89 / 161
89. 豪快な家づくり
しおりを挟む
続いて建物を建てて行かないとだが……池のほとりはちょっと地盤が柔らかい。しっかりとした基礎が必要のようだ。
俺は岩肌をさらす御嶽山の山頂付近を飛んで、良さげな岩を探す――――。
冷たい風が頬を撫でる中、眼下に広がる荒々しい火山の様相は息を呑むほどの美しさだった。
「いいね、いいね! いい形の岩はないかなぁ……?」
しかし、さすがにそんな都合のいい岩は転がってはいない。自然は、人間の思惑通りには動かないものだ、たとえデジタルだとしても。
仕方がないので崖から切り出すことにする。俺は断崖絶壁の前に浮いて止まると、崖に向けて右手をのばして気合を込める――――。
「行けっ! ウォーターカッター!」
水魔法で鋭く水を超高速で噴き出した。
バッシューー! ジュボボボボ!!
断崖絶壁の硬い岩は水しぶきをまき散らしながら、まるで豆腐のように斬れていく――――。
「おぉ! なんか行けそうだ。くふふふ」
俺は家の敷地面積サイズになるように、景気よく崖にメスを入れていく。丸ッと一枚岩で家の基礎が切り出せたらいい家になるに違いない。
と、その時、ズズズズと重低音の振動を発しながら、周辺もろとも崩落しはじめた。
「うぉっ! ヤバい!」
俺はゆっくりと崩落していく千トンはあろうかという巨岩に全力の飛行魔法をかけた――――。
くぅぅぅ……。
何とか崩落は止められたが、今度は周りの岩たちが周りから落ちてきて上に覆いかぶさってくる。
「ちょっと待ってよ! ひぃぃぃ!」
俺は全力の飛行魔法をかけ続けながら巨石たちを必死に避け続ける。襲い来る巨石たちとの決死のチェイス。自分の限界と向き合う恐怖と興奮が全身を駆け巡った――――。
「くはぁぁぁ!」
最後の一つを何とかかわし、大きく息をつく。
巨石はただの大きい石ではあるが、そのどっしりとした様相で迫って来られると本能的に畏怖を感じてしまうのであった。
◇
何とか切り抜けると、俺はよろよろと飛びながら敷地上空まで巨石を運んでいった。
フラフラと空を飛ぶ巨大な四角い岩。まるでマグリットの不可思議な絵のように実にシュールな光景である。もし誰かがこの光景を目にしたら、神秘を感じてしまうに違いない。
ようやく上空にたどりついた俺。
「ふぅ……、遠かった。そーれっ!」
俺は上面を上に向け、一気に派手に落とした――――。
真っ逆さまにすごい速度で落ちて行く巨岩……。
ヒュオォォォォ……。
盛大な風きり音を上げながら、池のほとりへ向けてどんどん小さくなっていく――――。
直後、激しい衝撃音が山々にこだました。
巨大な岩は半分地中にめり込み、水面はその衝撃で盛大に水しぶきを上げ、大きな波紋を作っていった――――。
うっひょー!
かつてこんな豪快な家づくりがあっただろうか? 俺は空中でグッとこぶしを握った。
最後にウォーターカッターで上面を慎重に水平に切り取り、岩のステージの出来上がりである。
十メートル四方はあるだろうか? 黒光りする玄武岩の一枚岩とはなんとも贅沢な基礎である。俺は達成感に包まれた。
ここを見つけてから一時間も経っていないのにもう基礎までできてしまった。何とも魔法とは便利なものである。
お湯を沸かしてコーヒーを入れると、俺は広大な岩盤の上に腰掛けて香ばしい香りを楽しんだ。
見上げると雄大な御嶽山が荒々しい岩肌を晒して聳えている。その姿は、まるで永遠の時を刻む巨人のようだった。
チチチチ、という小鳥の鳴き声が響き、森の香りが風に乗ってやってくる。その瞬間、自然の息吹に全身が包み込まれていくのを感じた。
おぉぉぉぉ……。
この風景をドロシーにも見せたいなと、つい考えてしまう。きっと、『すごい! すごーい!』って言ってくれるに違いないのだ……。
しかし――――。
「ドロシー……」
不覚にも涙がポロリとこぼれる。
知らぬ間に自分の中でドロシーがとても大きな存在になっていることを思い知らされた。大切な大切な可愛い女の子、ドロシー。離れたくない。その思いが、まるで鋭利な刃物のように胸を刺す。
でも、俺の直感は告げている、恐ろしいトラブルは必ずやってくる。この波乱万丈の俺の人生に十八歳の少女を巻き込むわけにはいかないのだ。その決意と後悔が、絡み合って心を苦しめる。
俺は大きく息をつき、頭を抱えた。
遠くで鳥がさえずっている――――。
俺は岩肌をさらす御嶽山の山頂付近を飛んで、良さげな岩を探す――――。
冷たい風が頬を撫でる中、眼下に広がる荒々しい火山の様相は息を呑むほどの美しさだった。
「いいね、いいね! いい形の岩はないかなぁ……?」
しかし、さすがにそんな都合のいい岩は転がってはいない。自然は、人間の思惑通りには動かないものだ、たとえデジタルだとしても。
仕方がないので崖から切り出すことにする。俺は断崖絶壁の前に浮いて止まると、崖に向けて右手をのばして気合を込める――――。
「行けっ! ウォーターカッター!」
水魔法で鋭く水を超高速で噴き出した。
バッシューー! ジュボボボボ!!
断崖絶壁の硬い岩は水しぶきをまき散らしながら、まるで豆腐のように斬れていく――――。
「おぉ! なんか行けそうだ。くふふふ」
俺は家の敷地面積サイズになるように、景気よく崖にメスを入れていく。丸ッと一枚岩で家の基礎が切り出せたらいい家になるに違いない。
と、その時、ズズズズと重低音の振動を発しながら、周辺もろとも崩落しはじめた。
「うぉっ! ヤバい!」
俺はゆっくりと崩落していく千トンはあろうかという巨岩に全力の飛行魔法をかけた――――。
くぅぅぅ……。
何とか崩落は止められたが、今度は周りの岩たちが周りから落ちてきて上に覆いかぶさってくる。
「ちょっと待ってよ! ひぃぃぃ!」
俺は全力の飛行魔法をかけ続けながら巨石たちを必死に避け続ける。襲い来る巨石たちとの決死のチェイス。自分の限界と向き合う恐怖と興奮が全身を駆け巡った――――。
「くはぁぁぁ!」
最後の一つを何とかかわし、大きく息をつく。
巨石はただの大きい石ではあるが、そのどっしりとした様相で迫って来られると本能的に畏怖を感じてしまうのであった。
◇
何とか切り抜けると、俺はよろよろと飛びながら敷地上空まで巨石を運んでいった。
フラフラと空を飛ぶ巨大な四角い岩。まるでマグリットの不可思議な絵のように実にシュールな光景である。もし誰かがこの光景を目にしたら、神秘を感じてしまうに違いない。
ようやく上空にたどりついた俺。
「ふぅ……、遠かった。そーれっ!」
俺は上面を上に向け、一気に派手に落とした――――。
真っ逆さまにすごい速度で落ちて行く巨岩……。
ヒュオォォォォ……。
盛大な風きり音を上げながら、池のほとりへ向けてどんどん小さくなっていく――――。
直後、激しい衝撃音が山々にこだました。
巨大な岩は半分地中にめり込み、水面はその衝撃で盛大に水しぶきを上げ、大きな波紋を作っていった――――。
うっひょー!
かつてこんな豪快な家づくりがあっただろうか? 俺は空中でグッとこぶしを握った。
最後にウォーターカッターで上面を慎重に水平に切り取り、岩のステージの出来上がりである。
十メートル四方はあるだろうか? 黒光りする玄武岩の一枚岩とはなんとも贅沢な基礎である。俺は達成感に包まれた。
ここを見つけてから一時間も経っていないのにもう基礎までできてしまった。何とも魔法とは便利なものである。
お湯を沸かしてコーヒーを入れると、俺は広大な岩盤の上に腰掛けて香ばしい香りを楽しんだ。
見上げると雄大な御嶽山が荒々しい岩肌を晒して聳えている。その姿は、まるで永遠の時を刻む巨人のようだった。
チチチチ、という小鳥の鳴き声が響き、森の香りが風に乗ってやってくる。その瞬間、自然の息吹に全身が包み込まれていくのを感じた。
おぉぉぉぉ……。
この風景をドロシーにも見せたいなと、つい考えてしまう。きっと、『すごい! すごーい!』って言ってくれるに違いないのだ……。
しかし――――。
「ドロシー……」
不覚にも涙がポロリとこぼれる。
知らぬ間に自分の中でドロシーがとても大きな存在になっていることを思い知らされた。大切な大切な可愛い女の子、ドロシー。離れたくない。その思いが、まるで鋭利な刃物のように胸を刺す。
でも、俺の直感は告げている、恐ろしいトラブルは必ずやってくる。この波乱万丈の俺の人生に十八歳の少女を巻き込むわけにはいかないのだ。その決意と後悔が、絡み合って心を苦しめる。
俺は大きく息をつき、頭を抱えた。
遠くで鳥がさえずっている――――。
2
お気に入りに追加
335
あなたにおすすめの小説
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる