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146. 保守メンテの前線基地

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「そろそろ着くぞ。気を付けろ! 手を上げて頭を守るんじゃ!」

 レヴィアは両手を上げてニヤッと笑う。

「え!? 何が起こるんですか?」

 気が付くとレヴィアの金髪はふんわりと浮き上がり、ライオンのたてがみのように逆立さかだっていた。

 そうか、無重力になるのか! 気づけば俺の足ももう床から浮き上がっていたのだ。わずかな浮遊感ふゆうかんが、全身を包み込む。

 ポーン!

 到着と同時に天井が開き、ボシュッという音と共に気圧差で吸い出された。刹那せつなの出来事に、反応するひまもない。

「うわぁ!」

 吸い出された俺はトランポリンのような布で受け止められ、跳ね返ってグルグル回ってその辺りにぶつかってしまう。宇宙空間の三次元的な自由さに、地球育ちの体が悲鳴を上げる。

 無重力だから身体を固定する方法がない。回り始めると止まらないし、ぶつかると跳ね返ってまたぶつかってしまう。慣性かんせいの法則が、この場では容赦のない支配者となっていた。

「お主、下手くそじゃな。キャハハハ!」

 レヴィアはすでに先進的なオフィスチェアのような椅子に座っており、こちらを見て笑う。

「無重力なんて初めてなんですよぉ! あわわ!」

 クルクル回りながらまた壁にぶつかる俺。宙返りのような感覚に、の中がグルグルぐるぐると回る。

「仕方ないのう……。ほれ、手を出せ」

 俺は這う這うの体でレヴィアの柔らかな手にしがみついた。

「ありがとうございますぅ……」

「ほれ、座れ!」

 レヴィアは俺にも椅子を手渡す。

「助かりました……」

 何とか椅子に身体を沈め、ようやく安定を取り戻した俺は、深い安堵あんど溜息ためいきをつく。地球では当たり前だった「上下」の概念が、ここではまったく意味を持たないことを痛感つうかんさせられた瞬間だった。

 椅子は磁力じりょくか何かで床に吸い付いており、ガッシリと安定している。そして、身体を前傾させるとスルスルと前に動き、のけぞると止まるようになっていた。人間の直感に合わせた操作性そうさせいが、不思議と安心感を与える。

「じゃぁ行くぞ!」

 レヴィアはツーっと椅子を駆って通路を進んでいった。その滑らかな動きには、長年の習熟しゅうじゅくが感じられる。

「待ってくださいよぉ!」

 俺もフラフラしながら後を必死に追って行った。

 空港の通路みたいなまっすぐな道を、スーッと移動していく俺たち。天井からこぼれ落ちる青白い光が、金属パネルの壁面に幻想的げんそうてきな陰影を作り出している。

「うわぁ、広いですね!」

「ここはサーバー群の保守メンテの前線基地じゃからな。多くの物資が届くんじゃ」

「サーバーに物資……ですか?」

「規模がけた違いじゃからな、まぁ、見たらわかる」

 ドヤ顔のレヴィア。その表情には、これから見せる物への自負がにじんでいた。

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