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167. 根源的な恐怖

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 神殿の薄暗うすぐらい空間――――。

 荘厳そうごんな大理石の柱が並ぶ中、ドロシーの悲鳴が響き渡った。

「やめてぇ! こないでぇ!」

 ヌチ・ギに追い詰められたドロシーの影が純白の大理石の壁で震えている。

「いいね、その表情……そそるな……」

 ヌチ・ギの声にはゆがんだ愉悦ゆえつが滲む。もはや人としての理性が完全に失われていた。

 レーザー発振器を胸ポケットに入れると、目にも止まらぬ速さでドロシーの手をつかんだ。その動きには、人間離れした異質いしつさが感じられる。

「なにするのよぉ!」

 ドロシーは身をよじるがヌチ・ギの力は強烈でビクともしなかった。まるで蜘蛛の巣に囚われた蝶のようにはかない。

 ヌチ・ギは邪悪な笑みを浮かべながら、ドロシーの両手首を片手で軽々と持ち上げた。

「そう言えば……、お前をまだ味わってなかったな……」

 ヌチ・ギはドロシーのワンピースを一気にビリビリと破く。布が裂ける高い音が、神殿に不吉な反響はんきょうを残す。その音は、彼女の心が引き裂かれる音のようでもあった。

「いやぁぁぁ!」

 あらわになる白い肌。ドロシーの悲鳴が響き渡った。

「ほう……。実に……、いい肌だ……」

 ヌチ・ギはしっとりと柔らかな肌に指先を滑らせる――――。

「ダメーーーー! やめてぇ!」

 ドロシーは顔を歪ませながら悲痛な叫びを上げる。その瞳には、恐怖と絶望の色が満ちていた。

「うん、いいね……。その表情……、実に美しい……」

 ヌチ・ギはいやらしい笑みを浮かべ、ドロシーをテーブルまで引きずるとテーブルの上に転がした。まさに底なしの残虐性ざんぎゃくせいの発露である。

「いたぁい!」

 大理石のテーブルに叩きつけられ、ドロシーは悲鳴ひめいを上げる。

「さて、ちょっと大人しくしてもらおうか」

 ヌチ・ギは指先を紫色に輝かせると、ドロシーの眉間をトンと突く。その指先には、邪悪な魔力が宿やどっていた――――。

「うっ!」

 ドロシーはうめくと、手足をだらんとさせた。何らかの麻酔効果で手足の自由を奪われてしまったのだ。

「さて、どんな声で鳴くのかな……」

 嫌らしく目を光らせながらヌチ・ギはズボンのチャックを下ろす――――。

 その瞳には、ただけもののような欲望よくぼうだけが渦巻いていた。

「やめてぇ……、あなたぁ……」

 ドロシーは転がったポッドを見つめ、か細い声でつぶやきながら涙をこぼす。その透明とうめいな涙が、ポトリポトリと落ちてテーブルの上で小さな水たまりを作った。

 ヌチ・ギはドロシーの両足を持ち、ググっと広げる。

「クフフフ、気持ち良くさせてやるぞ、お前も楽し――――」

 その時だった――――。

 なんと、ヌチ・ギがフッと消えたのだ。

 まるで幻のように、その存在が完全に霧散むさんしてしまった。一瞬前まであった邪悪じゃあくな気配が、嘘のように消え去ったのだ。

 え……?

 ドロシーには一体何が起こったのか分からなかった。絶体絶命のピンチに訪れた奇跡――――。

 動揺と安堵が入り混じった感情が、彼女の心を満たしていく。

 きっとユータたちが守ってくれたのだろう。

 その確信が、彼女の心に温かな光を灯す。彼女の中で、ユータへの信頼と愛情が深く輝いた。

 だが――――。

 事態は思いもよらなかった方向へと進んでいく。

 カン、カン……。

 巨大化レーザー発振器が落ち、チカチカと光りながら転がって行った――――。

 その音が神殿に不気味な余韻よいんを残す。

 一瞬の静寂の後、何かが動く気配――――。

 転がった先に動く影……、それは全く予想外のものだった。

 ドロシーの背筋せすじを、得体の知れない戦慄せんりつが走る。まるで運命そのものが、新たな試練を用意したかのように。

 神殿の暗闇が、新たな脅威をはらんでいた。

 薄暗がりの中で、何かが蠢き始める。それは、ヌチ・ギとはまた違う、より根源的な恐怖を漂わせていた。

 ドロシーの安堵の表情が、再び恐怖に歪んだ――――。

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