152 / 190
152. 新たな謎
しおりを挟む
「試しに繋いでみるってのは?」
俺は沈黙に耐えられず、口を開いた。
「繋ぎ間違えたら壊れてしまうんじゃぞ? お主、それでも試すか?」
ドスの効いたレヴィアの声に、俺はブルっと身を震わせる。
「いやっ……、そ、それは……」
間違えたら死亡確定なロシアンルーレットなど到底引けない。
「カーーーーッ! 電源さえ戻れば光る物はあるんじゃがなぁ!!」
レヴィアがバン! と操作パネルを叩いた。
「魔法……とかは?」
「海王星で魔法使えるなんてヴィーナ様くらいじゃ」
「そうだ! ヴィーナ様呼びますか?」
「……。なんて説明するんじゃ……? 『シャトル盗んで再起不能になりました』って言うのか? それこそ星ごと抹殺されるわい!」
恐ろし気に首を振るレヴィア。金髪が暗闇で揺れた気配がする。
「いやいや、ヴィーナ様は殺したりしませんよ」
「あー、あのな。お主が会ってたのは地球のヴィーナ様。我が言ってるのは金星のヴィーナ様じゃ」
「え? 別人ですか?」
「別じゃないんじゃが、同一人物でもないんじゃ……」
レヴィアの説明は全くもって意味不明だった。そもそも金星とはなんだろうか? 混沌とした疑問が渦巻く。
その時だった。
コォォーーーー。
何やら船体前方から音がし始めた。僅かに振動も伝わってくる。
「マズい……。大気圏突入が始まった……」
後ろからはスカイパトロール、前には大気圏、まさに絶体絶命である。命運を分ける時が近づいていた。
「ど、どうするんですか!?」
心臓がドクドクと速く打ち、冷や汗がにじんでくる。脈拍が耳朶を震わせる。
「なるようにしかならん。必ず時は来る……」
レヴィアは覚悟を決めたようにケーブルを持つと、静かに明るくなる瞬間を待った。長年生きてきた龍の威厳が戻ってきたように感じる。
確かに大気圏突入時には火の玉のようになる訳だから、その時になれば船内は明るくなるだろうが……それでは手遅れなのではないだろうか? だが、もはやこうなっては他に打つ手などなかった。二人の、我が星の幸運を信じるしかない。
徐々に大気との摩擦音が強くなっていく。船体を震わすガタガタという音が、次第に激しさを増す。
重苦しい沈黙の時間が続いた。漆黒の闇の中で、二人の祈りが交差する――――。
◇
いきなり船内が真っ赤に輝いた。紅蓮の光が漆黒の闇をいきなり引き裂く。
「うわっ!」
恐る恐る目を開けると目の前に『STOP』という赤いホログラムが大きく展開されていた。威圧的な文字が、宇宙空間に浮遊する。
「よっしゃー!」
レヴィアは嬉々としてケーブルに工具を当て、作業を開始する。その手捌きには数千年の経験が滲んでいた。
「見えさえすればチョチョイのチョイじゃ!」
軽口を叩きながら手早くケーブルを修復していくレヴィア。
その時だった――――。
パン! パン!
威嚇射撃弾がシャトルの周辺で次々とはじけた。閃光が|船体を包む。ついに実力行使が始まってしまった。
「ひぃぃぃぃ! レヴィア様ぁ!」
俺は真っ赤に輝く船内で間抜けな声を出す。この極限状況で、声が裏返ってしまう。
『くふふふ。頑張れ頑張れ』
急に若い女性の声が頭に響いた。優美で楽し気な声が、まるで風のように心の中を通り抜ける――――。
へ……?
俺は急いで辺りを見回してみるが、誰もいない。血の気が引く思いで、船室の隅々まで目を凝らす。
「だ、誰……?」
俺はキツネにつままれたように呆然としてしまう。
その悪戯っぽい声の主は、この危機的状況を楽しんでいるかのようだった。
赤い光の中で、見えない存在の気配が漂う。命懸けの逃走劇に、新たな謎が加わった瞬間だった。
俺は沈黙に耐えられず、口を開いた。
「繋ぎ間違えたら壊れてしまうんじゃぞ? お主、それでも試すか?」
ドスの効いたレヴィアの声に、俺はブルっと身を震わせる。
「いやっ……、そ、それは……」
間違えたら死亡確定なロシアンルーレットなど到底引けない。
「カーーーーッ! 電源さえ戻れば光る物はあるんじゃがなぁ!!」
レヴィアがバン! と操作パネルを叩いた。
「魔法……とかは?」
「海王星で魔法使えるなんてヴィーナ様くらいじゃ」
「そうだ! ヴィーナ様呼びますか?」
「……。なんて説明するんじゃ……? 『シャトル盗んで再起不能になりました』って言うのか? それこそ星ごと抹殺されるわい!」
恐ろし気に首を振るレヴィア。金髪が暗闇で揺れた気配がする。
「いやいや、ヴィーナ様は殺したりしませんよ」
「あー、あのな。お主が会ってたのは地球のヴィーナ様。我が言ってるのは金星のヴィーナ様じゃ」
「え? 別人ですか?」
「別じゃないんじゃが、同一人物でもないんじゃ……」
レヴィアの説明は全くもって意味不明だった。そもそも金星とはなんだろうか? 混沌とした疑問が渦巻く。
その時だった。
コォォーーーー。
何やら船体前方から音がし始めた。僅かに振動も伝わってくる。
「マズい……。大気圏突入が始まった……」
後ろからはスカイパトロール、前には大気圏、まさに絶体絶命である。命運を分ける時が近づいていた。
「ど、どうするんですか!?」
心臓がドクドクと速く打ち、冷や汗がにじんでくる。脈拍が耳朶を震わせる。
「なるようにしかならん。必ず時は来る……」
レヴィアは覚悟を決めたようにケーブルを持つと、静かに明るくなる瞬間を待った。長年生きてきた龍の威厳が戻ってきたように感じる。
確かに大気圏突入時には火の玉のようになる訳だから、その時になれば船内は明るくなるだろうが……それでは手遅れなのではないだろうか? だが、もはやこうなっては他に打つ手などなかった。二人の、我が星の幸運を信じるしかない。
徐々に大気との摩擦音が強くなっていく。船体を震わすガタガタという音が、次第に激しさを増す。
重苦しい沈黙の時間が続いた。漆黒の闇の中で、二人の祈りが交差する――――。
◇
いきなり船内が真っ赤に輝いた。紅蓮の光が漆黒の闇をいきなり引き裂く。
「うわっ!」
恐る恐る目を開けると目の前に『STOP』という赤いホログラムが大きく展開されていた。威圧的な文字が、宇宙空間に浮遊する。
「よっしゃー!」
レヴィアは嬉々としてケーブルに工具を当て、作業を開始する。その手捌きには数千年の経験が滲んでいた。
「見えさえすればチョチョイのチョイじゃ!」
軽口を叩きながら手早くケーブルを修復していくレヴィア。
その時だった――――。
パン! パン!
威嚇射撃弾がシャトルの周辺で次々とはじけた。閃光が|船体を包む。ついに実力行使が始まってしまった。
「ひぃぃぃぃ! レヴィア様ぁ!」
俺は真っ赤に輝く船内で間抜けな声を出す。この極限状況で、声が裏返ってしまう。
『くふふふ。頑張れ頑張れ』
急に若い女性の声が頭に響いた。優美で楽し気な声が、まるで風のように心の中を通り抜ける――――。
へ……?
俺は急いで辺りを見回してみるが、誰もいない。血の気が引く思いで、船室の隅々まで目を凝らす。
「だ、誰……?」
俺はキツネにつままれたように呆然としてしまう。
その悪戯っぽい声の主は、この危機的状況を楽しんでいるかのようだった。
赤い光の中で、見えない存在の気配が漂う。命懸けの逃走劇に、新たな謎が加わった瞬間だった。
1
お気に入りに追加
331
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

不遇にも若くして病死した少年、転生先で英雄に
リョウ
ファンタジー
辺境貴族の次男レイ=イスラ=エルディア。 実は、病で一度死を経験した転生者だった。 思わぬ偶然によって導かれた転生先…。 転生した際に交わした約束を果たす為、15歳で家を出て旅に出る。 転生する際に与えられたチート能力を駆使して、彼は何を為して行くのか。 魔物あり、戦争あり、恋愛有りの異世界冒険英雄譚がここに幕を開ける!
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!


器用貧乏の底辺冒険者~俺だけ使える『ステータスボード』で最強になる!~
夢・風魔
ファンタジー
*タイトル少し変更しました。
全ての能力が平均的で、これと言って突出したところもない主人公。
適正職も見つからず、未だに見習いから職業を決められずにいる。
パーティーでは荷物持ち兼、交代要員。
全ての見習い職業の「初期スキル」を使えるがそれだけ。
ある日、新しく発見されたダンジョンにパーティーメンバーと潜るとモンスターハウスに遭遇してパーティー決壊の危機に。
パーティーリーダーの裏切りによって囮にされたロイドは、仲間たちにも見捨てられひとりダンジョン内を必死に逃げ惑う。
突然地面が陥没し、そこでロイドは『ステータスボード』を手に入れた。
ロイドのステータスはオール25。
彼にはユニークスキルが備わっていた。
ステータスが強制的に平均化される、ユニークスキルが……。
ステータスボードを手に入れてからロイドの人生は一変する。
LVUPで付与されるポイントを使ってステータスUP、スキル獲得。
不器用大富豪と蔑まれてきたロイドは、ひとりで前衛後衛支援の全てをこなす
最強の冒険者として称えられるようになる・・・かも?
【過度なざまぁはありませんが、結果的にはそうなる・・みたいな?】
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる