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65. 天に聳える白い城塞
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さらにしばらく海面をすべるように進むと、断崖絶壁の上に聳え立つ純白の灯台が姿を現した。本州最南端、潮岬だ。灯台は石造りの堂々とした建築で、吹き付ける潮風に負けじと、威風堂々と海の安全を見守っている。その姿は、まるで時代を超えて立ち続ける不動の守護者のようだった。
潮岬を超えたら少し右に進路を変え、四国の南をかすめながら宮崎を目指そう。そう決めた矢先、ドロシーの歓声が響いた。
「うわー! あれ、灯台よね? すごい!」
ドロシーは初めて見る灯台に興奮気味だ。先ほどまでの不機嫌さは影を潜め、目を輝かせている。その様子を見てホッとした。
「よし、灯台見物だ! よく見ててよ!」
俺は灯台の方向にかじを切る。徐々に近づいてくる灯台。その威容が大きくなるにつれ、ドロシーの息遣いが荒くなるのを感じた。
「しっかりつかまっててよ!」
「えっ!? ちょっと待って! ユータ、何するつもり……?」
崖ギリギリまで近づくと俺は高度を一気に上げ、断崖絶壁をスレスレにかすめる。生えていた草がパシっとシールドを叩く音が、心臓の鼓動のように響く。
そして、ぐっと大きく迫ってくる灯台のすぐ横を飛んだ。
視野を大きく純白の壁が横切る。まるで巨人の顔がゆっくりと横を通り過ぎていくかのようだ。
「きゃぁっ!」
ドロシーが俺にしがみつく。
ドン!
カヌーが引き起こす後方乱気流が灯台にぶつかって鈍い音を放つ。その衝撃が下っ腹に響いた。
「ははは、大丈夫だよ。怖かった?」
「もぉ……ユータの馬鹿!」
ドロシーは俺の背中をパンと叩き、振りむいて、ぐんぐんと小さくなっていく灯台を眺めた。
「なんだかすごいわ……。ユータは大魔導士なの? こんな凄いことができるなんて」
「大魔導士であり、剣聖であり、格闘家……かな? 要するに、なんでもできる万能選手ってところだ」
俺はニヤッと笑う。
「何よそれ、全部じゃない……。欲張りすぎよ」
「ははは。すごいだろ? 感動した?」
俺がドヤ顔でそう言うと……。
「すごすぎるのも……何だか怖いわ……」
ドロシーは俺の背中に顔をうずめた。
確かに『大いなる力は大いなる責任を伴う』である。力は大きければいいというものではない。
例えば武闘会で勇者叩きのめすのは簡単だ。でもそんなことしてしまったらもう街には居られないだろう。そう考えると、自分の力の大きさを手放しには喜べない。
リリアンの騎士にでもなれば居場所はできるだろうけど、そんな生き方も嫌なのだ。
俺はぽっかりと浮かんだ雲たちをスレスレでよけながら高度を上げ、遠くに見えてきた四国を見つめる。四国の山々は、まるで歓迎するかのように、徐々にその姿を大きくしていった。
◇
俺はグングンと速度を上げ、さらに高い空を目指す。空気が薄くなるにつれ、カヌーの周りを流れる風の音が変わっていくのを感じた。
この速度では石垣島まで何時間もかかってしまう。そろそろ本気を出して飛んでみよう。
「これより、当カヌーは超音速飛行に入りま~す。ご注意くださ~い!」
俺は冗談めかして機内アナウンスのような口調で告げた。
「え? 超音速って……何?」
ドロシーがバタつく銀色の髪を押さえながら、不安そうに聞いてくる。
「音が伝わる速さを超えるってことだよ、とんでもない速度で飛ぶってこと。この世界では誰も経験したことがないはずさ」
俺は少し得意げに説明した。
「もっと速くなるの!? 音より速い!? なんなのそれ!? ユータ、大丈夫なの?」
ドロシーがまん丸い目をして俺を見る。その表情には興奮と恐怖が入り混じっていた。
「しっかりつかまっててよ! 世界初の超音速フライトの準備はいい?」
俺はそう言うと注入魔力をグンと増やした。
カヌーはビリビリと震えながら速度を上げていく。
対地速度 500km/h
:
対地速度 600km/h
:
対地速度 700km/h
:
どんどんと上がっていく速度。
雲のすき間をぬって飛んでいくが、大きな雲が立ちふさがった。積乱雲だ。その巨大な姿は、天に聳える白い城塞のようだった。
これを避けるとなると相当遠回りになってしまう。
「雲を抜けるよ、気を付けて! ちょっとした嵐の中に突っ込むかもしれないぞ」
俺は声をかけながら、カヌーの姿勢を整えた。見る見るうちに迫って来る艶々とした雲の壁――――。
「く、雲!? 嵐!? ユータ、やめ……」
ドロシーの言葉が途切れた。
ボシュ!
いきなり視界がグレー一色になる。
「きゃぁ! 何も見えないっ!」
俺にしがみつくドロシー。
雲の中に突っ込んだのだ。周囲は濃密な水滴に包まれ、視界はゼロ。ときおり雷光が走り、轟音が耳を襲う。
俺は構わずさらに速度と高度を上げていく。カヌーがガタガタと激しく揺れる中、必死になって操縦に集中する。
対地速度 800km/h
:
対地速度 900km/h
:
ジェット旅客機の速度に達し、船体がグォングォンとこもった音を響かせ始める。その音は次第に高くなり、やがて耳をつんざくような金属音へと変わっていく。
ドロシーはギュッと俺にしがみついている。
すると急に視界が開けた――――。
潮岬を超えたら少し右に進路を変え、四国の南をかすめながら宮崎を目指そう。そう決めた矢先、ドロシーの歓声が響いた。
「うわー! あれ、灯台よね? すごい!」
ドロシーは初めて見る灯台に興奮気味だ。先ほどまでの不機嫌さは影を潜め、目を輝かせている。その様子を見てホッとした。
「よし、灯台見物だ! よく見ててよ!」
俺は灯台の方向にかじを切る。徐々に近づいてくる灯台。その威容が大きくなるにつれ、ドロシーの息遣いが荒くなるのを感じた。
「しっかりつかまっててよ!」
「えっ!? ちょっと待って! ユータ、何するつもり……?」
崖ギリギリまで近づくと俺は高度を一気に上げ、断崖絶壁をスレスレにかすめる。生えていた草がパシっとシールドを叩く音が、心臓の鼓動のように響く。
そして、ぐっと大きく迫ってくる灯台のすぐ横を飛んだ。
視野を大きく純白の壁が横切る。まるで巨人の顔がゆっくりと横を通り過ぎていくかのようだ。
「きゃぁっ!」
ドロシーが俺にしがみつく。
ドン!
カヌーが引き起こす後方乱気流が灯台にぶつかって鈍い音を放つ。その衝撃が下っ腹に響いた。
「ははは、大丈夫だよ。怖かった?」
「もぉ……ユータの馬鹿!」
ドロシーは俺の背中をパンと叩き、振りむいて、ぐんぐんと小さくなっていく灯台を眺めた。
「なんだかすごいわ……。ユータは大魔導士なの? こんな凄いことができるなんて」
「大魔導士であり、剣聖であり、格闘家……かな? 要するに、なんでもできる万能選手ってところだ」
俺はニヤッと笑う。
「何よそれ、全部じゃない……。欲張りすぎよ」
「ははは。すごいだろ? 感動した?」
俺がドヤ顔でそう言うと……。
「すごすぎるのも……何だか怖いわ……」
ドロシーは俺の背中に顔をうずめた。
確かに『大いなる力は大いなる責任を伴う』である。力は大きければいいというものではない。
例えば武闘会で勇者叩きのめすのは簡単だ。でもそんなことしてしまったらもう街には居られないだろう。そう考えると、自分の力の大きさを手放しには喜べない。
リリアンの騎士にでもなれば居場所はできるだろうけど、そんな生き方も嫌なのだ。
俺はぽっかりと浮かんだ雲たちをスレスレでよけながら高度を上げ、遠くに見えてきた四国を見つめる。四国の山々は、まるで歓迎するかのように、徐々にその姿を大きくしていった。
◇
俺はグングンと速度を上げ、さらに高い空を目指す。空気が薄くなるにつれ、カヌーの周りを流れる風の音が変わっていくのを感じた。
この速度では石垣島まで何時間もかかってしまう。そろそろ本気を出して飛んでみよう。
「これより、当カヌーは超音速飛行に入りま~す。ご注意くださ~い!」
俺は冗談めかして機内アナウンスのような口調で告げた。
「え? 超音速って……何?」
ドロシーがバタつく銀色の髪を押さえながら、不安そうに聞いてくる。
「音が伝わる速さを超えるってことだよ、とんでもない速度で飛ぶってこと。この世界では誰も経験したことがないはずさ」
俺は少し得意げに説明した。
「もっと速くなるの!? 音より速い!? なんなのそれ!? ユータ、大丈夫なの?」
ドロシーがまん丸い目をして俺を見る。その表情には興奮と恐怖が入り混じっていた。
「しっかりつかまっててよ! 世界初の超音速フライトの準備はいい?」
俺はそう言うと注入魔力をグンと増やした。
カヌーはビリビリと震えながら速度を上げていく。
対地速度 500km/h
:
対地速度 600km/h
:
対地速度 700km/h
:
どんどんと上がっていく速度。
雲のすき間をぬって飛んでいくが、大きな雲が立ちふさがった。積乱雲だ。その巨大な姿は、天に聳える白い城塞のようだった。
これを避けるとなると相当遠回りになってしまう。
「雲を抜けるよ、気を付けて! ちょっとした嵐の中に突っ込むかもしれないぞ」
俺は声をかけながら、カヌーの姿勢を整えた。見る見るうちに迫って来る艶々とした雲の壁――――。
「く、雲!? 嵐!? ユータ、やめ……」
ドロシーの言葉が途切れた。
ボシュ!
いきなり視界がグレー一色になる。
「きゃぁ! 何も見えないっ!」
俺にしがみつくドロシー。
雲の中に突っ込んだのだ。周囲は濃密な水滴に包まれ、視界はゼロ。ときおり雷光が走り、轟音が耳を襲う。
俺は構わずさらに速度と高度を上げていく。カヌーがガタガタと激しく揺れる中、必死になって操縦に集中する。
対地速度 800km/h
:
対地速度 900km/h
:
ジェット旅客機の速度に達し、船体がグォングォンとこもった音を響かせ始める。その音は次第に高くなり、やがて耳をつんざくような金属音へと変わっていく。
ドロシーはギュッと俺にしがみついている。
すると急に視界が開けた――――。
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