。

「お願いします!」

 畳みかけるオディール。

 侍祭アコライトはしばらく何かを考えると、うなずき、慈愛に満ちた笑顔を見せる。

「いいでしょう、ついてきなさい」

 侍祭アコライトはすたすたと歩き始めた。

 やったぁ!

 オディールは満面の笑みでガッツポーズを見せる。

 ついに得た女神様への手がかり。首の皮一枚でつながっているような状態だったが、絶対にやり遂げて見せると、オディールはキュッと口を結んだ。


           ◇


 侍祭アコライトは月明かりが美しく照らす中庭を静かに歩く。

 足音がしないことを不思議に思ったオディールは侍祭アコライトの足元を見て驚いた。その足は地面からわずかに浮かび、歩くふりをしながら静かに空中を飛んでいたのだ。

天使エンジェルじゃな」

 レヴィアは耳元でそっとつぶやいた。

天使エンジェル?」

「女神様の部下じゃな。ワシら眷属けんぞくとは違ってお仕事をやっとるんじゃ。スキルの付与なども彼女の仕事じゃろう。こんな所におったのか」

 教皇が生臭で、末端の侍祭が実は本当の聖職者だったのだ。そんな教会の不条理な構造にオディールは疑問を感じ、肩をすくめた。


           ◇


「こちらが特異点、女神様の神殿の空間に繋がる次元回廊の入り口です」

 侍祭アコライトは精緻な彫刻に彩られた祭壇の前にある井戸を指さした。

「えっ!? この中?」

 オディールは驚いて中をのぞいてみる。

 井戸の中は底の方に聖水がたまっており、黄金色に光る微粒子がフワフワと美しく舞っていた。

「こ、この中に行けば次元回廊経由で神殿に……行ける?」

「井戸に降りるだけでは駄目です。この底で聖水に浸かりながら深層意識の中に身をゆだねるのです」

「し、深層意識……?」

 オディールはいきなり難しいことを言われて困惑した顔でレヴィアを見た。

「心であり、魂の事じゃ。瞑想めいそうしろって事じゃな」

「えっ!? 瞑想なんてやったことないよ……」

 泣きそうな顔をするオディール。

「しょうがない奴じゃな。深呼吸して心を落ち着けるだけじゃ。四秒息を吸って、六秒止めて、八秒かけて息を吐く。やってみろ」

「わ、分かったよ……」

 スゥーーーー、……、フゥーーーー。
 スゥーーーー、……、フゥーーーー。

「うまいうまい。その調子じゃ」

 しかし、オディールは次々と湧いてくる雑念に流される。

『急がないとミラーナが……』『ケンカなんかしちゃって、謝りたい……』

 オディールは懸命に頭を振って、迫りくる雑念を払いのけようと試みるものの、それでもなお次から次へと押し寄せてくる。

「ダメだ! 上手くいかないよぉ……」

 ブンブンと首を振ったオディールは、今にも泣きだしそうな顔でレヴィアに目を向けた。

「雑念湧いたら消そうとせずに『そういう考えもあるじゃろ』と、受け止めてそっと送り出してあげるんじゃ。あせらんでええぞ」

「そ、そうなんだね……」

 オディールはもう一度姿勢を正すと深呼吸をやり直す。

 スゥーーーー、……、フゥーーーー。
 スゥーーーー、……、フゥーーーー。

 やがて心地よい軽やかさに包まれ、意識が深いところへと落ちていくのを感じた。

 すると、いままで感じなかったかすかな虫の音や、風に揺れるこずえの動きなどが鮮やかに感じられるようになってくる。

 オディールは生まれて初めて世界を全身で感じ、その驚くべき豊かさに心を奪われた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

鶴と修羅〜助けられた鶴ですが、恩人の少年がトラックに轢かれて異世界へ!?え?私も行くの?〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 鶴の妖である千鶴は、ある日釣り糸に絡まっていたところを少年に助けられた。「少年に嫁げ。恩を返さなければ、天罰で死ぬ」と長老達は言う。しかし少年はトラックに轢かれて死んでしまった。絶望する千鶴。だが彼は異世界に転生していることが分かり、彼女は渋々異世界に行く。少年はケンという名の美形の農夫に生まれ変わっていた。一目惚れした千鶴は妻にしてくれと頼んだが、あっさり断られてしまった。結局、押しかけ女房となる。ケンの下には、なぜか次々と妖がやって来る。江戸時代の狐やモンゴルの白馬と千鶴は徐々に家族となっていく。ある日、ケンに召集令状が届く。千鶴に横恋慕した王子の陰謀だった。心配性で甘えん坊の鶴がチートな妖術で奮闘するお話。全30話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

処理中です...