「ちょ、俺が救世主!?」~転生商人のおかしな快進撃~

月城 友麻

文字の大きさ
85 / 193

85. AIと138億年

しおりを挟む
「心……ですか……。心……」

 俺は呟くように繰り返した。その言葉が、胸の奥深くに響く。

「そう、心こそが人間の本体じゃ。身体もこの世界も全部作り物じゃからな、心だけが真実じゃ」

 レヴィアの言葉は、哲学的な深みを帯びていた。

 言われてみたら確かに、ここの世界も地球も単に三次元映像を合成レンダリングしてるだけにすぎないのだから、自分の心は別の所にある方が自然だ。

「心はどこにあるんですか?」

 まさに人間の本質を問う質問が湧いてくる。

 俺は息を呑んでレヴィアの返事を待った――――。

 レヴィアはウイスキーをグッとあおると、座った目で俺を見る。

「なんじゃ、自分の本体がどこにあるのかもわからんのか? 【マインド・カーネル】じゃよ。心の管理運用システムが別にあるんじゃ」

 レヴィアの説明は、さらなる疑問を生み出した。

「そこも電子的なシステム……ですか? それじゃリアルな世界というのはどこに?」

 予想外の話に俺の声は少し震えた。

「リアルな世界なんてありゃせんよ」

 レヴィアは肩をすくめる。その言葉は、俺の常識を根底から覆すものだった。

「いやいや、だってこの世界は海王星のコンピューターシステムで動いているっておっしゃってたじゃないですか。そしたら海王星はリアルな世界にあるのですよね?」

 俺は必死に自分の理解を確認しようとする。

「そう思うじゃろ? ところがどっこいなのじゃ。キャハハハ!」

 レヴィアは嬉しそうに笑った。その笑顔には、全てを知り尽くした者の余裕が感じられる。

 俺はキツネにつままれたような気分になった。この世が仮想現実空間だというのはまぁ、百歩譲ってアリだとしよう。しかし、この世を作るコンピューターシステムがリアルな世界ではないというのはどういうことなのか? 全く意味不明である。頭の中で、理解の糸が絡まっていく。

 首をひねり、ジョッキをグッとあおると、レヴィアが新たな問いを投げかけた。

「宇宙ができてから、どのくらい時間経ってると思うかね?」

 その質いには、何か重要な意味が隠されているようだった。

「う、宇宙ですか? 確か、ビッグバンから百三十……億年……くらいだったかな? でも、仮想現実空間にビッグバンとか意味ないですよね?」

 俺は答えてはみるが、何だか無知を開陳しているようで恥ずかしかった。

「確かにこの世界の時間軸なんてあまり意味ないんじゃが、宇宙ができてからはやはり同じくらいの時間は経っておるそうじゃ。で、百三十八億年って時間の長さの意味は分かるかの?」

 レヴィアの問いかけには、深遠な真理が隠されているようだったが、あまりに壮大すぎてイメージが湧かない。

「ちょっと……想像もつかない長さですね」

「そうじゃ、この世界を考えるうえで、この気の遠くなる時間の長さが一つのカギとなるじゃろう」

 レヴィアの言葉は、何か重要な示唆を含んでいるようだった。しかし、時間が長いことが一体何に関わるのかピンとこない。

「カギ……?」

「お主が住んでおった日本でもAIが発達しておったろう」

「あぁ、ChatGPTとかみんな使い始めてましたね……」

「早晩人間の知能を超えてAIがAIを作り始めるじゃろう。そしたらどうなる?」

「えっ!?」

 俺は驚いた。確かにAIが人間を超えているなら、AIを改良するのもAIがやるのが自然である。でも、そうなったら人間はどうなってしまうのか?

「に、人間関係なくどんどん発達してっちゃう……って事ですか?」

「そうじゃ。そしてAIに寿命などない。これと138億年がポイントじゃな。カハハハ!」

「AIと138億年……」

 俺は考え込んでしまった。IT技術と壮大な時間。それが一体何だというのだろうか?

「まぁ良い、我もちと飲み過ぎたようじゃ。そろそろ、おいとまするとしよう」

 レヴィアは大きなあくびを一つすると、サリーの中に手を突っ込んでもぞもぞとし、たたまれたバタフライナイフを取り出した。

「今日は楽しかったぞ。お礼にこれをプレゼントするのじゃ」

 ニッコリと笑うレヴィア。

「え? ナイフ……ですか?」

 俺の声には、戸惑いが滲む。ナイフのプレゼントの意味がピンとこなかったのだ。

「ふふん、分からんか? これはただのナイフじゃない、アーティファクトじゃ」

 レヴィアは器用にバタフライナイフをクルリと回して刃を出し、柄のロックをパチリとかけた。するとナイフはぼうっと青白い光をおび、ただものでない雰囲気を漂わせる。それは、まさに神秘的な魔法の世界のアイテムだった。

 おぉぉぉぉ……。

「これをな、こうするのじゃ」

 レヴィアはエールの樽に向け、目にも止まらぬ速さでシュッと切り裂く。すると、空間に裂け目が走った――――。

 え……?

 レヴィアはニヤッと笑うと、その裂け目をまるでコンニャクのように両手でグニュッと広げた。開いた空間の切れ目からは樽の内側の断面図が見えてしまっている。

 そっと覗くとエールがなみなみと入って水面がゆらゆらと揺れるのが見えた。しかし、切れ目に漏れてくることもない。淡々と空間だけが切り裂かれていた。

「うわぁ……」

 俺はその見たこともない光景にきつけられる。

「空間を切って広げられるのじゃ。断面を観察してもヨシ、壁をすり抜けてもヨシの優れモノじゃ」

 ドヤ顔のレヴィアの説明には、このアーティファクトへの信頼と愛着が感じられた。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...