【お天気】スキルを馬鹿にされ追放された公爵令嬢。砂漠に雨を降らし美少女メイドと甘いスローライフ~干ばつだから助けてくれって言われてももう遅い

月城 友麻

文字の大きさ
上 下
41 / 87

41. 一触即発

しおりを挟む
 見回すと花畑の続く丘陵のかなた南方に、赤く染まった煙が澄み通った青空を背景に一筋上がっている。

「あれか! 急ぐぞ!」

 ピュイッ!

 ピーリルは狼煙めがけて快調に速度を上げていった。

 南側のエリアは未だに手付かずの花畑が広がっている。川沿いに花畑の中をガタガタと、一直線にやぐらを目指す。時には何かを踏んで高くバウンドしながらもピーリルは巧みにバランスをとって健気に疾走した。

 やぐらに近づいていくと、ラクダが見えてくる。近くには男が立っていて、赤い卵型ゴーレムが横たわっていた。

 オディールは戦慄を覚える。ゴーレムは強い。そう簡単に倒せるようなしろものではないのだ。

 砂漠を数百キロ、一人でラクダに乗ってやってきてゴーレムを倒す、男の超人的な能力にオディールは眉をひそめる。敵か味方か分からないが、可愛いゴーレムを倒されてオディールは頭に血が上った。

「あの野郎! 好きにはさせないよ!」

 オディールはギュッとこぶしを握り締めた。


         ◇


 近づいていくと、男の様子が分かってきた。白いターバンを巻いて紫色のワンピースのような民族衣装を身にまとっている。

 オディールはピーリルを止めると飛び降り、叫んだ。

「何者だ! ここはセント・フローレスティーナ。危害を加える者は容赦しないよ!」

 可愛い少女の登場に男は少し意外そうな表情を見せたが、すぐにニッコリと笑いながら胸に手を当てる。

「自分はローレンス。アバロン商会の者だ。良ければ交易をしたいと思ってはるばる砂漠を渡ってきた」

 ヘーゼル色の瞳に丁寧に整えられたひげ、アラサーぐらいだろうか、かなりのイケメンに見えた。

「交易? ならなぜ、ゴーレムを倒した?」

「あ、コイツが妨害して全く進めなくなったんでね。ちょっと寝てもらっただけだよ」

 ローレンスは魔晶石をポケットから取り出すとオディールに放り投げた。ゴーレムのポケットから魔晶石を抜き取ったのだろう。オディールは顔を歪め、簡単に取り出せるようにしておいた自分の甘さを後悔しながら魔晶石をキャッチした。

「交易は君たちにとってもメリットになるだろう。領主さんにつないでほしい」

「領主? ……。僕がその領主だと言ったら?」

 オディールはニヤッと笑った。

「はっはっは。お嬢ちゃん、これは遊びじゃないんだよ。この川の水は聖水だろ? こんな贅沢な豊かな街との交易はうちにとっては一大事業。領主さんとしっかりと話をしたいんだ」

「僕の言葉を信じられないなら帰んな」

 オディールは手で追い払うしぐさをした。

 ローレンスはピクッとほほを動かし、威勢のいいこの少女をどう扱ったものかとキュッと口を結んだ。

 にらみあう両者。

 びゅうと花畑を渡る風がローレンスの民族衣装をバタつかせる。

「ここまで砂漠を三日、どれだけ大変だったか……。そう簡単に帰れると思う?」

 ローレンスは低い声で威嚇し、懐から魔法銃のような物を出すと、銃口をオディールに向けた。

 すかさずピーリルは前に出て両手を開きオディールをかばう。

「何? 僕と勝負すんの?」

 オディールは両手を高く掲げ、ブツブツと祭詞をつぶやく。

 いきなり空にもこもこと暗雲がたちこめ、ゴロゴロと雷鳴が辺りに響きわたった。

「ふふっ、黒焦げにしてあげようか?」

 オディールは楽しそうに笑う。

「な、なんだ……?」

 ローレンスは空を見上げ、混乱した。

 暗雲を操り、いかずちを武器とする金髪碧眼の可愛らしい華奢な少女。その、見たことも聞いたこともないスキルに圧倒され、後ずさりする。

 これが天候を操るスキルだとしたら砂漠に大量の水があることも説明がつく。だとしたら彼女が本当に領主なのかもしれないと、ローレンスは思いなおした。

「あ、あなたが本当に領主だとしたら……、拉致して洗脳すれば全ての利権はわが手になる……わけだが……」

 ローレンスは冷汗を浮かべながら、銃の安全装置をカチャッと外した。

「ふぅん、やってみる? でも、僕に手を出して生きて帰れるかなぁ……?」

 バサッバサッ、と巨大な翼のはばたく音が近づいてくる。

 ローレンスは空を見上げ、おののいた。そこには黄金の光をまとった漆黒の巨体、伝説のドラゴンがこちらめがけものすごい速度で迫ってきていたのだ。

 お、おぉ……。

 ローレンスのほほに冷汗が伝う。

 ドラゴンはギュァァァァ! という腹に響く重低音の咆哮を放つと急降下し、ズン! と地震のように地面を揺らしながらオディールの隣に降り立つ。その巨大な真紅の瞳はローレンスを射貫くように赤く輝いた。

「どう? まだやるの?」

 オディールは腕を組み、ドヤ顔で真っ青になっているローレンスを見る。

 ローレンスは引き金を引いたが、ポン! と銃口から出てきたのは小さな花束だった。

「これはこれは龍を従える偉大なる領主様、大変に失礼をいたしました」

 ローレンスはひざまずき、花束をうやうやしくオディールに捧げる。

「うんうん、分かればいいんだ。アバロン商会、名前は聞いたことあるよ。君は二代目?」

「はい、父が会長、自分は新規開拓担当をしております。なにとぞこのご縁を大切にさせてください」

「砂漠越えてくるの大変だったでしょ? もてなしてやるからおいで」

 オディールは右手をすっと差し出す。

「もったいなきお言葉、光栄です。ぶしつけな訪問にもかかわらず、情け深きご配慮に深く感謝申し上げます」

 ローレンスはオディールの手を取ると、手の甲に軽く口づけをした。

「そんな格式張らなくていいよ。まだ何もない小さな街だからね、ろくなおもてなしもできないけどゆっくりしてって」

 オディールはローレンスの手を取り、立ち上がらせるとにっこりと笑った。

「ありがたきお言葉感謝します」

 ローレンスは胸に手を当てて嬉しそうに微笑む。

 その時、ザバッザバッと派手に水しぶきをたてる音が川の上流から近づいてきた。

「オディールさーん!」

 見ると、トニオが消防団の若者たちを乗せて船を飛ばしてやって来る。

「あぁ、心配かけちゃったな」

 オディールはトニオの必死な姿に申し訳なさそうに微笑むと、千切れんばかりに大きく手を振った。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

処理中です...