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35. 命を潤す恵み
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ガラーン、ガラーン!
セントラルの屋上にある鐘楼からの大きな響きが、朝の爽やかなセント・フローレスティーナを優しく包み込む。
「さぁみんな、今日は収穫だよーー!」
オディールはセントラルのステージに立ってみんなに手を振る。
ぞろぞろと出てきた住民たちはステージのオディールを見下ろすと、パチパチパチと拍手で応え、手を振り、口笛を鳴らした。
今日は初めての収穫、初の住民総出の共同作業である。
「そしたらみんなでレッツゴー!」
オディールは期待と不安が織り混じる中、右腕を突き上げ、ピョンと跳んだ。
◇
広大な麦畑では豊かに熟した黄金色の穂がさわやかな朝の風にそよぎ、ウェーブを作っている。
麦畑ではすでに今日の主役、ヴォルフラムが精神統一をして手順を確認していた。彼の風魔法を使って麦の穂を集めてくるのだ。責任重大である。
「そんな緊張しなくたっていいって!」
オディールはヴォルフラムの背中をパンパンと叩いた。
「いやでも、穂だけをうまく切り落として巻き上げる……、ちょっと難易度高すぎですよ……」
「大丈夫、大丈夫! 練習通りにやればいいからさ」
「そうよ、上手くやろうなんて思わずに、淡々とやればいいわ。お茶でも飲んで」
ミラーナもニッコリとほほ笑みながらマグカップを手渡した。
◇
空き地にむしろを敷き詰め、準備が整うといよいよ収穫である。
ヴォルフラムは大きく息をつき、魔法手袋を装着すると両手を麦畑へと伸ばし、真剣な表情でイメージを固めていく。
千人の視線がヴォルフラムに集まり、辺りは緊張感に満ちた沈黙に覆われた。
「子リス頑張るっすよー!」
トニオは空気を読まず腕を突き上げ叫ぶ。
すかさず、パシーン! とファニタがすかさずトニオの頭をはたいた。
「何言うとるんよ! 静かにしときんさい!」
まるで漫才のような息の合った突っ込みに、ドッと笑いが起こり、辺りを包む。
トニオは頭をさすりながら、ファニタをジト目でにらんだ。
一旦集中が途切れてしまったヴォルフラムだったが、おかげで余計な力も抜け、ニコッと笑うと自然体で風刃の呪文を唱えていく。オディールはそれに合わせてヴォルフラムの背に手を当て、魔力を一気に注ぎ込んだ。
一瞬二人は閃光を放ち、直後、緑色のまぶしい輝きを放ちながら、巨大な空気の刃が黄金の麦畑を軽やかに飛んでいく。
間髪入れずに放たれる竜巻。風刃で一旦宙に舞い上がった麦の穂を竜巻が追いかけながら回収していくのだ。
たわわに実った黄金色の麦の穂は竜巻の中にぐんぐんと吸い込まれ、天高く巻き上げられていった。
およそ百メートル範囲の麦の穂はこうして全て宙に舞い、やがてむしろのあたりに降り注ぐ。
まるで豪雨のように降り注ぐ大量の麦の穂。セント・フローレスティーナにもたらされた豊穣の恵みが今、黄金色の雨になって山のように積み上がっていく。
住民たちはその幻想的な光景に思わず息をのみ、あるものは涙ぐみながら手を合わせる。
最後の穂がパサっと麦の山に落ちた時、万雷の拍手が麦畑に響き渡った。
麦さえあれば飢えなくて済む。干ばつに苦しんでいた農民たちにとって、それは命を潤す恵みだった。
「ブラボー!」
ファニタは肩で息をしているヴォルフラムに駆け寄ると、ムキムキの腕に抱き着いた。
「あんたやるなぁ、何? 今の魔法。あんな盛大な魔法、うち見たことないって!」
いきなり抱き着かれたヴォルフラムは焦って、真っ赤になってしまう。
「あ、こ、これは姐さんの力で……」
「何言うとんの? こんな難しい技を一発で決めるなんてそうはできんよ」
「そうだよ、ヴォルはもっと胸張って!」
オディールはウブなヴォルフラムの様子に吹きだしそうになるのをこらえながら、背中をパンパンと叩いた。
トニオはジト目で口をとがらせる。
「何だよ、俺のこと褒めてくれたことなんて一度も無いってのに……」
「あらそう? じゃあ次、活躍したら褒めてあげるよ」
ファニタはニヤッと笑い、トニオの肩を叩いた。
「やった! 俺にもちゃんとしがみついてよ?」
トニオは嬉しそうに腕をまくり、力こぶを見せる。
しかし、ファニタはフンっと鼻で笑う。
「ちょっとこれ見ちゃうとねぇ……」
ヴォルフラムの異常に発達したムキムキの筋肉を、ファニタはトロンとした目でなでる。
「え? いや、ちょっと……」
女の顔になったファニタに焦るヴォルフラム。純朴な田舎青年は女性に迫られることに慣れていないのだ。
「くぅぅぅ、子リス! 覚えてろぉ! 俺もムキムキになってやっからよ!」
二人のやり取りに耐えられなくなったトニオは、ヴォルフラムをビシッと指さしながら、涙目で駆けていった。
◇
ガスパルは竿をみんなに配っていく。
「はい、みんなーー! 竿持って叩いてよー!」
集まった麦の穂は竿でバシバシと叩いて脱穀する。叩くことで穂から実が落ちるのだ。
キャハハッ!
子供たちも大人をまね、子供用の短い竿で叩いていく。叩くたびに穂からバラバラッと実が飛び散り、みんな楽しそうに作業を進めていった。
この一粒一粒が命をつなぐ貴重な食料である。砂漠のど真ん中で得られた初めての収穫物に感謝しながら、みんな無心に叩き続けた。
セントラルの屋上にある鐘楼からの大きな響きが、朝の爽やかなセント・フローレスティーナを優しく包み込む。
「さぁみんな、今日は収穫だよーー!」
オディールはセントラルのステージに立ってみんなに手を振る。
ぞろぞろと出てきた住民たちはステージのオディールを見下ろすと、パチパチパチと拍手で応え、手を振り、口笛を鳴らした。
今日は初めての収穫、初の住民総出の共同作業である。
「そしたらみんなでレッツゴー!」
オディールは期待と不安が織り混じる中、右腕を突き上げ、ピョンと跳んだ。
◇
広大な麦畑では豊かに熟した黄金色の穂がさわやかな朝の風にそよぎ、ウェーブを作っている。
麦畑ではすでに今日の主役、ヴォルフラムが精神統一をして手順を確認していた。彼の風魔法を使って麦の穂を集めてくるのだ。責任重大である。
「そんな緊張しなくたっていいって!」
オディールはヴォルフラムの背中をパンパンと叩いた。
「いやでも、穂だけをうまく切り落として巻き上げる……、ちょっと難易度高すぎですよ……」
「大丈夫、大丈夫! 練習通りにやればいいからさ」
「そうよ、上手くやろうなんて思わずに、淡々とやればいいわ。お茶でも飲んで」
ミラーナもニッコリとほほ笑みながらマグカップを手渡した。
◇
空き地にむしろを敷き詰め、準備が整うといよいよ収穫である。
ヴォルフラムは大きく息をつき、魔法手袋を装着すると両手を麦畑へと伸ばし、真剣な表情でイメージを固めていく。
千人の視線がヴォルフラムに集まり、辺りは緊張感に満ちた沈黙に覆われた。
「子リス頑張るっすよー!」
トニオは空気を読まず腕を突き上げ叫ぶ。
すかさず、パシーン! とファニタがすかさずトニオの頭をはたいた。
「何言うとるんよ! 静かにしときんさい!」
まるで漫才のような息の合った突っ込みに、ドッと笑いが起こり、辺りを包む。
トニオは頭をさすりながら、ファニタをジト目でにらんだ。
一旦集中が途切れてしまったヴォルフラムだったが、おかげで余計な力も抜け、ニコッと笑うと自然体で風刃の呪文を唱えていく。オディールはそれに合わせてヴォルフラムの背に手を当て、魔力を一気に注ぎ込んだ。
一瞬二人は閃光を放ち、直後、緑色のまぶしい輝きを放ちながら、巨大な空気の刃が黄金の麦畑を軽やかに飛んでいく。
間髪入れずに放たれる竜巻。風刃で一旦宙に舞い上がった麦の穂を竜巻が追いかけながら回収していくのだ。
たわわに実った黄金色の麦の穂は竜巻の中にぐんぐんと吸い込まれ、天高く巻き上げられていった。
およそ百メートル範囲の麦の穂はこうして全て宙に舞い、やがてむしろのあたりに降り注ぐ。
まるで豪雨のように降り注ぐ大量の麦の穂。セント・フローレスティーナにもたらされた豊穣の恵みが今、黄金色の雨になって山のように積み上がっていく。
住民たちはその幻想的な光景に思わず息をのみ、あるものは涙ぐみながら手を合わせる。
最後の穂がパサっと麦の山に落ちた時、万雷の拍手が麦畑に響き渡った。
麦さえあれば飢えなくて済む。干ばつに苦しんでいた農民たちにとって、それは命を潤す恵みだった。
「ブラボー!」
ファニタは肩で息をしているヴォルフラムに駆け寄ると、ムキムキの腕に抱き着いた。
「あんたやるなぁ、何? 今の魔法。あんな盛大な魔法、うち見たことないって!」
いきなり抱き着かれたヴォルフラムは焦って、真っ赤になってしまう。
「あ、こ、これは姐さんの力で……」
「何言うとんの? こんな難しい技を一発で決めるなんてそうはできんよ」
「そうだよ、ヴォルはもっと胸張って!」
オディールはウブなヴォルフラムの様子に吹きだしそうになるのをこらえながら、背中をパンパンと叩いた。
トニオはジト目で口をとがらせる。
「何だよ、俺のこと褒めてくれたことなんて一度も無いってのに……」
「あらそう? じゃあ次、活躍したら褒めてあげるよ」
ファニタはニヤッと笑い、トニオの肩を叩いた。
「やった! 俺にもちゃんとしがみついてよ?」
トニオは嬉しそうに腕をまくり、力こぶを見せる。
しかし、ファニタはフンっと鼻で笑う。
「ちょっとこれ見ちゃうとねぇ……」
ヴォルフラムの異常に発達したムキムキの筋肉を、ファニタはトロンとした目でなでる。
「え? いや、ちょっと……」
女の顔になったファニタに焦るヴォルフラム。純朴な田舎青年は女性に迫られることに慣れていないのだ。
「くぅぅぅ、子リス! 覚えてろぉ! 俺もムキムキになってやっからよ!」
二人のやり取りに耐えられなくなったトニオは、ヴォルフラムをビシッと指さしながら、涙目で駆けていった。
◇
ガスパルは竿をみんなに配っていく。
「はい、みんなーー! 竿持って叩いてよー!」
集まった麦の穂は竿でバシバシと叩いて脱穀する。叩くことで穂から実が落ちるのだ。
キャハハッ!
子供たちも大人をまね、子供用の短い竿で叩いていく。叩くたびに穂からバラバラッと実が飛び散り、みんな楽しそうに作業を進めていった。
この一粒一粒が命をつなぐ貴重な食料である。砂漠のど真ん中で得られた初めての収穫物に感謝しながら、みんな無心に叩き続けた。
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