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140. 一緒に歩む
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「わしらが行ってる間、体は無防備になる。守れるのはお主だけじゃ、頼んだぞ!」
レヴィアの声には、切迫した険しさが込められていた。
「わ、分かりました……。それで、あのぅ……」
「ん? なんじゃ?」
「アバドンさんや操られてる女の子たちは……助けられますか?」
ドロシーがおずおずと聞く。その眼差しには、純粋な慈悲が浮かんでいた。
「ほぅ、お主余裕があるのう。ヌチ・ギを倒しさえすれば何とでもなる。そうじゃろ、ユータ?」
いきなり俺に振られた。咄嗟の問いに一瞬詰まったが、ドロシーを安心させる答えこそ正解なのだ。
「そうですね、手はあります」
俺自身、一回死んでここに来ているし、ドロシーだって生き返っているのだ。死は絶対ではない。ただ……、どうやるかまでは分からないのだが。
「そう……、良かった」
ドロシーが優しく微笑む。
その妻の心優しさに、アバドンの事を忘れていた俺は胸がキュッとなる。慌ただしい戦いの中でも、他者を思いやる心を失わないドロシー。こういう所もドロシーの方が優れているし、そういう人と一緒に歩める結婚というものは良いものだなとしみじみと感じ入った。
レヴィアがリモコンについている小さめの画面を指さして言う。
「それから、こっちの画面は外部との通信用じゃ。ここを押すと話ができる。ヌチ・ギが来たら『ドラゴンは忙しい』とでも言って時間稼ぎをするんじゃ」
じっとドロシーを見つめる瞳には、ドロシーへの信頼が垣間見えた。ドロシーはもはやチームには無くてはならない存在になっている。
「ヌチ・ギ……、来ますか?」
おびえるドロシー。その声音には、かすかな震えが混じっていた。
「来るじゃろうな。奴にとって我は唯一の障害じゃからな」
レヴィアは肩をすくめて首を振る。放っておいてほしいが、レヴィアが健在なうちにラグナロクを始めることはないだろう。
「そ、そんなぁ……」
「いいか、時間稼ぎじゃ、時間稼ぎをするんじゃ! ワシらが必ず奴を倒す、それまで辛抱せい!」
「は、はい……」
うつむくドロシー。長い睫毛に影が落ち、その儚げな姿に、胸が締め付けられる。
「大丈夫! さっきだってうまくやれてたじゃないか」
俺は笑顔でドロシーを見つめながら、そっと頬をなでた。
「あなたぁ……」
目に涙を湛えながら不安そうに俺を見る。
しばらく俺たちは見つめ合った。刹那が永遠のように感じられる。神殿の静寂の中で、息遣いだけが響いた。
俺はそっと口づけをし、キュッとそのしなやかな細い身体を抱きしめる――――。
「自信もって……。僕のドロシーならできる」
その言葉には、これまでの戦いで培った確かな信頼が込められていた。
「うん……」
ドロシーは自信無げにうつむく――――。
長い睫毛からポロリと滴がしたたり落ちた。
レヴィアの声には、切迫した険しさが込められていた。
「わ、分かりました……。それで、あのぅ……」
「ん? なんじゃ?」
「アバドンさんや操られてる女の子たちは……助けられますか?」
ドロシーがおずおずと聞く。その眼差しには、純粋な慈悲が浮かんでいた。
「ほぅ、お主余裕があるのう。ヌチ・ギを倒しさえすれば何とでもなる。そうじゃろ、ユータ?」
いきなり俺に振られた。咄嗟の問いに一瞬詰まったが、ドロシーを安心させる答えこそ正解なのだ。
「そうですね、手はあります」
俺自身、一回死んでここに来ているし、ドロシーだって生き返っているのだ。死は絶対ではない。ただ……、どうやるかまでは分からないのだが。
「そう……、良かった」
ドロシーが優しく微笑む。
その妻の心優しさに、アバドンの事を忘れていた俺は胸がキュッとなる。慌ただしい戦いの中でも、他者を思いやる心を失わないドロシー。こういう所もドロシーの方が優れているし、そういう人と一緒に歩める結婚というものは良いものだなとしみじみと感じ入った。
レヴィアがリモコンについている小さめの画面を指さして言う。
「それから、こっちの画面は外部との通信用じゃ。ここを押すと話ができる。ヌチ・ギが来たら『ドラゴンは忙しい』とでも言って時間稼ぎをするんじゃ」
じっとドロシーを見つめる瞳には、ドロシーへの信頼が垣間見えた。ドロシーはもはやチームには無くてはならない存在になっている。
「ヌチ・ギ……、来ますか?」
おびえるドロシー。その声音には、かすかな震えが混じっていた。
「来るじゃろうな。奴にとって我は唯一の障害じゃからな」
レヴィアは肩をすくめて首を振る。放っておいてほしいが、レヴィアが健在なうちにラグナロクを始めることはないだろう。
「そ、そんなぁ……」
「いいか、時間稼ぎじゃ、時間稼ぎをするんじゃ! ワシらが必ず奴を倒す、それまで辛抱せい!」
「は、はい……」
うつむくドロシー。長い睫毛に影が落ち、その儚げな姿に、胸が締め付けられる。
「大丈夫! さっきだってうまくやれてたじゃないか」
俺は笑顔でドロシーを見つめながら、そっと頬をなでた。
「あなたぁ……」
目に涙を湛えながら不安そうに俺を見る。
しばらく俺たちは見つめ合った。刹那が永遠のように感じられる。神殿の静寂の中で、息遣いだけが響いた。
俺はそっと口づけをし、キュッとそのしなやかな細い身体を抱きしめる――――。
「自信もって……。僕のドロシーならできる」
その言葉には、これまでの戦いで培った確かな信頼が込められていた。
「うん……」
ドロシーは自信無げにうつむく――――。
長い睫毛からポロリと滴がしたたり落ちた。
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