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151. 忘れてしもうた
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フロントガラスの向こうに何かが漂っているのが見えた。小さな白い箱でLEDみたいなインジケーターがキラキラと光っている。宇宙空間に浮遊する孤独な光――――。
「あ、あれは?」
俺は暗闇の中、震える声で聞いた。
「エネルギーポッドじゃ。この船の燃料パックの一つを投棄したんじゃ」
「で、エンジン止まっちゃいましたけどいいんですか?」
「そこがミソじゃ。スカイパトロールはエネルギー反応を自動で追っとるんじゃ。こうすると、ワシらではなく、あのエネルギーポッドを追跡する事になる」
「えーーーー! そんなのバレますよ」
あんな箱を追わせるという荒唐無稽な計画に俺の声が裏返る。
「バレるじゃろうな。でも、その頃にはワシらは大気圏突入しとる。もう、追ってこれんよ。カッカッカ!」
何という強硬策……。しかし、こんな電源が落ちた状態で大丈夫なのだろうか? 不安が背筋を這い上がる。
「いつ、シャトルは再起動するんですか?」
「大気圏突入直前じゃな。電源落ちた状態で大気圏突入なんてしたら制御不能になってあっという間に木っ端みじんじゃ」
何という綱渡りだろうか。死と隣り合わせの賭けに、俺は宙を仰いだ。
電源の落ちたシャトルは、隕石のように無音で海王星へと落ちて行く。俺は遠く見えなくなっていくエネルギーポッドを見ながら、渋い顔でこの無謀な作戦の成功を祈った。
◇
漆黒の宇宙空間で、二人の運命が巨大な惑星へと引き寄せられていく――――。
海王星がぐんぐんと迫り、巨大な碧い惑星が、今や視界の大半を埋め尽くしていた。そろそろ大気圏突入ではないだろうか?
二人はただ静かに時を待つ――――。
その時だった。
ズン!
衝撃波が船体を震撼させる。
「ヤバい……。エネルギーポッドが爆破されたようじゃ」
レヴィアの深刻そうな声が暗闇の船内に響いた。その声には、普段の余裕が微塵も感じられない。
「では次はシャトルが狙われる?」
俺の声が震える。次の瞬間、シャトルが爆破されてしまうかもしれないのだ。恐怖が背筋を這い上がってくる。
「じゃろうな、急いでエンジン再起動じゃ!」
レヴィアは暗闇の中、足元からゴソゴソと切断したケーブルを引っ張り出す……、が、ピタリと止まってしまった。
「ユータ……、どうしよう……」
今にも泣きそうな声が絞り出された。
「ど、どうしたんですか?」
その深刻な声に俺も冷や汗が湧いてくる。
「ケーブルの色が……暗くて見えんのじゃ……」
ケーブルは色違いの複数の物が束ねられていて、色が分からないと直せないが、船内は真っ暗だった。命運を分けるケーブルが、漆黒の闇に埋没している。
「え!? 明かりはないんですか?」
「忘れてしもうた……」
「えぇぇぇ……」
俺は頭を抱え、絶句した。絶望感が胸中に広がる。
太陽は後ろ側で陽の光は射さず、フロントガラスからわずかに海王星の青い照り返しがあるぐらいだったが、それは月夜よりも暗かった。微光では、助けにはならない。
「……。お主……、明かり……もっとらんか?」
レヴィアの声が、今にも消えそうな細さで響く。
「えっ!? 持ってないですよそんなの!」
「あーーーー、しまった。これは見えんぞ……」
レヴィアは暗闇の中でケーブルをゴソゴソやっているようだが、とても色など判別不能である。スカイパトロールが着実に迫って来る中、二人の焦燥感がいつになく高まっていった。
「あ、あれは?」
俺は暗闇の中、震える声で聞いた。
「エネルギーポッドじゃ。この船の燃料パックの一つを投棄したんじゃ」
「で、エンジン止まっちゃいましたけどいいんですか?」
「そこがミソじゃ。スカイパトロールはエネルギー反応を自動で追っとるんじゃ。こうすると、ワシらではなく、あのエネルギーポッドを追跡する事になる」
「えーーーー! そんなのバレますよ」
あんな箱を追わせるという荒唐無稽な計画に俺の声が裏返る。
「バレるじゃろうな。でも、その頃にはワシらは大気圏突入しとる。もう、追ってこれんよ。カッカッカ!」
何という強硬策……。しかし、こんな電源が落ちた状態で大丈夫なのだろうか? 不安が背筋を這い上がる。
「いつ、シャトルは再起動するんですか?」
「大気圏突入直前じゃな。電源落ちた状態で大気圏突入なんてしたら制御不能になってあっという間に木っ端みじんじゃ」
何という綱渡りだろうか。死と隣り合わせの賭けに、俺は宙を仰いだ。
電源の落ちたシャトルは、隕石のように無音で海王星へと落ちて行く。俺は遠く見えなくなっていくエネルギーポッドを見ながら、渋い顔でこの無謀な作戦の成功を祈った。
◇
漆黒の宇宙空間で、二人の運命が巨大な惑星へと引き寄せられていく――――。
海王星がぐんぐんと迫り、巨大な碧い惑星が、今や視界の大半を埋め尽くしていた。そろそろ大気圏突入ではないだろうか?
二人はただ静かに時を待つ――――。
その時だった。
ズン!
衝撃波が船体を震撼させる。
「ヤバい……。エネルギーポッドが爆破されたようじゃ」
レヴィアの深刻そうな声が暗闇の船内に響いた。その声には、普段の余裕が微塵も感じられない。
「では次はシャトルが狙われる?」
俺の声が震える。次の瞬間、シャトルが爆破されてしまうかもしれないのだ。恐怖が背筋を這い上がってくる。
「じゃろうな、急いでエンジン再起動じゃ!」
レヴィアは暗闇の中、足元からゴソゴソと切断したケーブルを引っ張り出す……、が、ピタリと止まってしまった。
「ユータ……、どうしよう……」
今にも泣きそうな声が絞り出された。
「ど、どうしたんですか?」
その深刻な声に俺も冷や汗が湧いてくる。
「ケーブルの色が……暗くて見えんのじゃ……」
ケーブルは色違いの複数の物が束ねられていて、色が分からないと直せないが、船内は真っ暗だった。命運を分けるケーブルが、漆黒の闇に埋没している。
「え!? 明かりはないんですか?」
「忘れてしもうた……」
「えぇぇぇ……」
俺は頭を抱え、絶句した。絶望感が胸中に広がる。
太陽は後ろ側で陽の光は射さず、フロントガラスからわずかに海王星の青い照り返しがあるぐらいだったが、それは月夜よりも暗かった。微光では、助けにはならない。
「……。お主……、明かり……もっとらんか?」
レヴィアの声が、今にも消えそうな細さで響く。
「えっ!? 持ってないですよそんなの!」
「あーーーー、しまった。これは見えんぞ……」
レヴィアは暗闇の中でケーブルをゴソゴソやっているようだが、とても色など判別不能である。スカイパトロールが着実に迫って来る中、二人の焦燥感がいつになく高まっていった。
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