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150. 絶望に瞬く閃光

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 シャトルはグングンと加速しながら海王星目がけ、落ちていく――――。

 プラズマジェットの轟音ごうおんが、船内に振動となって響いていた。

 地球の十七倍もある巨大なあおい惑星、海王星。徐々に大きくなっていく惑星の表面には、今まで見えなかった微細なしまや、かすかにかかる白い雲まで見て取れるようになってきた。ただ、その雄大な巨大惑星の営みはスケールが大きすぎてなかなかピンとこない。

 これが俺たちの本当の故郷、母なる星……なのか……?

 俺はしばらく、そのどこまでも美しくあおい世界を眺め、その壮大な景色に圧倒され、畏怖いふを覚えた。ここが人類の揺籃ようらんの地、全ての人はみんなこの星で生まれたという事実に、言葉を失う。

 その時だった。遠くの方で赤い物がまたたいた。虚空こくうに浮かぶ真紅の警告の色が、俺たちの侵入を拒むかのように踊った――――。

「おいでなすった……」

 レヴィアの目が険しくなる。

 徐々に大きく見えてきたそれは巨大な赤い電光掲示板のようなものだった。海王星のスケールから考えるとそれこそサイズは百キロメートルくらいはあるのではないだろうか?よく見ると、『STOP』と赤地に白で明滅している。多分、ホログラム的な方法で浮かび上がらせているのだろう。その巨大な文字は、碧く輝く海王星をバックに威圧的いあつてきな存在感を放ち、俺は息を呑んだ。

「な、何ですかあれ?」

「スカイパトロールじゃよ。警察じゃな」

「マズいじゃないですか!」

 青くなる俺。背筋を冷たいものが走る。

「じゃが、行かねばならん。……。お主ならどうする?」

 レヴィアの真紅の瞳には、挑戦的な色が混じっていた。

「何とかすり抜けて強行突破……ですか?」

「はっはっは! そんな事したって追いかけられて終わりじゃ。こちらはただのシャトルじゃからな。警備艇には勝てぬよ」

 楽しそうに笑うレヴィア。

「じゃあどうするんですか?」

「これが正解じゃ!」

 レヴィアは画面を両手で忙しくタップし始め、シャトルの姿勢を微調整していく。その指が描く軌跡には、確固たる計算が込められていた。

 直後、画面上に警告ダイアログが開く。

 レヴィアはニヤリと笑うとその【OK】ボタンをターンとタップした。

 ガコン!

 船底から鈍い音がする。重い金属音が船内に反響はんきょうする――――。

 同時にレヴィアはパネルからケーブルを引っ張り出すと小刀で切断した。断線だんせんの瞬間、火花が一瞬、閃光せんこうを放ち、俺は言い知れぬ不安で胸にキュッと痛みが走った。

 急に真っ暗になる船内。漆黒しっこくの闇が二人を包み込む。

 キュィ――――……、トン……トン……シュゥ……。

 エンジンも止まってしまった。エアコンや生命維持装置の駆動音すら消え失せる。

 推進力を失ったシャトルは、ただ静かにそのまま海王星へと落ちていく。

 辺りは全く音のしない暗闇――――。

 心臓がドクッドクッと響く音だけが聞こえていた。鼓動が耳朶じだを震わせる。

 太陽系最果ての星、海王星で俺は犯罪者として警察から逃げている。それも命がけの方法で――――。

 俺はギュッと目をつぶり、両手を組んでただ祈る。さっきまでワクワクしていた自分の能天気さに、ついため息をついてしまった。
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