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141. 神の星

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「ユータ、行くぞ! 急げ!」

 レヴィアはポッドの最終調整をしながら急かす。その声には、いつもの威厳いげんに加えて、かすかな焦燥しょうそうが混じっていた。

 俺は優しくドロシーの髪をなでながら、しっかりと目を見つめる。月光のようにはかなげな銀色の髪が、指の間をすり抜けていく。

「待っててね……」

 しかし、ドロシーは心細げにうつむく――――。

 俺は愛おしさと切なさにさいなまれ、ドロシーをキュッと抱きしめる。ふんわりと立ち上る優しい匂いに包まれながら耳元でささやいた。

「行ってくるよ……」

 ドロシーは口をとがらせ……、静かにうなずいた。

 俺はポンポンとドロシーの背中を叩き、覚悟を決めるとポッドに乗り込んでいく。早く決着をつけたい思いが俺を後押ししていた。

 冷たい金属きんぞくの感触が、これから向かう戦いのきびしさを予感させる。

「横たわって、静かに待つんじゃ!」

 レヴィアは厳しい声でそう言いながらハッチをガチリと閉めた。俺は思ったより狭い内部に息苦しさを覚える。

 ふぅ……。

 密閉された空間に響く息遣いが、緊張を一層高めていく。

 内側からドロシーに手を振ると、ドロシーはうるんだ瞳で近づいてきた。瞳に映る不安が、俺の心を揺さぶる。

「あなた……、気を付けてね……」

 ポッドのガラスカバーを不安そうになでるその指先ゆびさきには、いのりのような温もりが込められていた。透明なガラス越しでも、その思いは確かに伝わってくる。

 俺もその指先に指を合わせる――――。

 わずかな隙間を挟んで触れ合う指先に、二人の想いが交錯する。必ず戻ってくるというちかいと、再会を願う祈り――――。その刹那せつな、時が止まったかのような静寂が訪れる。

 ヴゥン……。

 かすかな電子音が響いた。それは別れの時を告げるかねのように心に沁みていく。

 直後、俺は意識を失った――――。

 闇に沈んでいく意識の中で、最後に見たドロシーの微笑ほほえみが、かすかな光となって残っていた。


      ◇


 気が付くと、俺は細いベッドに横たわっていた。金属の配管が縦横無尽に這う天井のあちこちから漏れる青白い光が、異質いしつな空間を照らしている。

「……、え……?」

 辺りを見回せば、どうやら壁から飛び出ている寝台のようなベッドの上にいるようだった

 壁には蜂の巣のように六角形の模様が刻まれ、同じような寝台がたくさん収納されているように見える。周りは半透明の布で囲まれ、その向こうに人影らしきものが時折ときおり行き交っていた。どうやらここが海王星……なのだろう。

 俺たちの世界を構成しているコンピューターのある星、まさに神の星にやってきたのだ。
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