53 / 154
53. 導き出される矛盾
しおりを挟む
しばらくカリカリと鉛筆の音が部屋に響いた。
大体、3×10の23乗個のパソコンが動かせるくらいらしい。だが、数字がデカすぎて訳が分からない。3億台のパソコンを1億セット用意して、それをさらに1千万倍……。もう頭がついて行かない。
だがまぁ、MAXこのくらいの計算力が出せることは分かった。
で、この世界をシミュレーションしようと思ったら、例えば分子を一台のパソコンで一万個担当すると仮定すると、3×10の27乗個の分子をシミュレートできる計算になる。
これってどの位の分子数に相当するのだろう……? 俺は首を傾げる。
続いて人体の分子数を適当に推定してみると……、2×10の27乗らしい。なんと、太陽丸まる一個の電力を使ってできるシミュレーションは人体一個半だった――――。
俺は計算結果を見て、愕然とした。
つまり、この世界をコンピューターでシミュレーションするなんて無理なことが分かった。究極に頑張って莫大なコンピューターシステム作っても人体一個半程度のシミュレーションしかできないのだ。この広大な世界全部をシミュレーションするなんて絶対に無理という結果になってしまった。
もちろん、パソコンじゃなくて、もっと効率のいいコンピューターは作れるだろう。でもパソコンの一万倍効率を上げても一万五千人分くらいしかシミュレーションできない。全人口、街や大地や、動植物、この広大な世界のシミュレーションには程遠いのだ。
俺は手のひらを眺めた。微細なしわがあり、その下には青や赤の血管たちが見える……。生々しいほどにリアルだ。
拡大鏡で拡大してみると、指紋が巨大なうねのようにして走り、汗腺からは汗が湧き出している。こんな精密な構造が全部コンピューターによってシミュレーションされているらしいが……、本当に?
鑑定の結果から導き出される結論はそうだが、そんなコンピューターは作れない。一体この世界はどうなっているのだろうか?
俺は頭を抱え、深くため息をついた。窓の外では、月が雲間から顔を覗かせている。
この世界の真実は、俺の想像を遥かに超えているのかもしれない……。
俺はギリッと奥歯を鳴らした。
少なくとも今の俺には世界の真実が見えてこない。数式と数字が踊る紙面を俺はパン! と叩いた。
「はっ! そうじゃないとな。女神様、上等じゃないか!」
俺は月に向かってこぶしを突き上げた。分からないからこそ面白い。俺は机に向かい直すと、ノートをめくって新しいページを出した。
「よし、もう一度最初からだ! この世界の仕組みを、絶対に解き明かしてみせる」
決意を新たにして、俺は別の想定で再び計算を始めた。外では、夜が更けていく。しかし、俺の探求心は燃え盛っていた。
◇
世界の解明が一向に進まず、行き詰っていた時、金属カプセルの素材が届いた――――。
鐘とフタになる鉄板と、シール材のゴム、それからのぞき窓になるガラス、それぞれ寸法通りに穴もあけてもらっている。裏の空き地で、朝の柔らかな光が金属の表面を艶やかに照らしていた。
これからこれを使って宇宙へ行くのだ――――。
俺は大きく深呼吸をした。朝の冷たい空気が肺に染み渡る。
この世界が仮想現実空間であるならば、俺が宇宙へ行くのは開発者の想定外なはずだ。想定外なことをやることがバグをひき起こし、この世界を理解するキーになるのだ。そう、これは単なる冒険ではない。真実を追求する探訪なのだ。
俺はアバドンを呼び出した。彼には爆破事件から再生した後、勇者の所在を追ってもらっている。
朝の風が吹き、木々がざわめく中、アバドンの姿が空に現れた。
「やぁ、アバドン、調子はどう?」
俺は手をあげて挨拶する。彼の姿を見て、なぜか少しホッとした。
「旦那様、申し訳ないんですが、勇者はまだ見つかりません」
降り立ったアバドンの声には、歯痒さが混じっていた。
「うーん、どこ行っちゃったのかなぁ?」
「あの大爆発は公式には原因不明となってますが、勇者の関係者が起こしたものだということはバレていてですね、どうもほとぼりが冷めるまで姿をくらますつもりのようなんです」
勇者が見つからないというのは想定外だった。アバドンは魔人だ、王宮に忍び込むことなど簡単だし、変装だってできる。だから簡単に見つかると思っていたのだが……。
「ボコボコにして、二度と悪さできないようにしてやるつもりだったのになぁ……」
俺はこぶしを握り、ギリッと奥歯を鳴らした。
「きっとどこかの女の所にしけ込んでるんでしょう。残念ながら……、女の家までは調査は難しいです」
アバドンは申し訳なさそうに首を傾げる。
「分かった。ありがとう。引き続きよろしく!」
「わかりやした!」
「で、今日はちょっと手伝ってもらいたいことがあってね」
俺は転がっている教会の鐘を指さした。朝日に照らされた鐘が、鈍く輝きを放っている。
大体、3×10の23乗個のパソコンが動かせるくらいらしい。だが、数字がデカすぎて訳が分からない。3億台のパソコンを1億セット用意して、それをさらに1千万倍……。もう頭がついて行かない。
だがまぁ、MAXこのくらいの計算力が出せることは分かった。
で、この世界をシミュレーションしようと思ったら、例えば分子を一台のパソコンで一万個担当すると仮定すると、3×10の27乗個の分子をシミュレートできる計算になる。
これってどの位の分子数に相当するのだろう……? 俺は首を傾げる。
続いて人体の分子数を適当に推定してみると……、2×10の27乗らしい。なんと、太陽丸まる一個の電力を使ってできるシミュレーションは人体一個半だった――――。
俺は計算結果を見て、愕然とした。
つまり、この世界をコンピューターでシミュレーションするなんて無理なことが分かった。究極に頑張って莫大なコンピューターシステム作っても人体一個半程度のシミュレーションしかできないのだ。この広大な世界全部をシミュレーションするなんて絶対に無理という結果になってしまった。
もちろん、パソコンじゃなくて、もっと効率のいいコンピューターは作れるだろう。でもパソコンの一万倍効率を上げても一万五千人分くらいしかシミュレーションできない。全人口、街や大地や、動植物、この広大な世界のシミュレーションには程遠いのだ。
俺は手のひらを眺めた。微細なしわがあり、その下には青や赤の血管たちが見える……。生々しいほどにリアルだ。
拡大鏡で拡大してみると、指紋が巨大なうねのようにして走り、汗腺からは汗が湧き出している。こんな精密な構造が全部コンピューターによってシミュレーションされているらしいが……、本当に?
鑑定の結果から導き出される結論はそうだが、そんなコンピューターは作れない。一体この世界はどうなっているのだろうか?
俺は頭を抱え、深くため息をついた。窓の外では、月が雲間から顔を覗かせている。
この世界の真実は、俺の想像を遥かに超えているのかもしれない……。
俺はギリッと奥歯を鳴らした。
少なくとも今の俺には世界の真実が見えてこない。数式と数字が踊る紙面を俺はパン! と叩いた。
「はっ! そうじゃないとな。女神様、上等じゃないか!」
俺は月に向かってこぶしを突き上げた。分からないからこそ面白い。俺は机に向かい直すと、ノートをめくって新しいページを出した。
「よし、もう一度最初からだ! この世界の仕組みを、絶対に解き明かしてみせる」
決意を新たにして、俺は別の想定で再び計算を始めた。外では、夜が更けていく。しかし、俺の探求心は燃え盛っていた。
◇
世界の解明が一向に進まず、行き詰っていた時、金属カプセルの素材が届いた――――。
鐘とフタになる鉄板と、シール材のゴム、それからのぞき窓になるガラス、それぞれ寸法通りに穴もあけてもらっている。裏の空き地で、朝の柔らかな光が金属の表面を艶やかに照らしていた。
これからこれを使って宇宙へ行くのだ――――。
俺は大きく深呼吸をした。朝の冷たい空気が肺に染み渡る。
この世界が仮想現実空間であるならば、俺が宇宙へ行くのは開発者の想定外なはずだ。想定外なことをやることがバグをひき起こし、この世界を理解するキーになるのだ。そう、これは単なる冒険ではない。真実を追求する探訪なのだ。
俺はアバドンを呼び出した。彼には爆破事件から再生した後、勇者の所在を追ってもらっている。
朝の風が吹き、木々がざわめく中、アバドンの姿が空に現れた。
「やぁ、アバドン、調子はどう?」
俺は手をあげて挨拶する。彼の姿を見て、なぜか少しホッとした。
「旦那様、申し訳ないんですが、勇者はまだ見つかりません」
降り立ったアバドンの声には、歯痒さが混じっていた。
「うーん、どこ行っちゃったのかなぁ?」
「あの大爆発は公式には原因不明となってますが、勇者の関係者が起こしたものだということはバレていてですね、どうもほとぼりが冷めるまで姿をくらますつもりのようなんです」
勇者が見つからないというのは想定外だった。アバドンは魔人だ、王宮に忍び込むことなど簡単だし、変装だってできる。だから簡単に見つかると思っていたのだが……。
「ボコボコにして、二度と悪さできないようにしてやるつもりだったのになぁ……」
俺はこぶしを握り、ギリッと奥歯を鳴らした。
「きっとどこかの女の所にしけ込んでるんでしょう。残念ながら……、女の家までは調査は難しいです」
アバドンは申し訳なさそうに首を傾げる。
「分かった。ありがとう。引き続きよろしく!」
「わかりやした!」
「で、今日はちょっと手伝ってもらいたいことがあってね」
俺は転がっている教会の鐘を指さした。朝日に照らされた鐘が、鈍く輝きを放っている。
60
お気に入りに追加
336
あなたにおすすめの小説
転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜
MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった
お詫びということで沢山の
チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。
自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?
夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。
気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。
落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。
彼らはこの世界の神。
キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。
ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。
「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」
転生して異世界の第7王子に生まれ変わったが、魔力が0で無能者と言われ、僻地に追放されたので自由に生きる。
黒ハット
ファンタジー
ヤクザだった大宅宗一35歳は死んで記憶を持ったまま異世界の第7王子に転生する。魔力が0で魔法を使えないので、無能者と言われて王族の籍を抜かれ僻地の領主に追放される。魔法を使える事が分かって2回目の人生は前世の知識と魔法を使って領地を発展させながら自由に生きるつもりだったが、波乱万丈の人生を送る事になる
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。
モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。
日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。
今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。
そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。
特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる