「ちょ、俺が救世主!?」~転生商人のおかしな快進撃~

月城 友麻

文字の大きさ
上 下
57 / 190

57. 混沌とした不安

しおりを挟む
「俺じゃ勝てそうにないね」

 俺は自嘲気味に首を振る。

「そうですね、旦那様は最強ですが、ヌチ・ギさんは次元の違う規格外の存在ですから、存在自体反則ですよ」

 肩をすくめるアバドン。

 一体、ヌチ・ギはこの世界の何なのだろうか? この世界に魔物やダンジョンを作って何をやりたいのだろうか?

 コーヒーカップを見つめながら、俺は考え込む。この世界の真実、そしてヌチ・ギという存在。全てが繋がっているような気がするのに、その全容が見えない。俺は深いため息をついた。

「まぁ、神様みたいなものだと思っておけばいいかな?」

 するとアバドンは、腕を組んで首をひねる。

「うーん、ヌチ・ギさんはこう言うとアレなんですが、ちょっと邪悪で俗物なんですよ」

「邪悪……?」

「どうも女の子を生贄いけにえにして楽しんでるらしいんですよね」

「はぁ!? それじゃ悪魔じゃないか!」

 俺の声が思わず上ずる。この世界の闇の深さに、戦慄を覚えた。

「彼は王族の守り神的なポジションにいていてですね、軍事や疫病対策や飢饉対策を手伝って、その代わりに可愛い女の子を提供させているんです」

「……。女の子はどうなっちゃうの?」

 俺は口を開くのもはばかられるような気持ちで尋ねた。

「さぁ……屋敷に入った女の子は二度と出てこないそうです」

「それは大問題じゃないか!」

 俺は思わず立ち上がった。

「でもヌチ・ギさんを止められる人なんていないですよ。王様だっていいなりです」

 俺は絶句した。この世界の闇がそんなところにあったとは。この世界はヌチ・ギに実質支配されていたのだ。そして、その男は女の子を喰い物にする悪魔。でも、誰もこの状況を変えられない。全知全能であればもう人間にはなすすべがないのだ。何という恐ろしい世界だろうか。

 この世界は仮想現実空間ということはほぼ堅そうだ。ヌチ・ギが女の子を食い物にするために作った仮想現実空間……。いや、この世界を作るコストはそれこそ天文学的で莫大だ。女の子を手にするためにできるような話じゃない。と、なると、ヌチ・ギは単に管理を任されていて、役得として女の子を食っているという話かもしれない。

 とは言え、この辺は全く想像の域を出ない。何しろ情報が少なすぎる。俺は頭を抱えた。

「ありがとう、とても参考になったよ。彼のいそうなところに行くのはやめておこう」

 俺の声には、諦めと決意が混じっていた。

「正解だと思います。絶対ドロシーのあねさんがヌチ・ギさんの目に触れることが無いようにしてくださいね。奪われたら最悪です」

「うーん、それは怖いな……。気を付けよう」

 俺はふぅぅ、と大きく息を吐きながら、この世界の理不尽さを憂えた。

 勇者は特権をかざして好き放題やってるし、ヌチ・ギは国を裏で操りながら女の子をもてあそんでいる。そして、それらは簡単には改善できそうにない。

 俺は窓の外を見つめた。穏やかな日差しに包まれる街並み――――。

 この平和な光景の裏に、こんな残酷な真実が隠れているなんて。

 俺は深いため息をついて首を振り、コーヒーをすすった。


       ◇


 この世界ではヌチ・ギがキーになっているということはわかった。なぜここが日本列島なのかも聞けば教えてくれるだろう。しかし、俺はチートで力をつけてきた存在だ。ゲームの世界ではチートは重罪である。下手に近づけばチートがばれてペナルティを食らってしまう。下手したらアカウント抹消……、殺されてしまうかもしれない。そう思っただけで、背筋に冷たいものが走る。

 とても話を聞きになんて行けない。アバドンに聞きにいかせたりしてもアウトだろう。ヌチ・ギは万能な存在だ。アバドンの記憶を調べられたりしたら最悪だ。

 ふぅ……。

 俺はガックリして首を振った。もう少しで真実に手が届きそうなのに近づけないもどかしさが胸を苛む。

 それでも、ヌチ・ギもバカじゃない。いつか俺の存在にも気づくだろう。その時に対抗できる手段はどうしても必要だ。それにはこの世界のことを解明しておく必要がある。

 女神様に連絡がつけば解決できるのにな、と思ったが、どうやったらいいかわからない。死んだらもう一度あの先輩に似た美人さんに会えるのかもしれないが……、さすがに死ぬわけにもいかない。行き詰った現実が胸の奥できしむ。

 ふぅ……。

 俺はコーヒーをすすりながら、テーブルに可愛く活けられたマーガレットの花を見つめた。

 ドロシーが飾ったのだろう。黄色の中心部から大きく開いた真っ白な花びらは、元気で快活……まるでドロシーのようだった。その花の瑞々みずみずしさに、少し心が和む。

 俺はドロシーのまぶしい笑顔を思い出し、目をつぶった。その笑顔が、この混沌とした状況の中で、唯一の光明のように感じられる。

「守らなきゃな」

 混沌とした不安の中、俺は小さく呟いた。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

不遇にも若くして病死した少年、転生先で英雄に

リョウ
ファンタジー
辺境貴族の次男レイ=イスラ=エルディア。 実は、病で一度死を経験した転生者だった。 思わぬ偶然によって導かれた転生先…。 転生した際に交わした約束を果たす為、15歳で家を出て旅に出る。 転生する際に与えられたチート能力を駆使して、彼は何を為して行くのか。 魔物あり、戦争あり、恋愛有りの異世界冒険英雄譚がここに幕を開ける!

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

器用貧乏の底辺冒険者~俺だけ使える『ステータスボード』で最強になる!~

夢・風魔
ファンタジー
*タイトル少し変更しました。 全ての能力が平均的で、これと言って突出したところもない主人公。 適正職も見つからず、未だに見習いから職業を決められずにいる。 パーティーでは荷物持ち兼、交代要員。 全ての見習い職業の「初期スキル」を使えるがそれだけ。 ある日、新しく発見されたダンジョンにパーティーメンバーと潜るとモンスターハウスに遭遇してパーティー決壊の危機に。 パーティーリーダーの裏切りによって囮にされたロイドは、仲間たちにも見捨てられひとりダンジョン内を必死に逃げ惑う。 突然地面が陥没し、そこでロイドは『ステータスボード』を手に入れた。 ロイドのステータスはオール25。 彼にはユニークスキルが備わっていた。 ステータスが強制的に平均化される、ユニークスキルが……。 ステータスボードを手に入れてからロイドの人生は一変する。 LVUPで付与されるポイントを使ってステータスUP、スキル獲得。 不器用大富豪と蔑まれてきたロイドは、ひとりで前衛後衛支援の全てをこなす 最強の冒険者として称えられるようになる・・・かも? 【過度なざまぁはありませんが、結果的にはそうなる・・みたいな?】

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...