上 下
121 / 179

121. 美の権化

しおりを挟む
 レヴィアの顔が歪む――――。

 怒りと深い悲しみが、その表情に浮かぶ。幾千年の時を生きてきた者の、哀愁あいしゅうに満ちた表情だ。

「ヌチ・ギよ、本当にそこまでするつもりか?」

 レヴィアの寂しげな声が低く響く。その声には、かつての同僚へのなつかしさが混ざっている。

「はっ! いつもそうやって訳知り顔で偉そうに……。もううんざりなんだよ! ロリババアがっ!」

 ヌチ・ギは狂気にうなされたように喚く。そこには長年積み重なった鬱憤うっぷんが滲み出ていた。

「ほう? どうやら教育を間違えたようじゃ……。性根を……叩き直してやるわ!」

 レヴィアは全身に気合を込め、黄金色の輝きを纏う。その激しい怒りに金髪は逆立ち、真紅の瞳は光り輝いた。それは神話に描かれる怒れる神獣そのものだった。

 その圧倒的な闘気に当てられ、さすがのヌチ・ギも顔をしかめる。

 俺は息を呑む。管理者同士の戦争の幕開けを目の当たりにしているのだ。一歩間違えればこの星を吹き飛ばしかねない巨頭同士のぶつかり合いに俺は震えた。そこはもう人間が入り込める世界ではない。

「くっ! 戦乙女ヴァルキュリ来い!」

 ヌチ・ギの開いた空間の裂け目が、生命を宿したかのように蠢き始める。その向こう側から何かが押し広げ、裂け目は徐々に広がっていく。異世界との門が開かれていくかのようだ。

 突如、眩いばかりの光が溢れ出し、その中から一人の巨大な女性兵士が飛び出す。

 長い髪をなびかせながら現れた彼女は、まさに美の権化ごんげそのものだった。均整の取れた目鼻立ち、チェリーのような魅惑的な唇。黒い革のビキニアーマーが、彼女の曲線美きょくせんびを際立たせている。その肌は真珠のように輝き、まるで神々の彫像のように見えた。

 彼女は無表情のまま、優雅に地上へと降り立つ――――。

 激しい地響きと共に砂煙が立ち上った。その巨躯きょくは二十メートルを優に超え、体重は五十トンを下らないだろう。芸術品のような美しき巨兵がついに起動してしまったのだ。

 事前に見つけていながらも、結局ヌチ・ギの手から救うことができなかった。その思いが、俺の胸に痛切つうせつな後悔を呼び起こす。

 もし味方だったなら、どれほど心強かっただろう――――。

 俺はギリッと奥歯を鳴らした。

「こらまた、面妖な物を作りおったな……」

 レヴィアの声には呆れと共に僅かな憐憫れんびんの色が滲んでいる。まるで、悪戯をする子供を見守る親のような口調だ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました

星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

異世界転生したら何でも出来る天才だった。

桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。 だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。 そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。 =========================== 始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。

処理中です...